今、世界中で導入が進む「エネルギー大規模貯蔵システム」に欠かせない6つの技術

エネルギー(再エネ・化石燃料etc.)

近年では世界中で「脱炭素化」の重要性が説かれており、日本でも「2030年までに脱炭素社会を実現させる」という目標が掲げられています。
脱炭素社会を実現するためには、化石燃料に代わって再生可能エネルギーが主要エネルギーとなることが望ましいとされています。

しかし、太陽光発電や風力発電は天候によって発電量が左右されるという弱点があります。
この弱点をカバーするためには、発電できるときに沢山発電した電力を蓄えておける貯蔵システムが欠かせません。

そんな中、近頃はアメリカ、中国、ヨーロッパ諸国などの先進国を中心に、大規模なエネルギー貯蔵システムの導入が進んでいます。
そこで今回は、エネルギーの大容量かつ長期貯蔵に欠かせない6つの技術について解説していきます。

リチウムイオン蓄電

リチウムイオン電池は、住宅、オフィス、工場に至るまでさまざまな場所で活用されている、私たちにとって最も身近と言っても過言ではないエネルギー貯蔵システムです。
特に家庭においては、太陽光発電システムと併用する蓄電池として知られています。

リチウムイオン電池は性能が高い反面、サイクル回数が制限されており劣化しやすいため、大規模な貯蔵システムに活用されることは多くありませんでした。
しかし技術が発達した近年では、再エネ発電の系統安定化や送電線の高効率活用を実現する手段として、少しずつリチウムイオン電池による大容量蓄電システムの導入が進みつつあります。

水素貯蔵

水素は水の電気分解によって製造されるエネルギーです。
水素は非常に軽いため、貯蔵する際は以下のいずれかの方法を使います。

➀高温で圧縮
②低温で液化
③金属に吸着させる
④他の物質に変換する

このうち最も一般的な方法は、➀の「高圧で圧縮」です。
貯蔵した水素は、必要に応じて燃料電池に変換することができます。

水素は地球上のさまざまな物質から作ることができることから、次世代のクリーンエネルギーとして期待されています。
バイオマスなどを利用して水素を作れば、化石燃料の枯渇問題を解決できる可能性もあるとされています。
そのため近年では、水素の貯蔵システム確立に取り組む国や企業が増えています。

たとえばアメリカのネクステラエナジー社は、同社が保有する太陽光発電システムを利用して水素を製造するプラントを2022年に建設する計画を掲げています。
そこで作られた水素の一部は、他社の発電所において、天然ガスの代わりに燃料として活用される予定です。

揚水発電

「揚水発電なのに貯蔵技術?」と思う方もいるかもしれませんが、その疑問は揚水発電の仕組みを知ることで解決します。

通常、電力需要は日中に増加し、夜間や休日の日中などは減少するため、発電所では余剰電力が発生してしまいます。
揚水発電では、この余剰電力を使って夜間に下部貯水池から上部貯水池に水を汲み上げ、電力需要が多い日中に下部の貯水池に水を落としてタービンを回し、電力を生み出します。
夜分に利用する余剰電力は、近くの電力会社から融通してもらうか、併設された太陽光発電システムの発電分を活用するなどのパターンがあります。
このように、揚水発電システムは需要に応じて電力を生む「発電源」であるとともに、水を貯える「貯蔵システム」でもあるのです。

揚水発電は、最も古い再エネ発電技術かつエネルギー貯蔵技術でありながら、いまなお世界中で幅広く導入されています。
米国エネルギー省によると、2019年の世界全体のエネルギー貯蔵のうち、158GW以上を揚水発電が占めていたことが分かっています。

このうち大半は、日本、韓国、中国、インド、アメリカ、ヨーロッパ諸国が保有している容量が占めています。
中でもアメリカは、多くの大規模揚水発電システムを保有しています。
なお、北米や中南米などの地域では多くの水力発電システムが導入されているものの、ほとんどの発電所は揚水貯蔵設備を導入していないのが現状です。

国際エネルギー機関(IEA)が2020年に発表した報告書によると、2025年までにヨーロッパで新設される水力発電システムの多くは揚水発電システムになる見通しです。
また、近年再エネ分野で急成長を遂げている中国も、2025年までに多くの揚水発電システムを新設する見通しです。

★2022年3月23日追記
2022年3月16日に福島県沖で発生した最大震度6強の地震の影響で、東京電力管内は2022年3月22日、深刻な電力供給不足の危機に瀕しました。
これを受け政府は異例の「電力需給ひっ迫警報」を発表し、一部地域では停電の可能性も懸念されていましたが、結果的には揚水発電を活用したことによって大規模な停電は回避することができました。
これは、まさに揚水発電システムが「発電源」と「貯蔵システム」両方のポテンシャルを発揮した事例だと言えるでしょう。

熱エネルギー式貯蔵(蓄熱)

熱エネルギー式貯蔵(蓄熱)は、再エネ発電システムからの余剰電力や廃熱などを需要時に備えて貯蔵し、後に再利用する技術です。
例えば、日中に集めた太陽熱を蓄えて夜間の冷暖房に利用するなどの方法があり、主に工場施設や物流施設などに導入されています。

熱エネルギーを蓄えられる物質には、水や氷、そして砂や岩などがあります。
代表的な蓄熱媒体としては、ビルやマンションの屋上に設置されている貯水槽があります。

熱エネルギー式貯蔵は、近年「最もクリーンかつ効率的な貯蔵技術」として注目を集めています。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が2020年に発表した報告書によると、2019年時点では世界全体200GWh程度だった熱エネルギー式貯蔵の容量は、2030年には800GWh以上にもなると予想されています。
実際、2021年の熱エネルギー式貯蔵の市場規模は世界全体で37億米ドルにも達しており、着実に拡大していることが分かっています。

液化・圧縮空気エネルギー貯蔵

液化空気エネルギー貯蔵は、余剰電力を利用し空気(大気)を冷却して液化空気にし、タンクに貯蔵する技術です。
発電の必要が生じた時は液化空気を加熱して気化させ、膨張するエネルギーでタービンを回して発電します。
同じようなシステムとして、空気を圧縮して貯蔵する「圧縮空気エネルギー貯蔵」があります。

液化・圧縮空気エネルギー貯蔵システムは長期間の電力貯蔵に適しており、充放電時の需給調整に加え、系統安定化にも役立ちます。
そのため、気候に左右される不安定な電源である再エネ発電と組み合わせることで、化石燃料による火力発電所の代替システムとなります。
導入コストも比較的低いため、近年着実に導入数が増えています。

たとえば、アメリカ国内で太陽光発電システム累計導入数のトップを誇るカルフォルニア州では、大規模な圧縮空気エネルギー貯蔵システムの本格導入が検討されています。
実現の際には、カナダの企業であるハイドロストアが独自開発した最新のシステムが導入される予定です。

フライホイールエネルギー貯蔵

フライホイールエネルギー貯蔵は、回転運動の力を利用してエネルギーを貯蔵する技術です。
ローターを高速で回転させて生まれたエネルギーを蓄えておき、必要な時に電力に変換させる仕組みです。

液化・圧縮空気エネルギー貯蔵やフライホイールエネルギー貯蔵のように必要時にエネルギーを供給するシステムは、総じて「機械的エネルギー貯蔵」と呼ばれることもあります。
フライホイールエネルギー貯蔵は、

・充電と放電を頻繁に行っても劣化が少ない
・メンテナンスがいらない、回転数の制限がなく長寿命
・廃棄時の環境負荷が少ない


などのメリットがあります。
近年では、輸送分野から宇宙分野まで幅広く導入されています。

グローバルインフォメーションの調査によると、2020年のフライホイールエネルギー貯蔵の市場規模は3億米ドル以上に達していることが分かっています。
2026年までには、ここから約7%成長する見通しです。

まとめ

脱炭素社会を実現するためには、再エネ発電システムの導入だけでなく、それに伴うエネルギー貯蔵システムの導入にも着目する必要があることが分かりましたね。
今後、エネルギー貯蔵システム市場はどのように広がっていくのか、引き続き注目していきたいと思います。

参考URL:再生可能エネルギー2020(IEA)
参考URL:電力貯蔵技術と再生可能エネルギー:2030年に向けたコストと市場(IRENA)
参考URL:再生可能エネルギーを貯蔵するための4つの技術(世界経済フォーラム)

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