総務省は先日、「太陽フレア」発生時の被害想定と対策をまとめた報告書案を発表しました。
これは、太陽活動が活発になると想定されている2025年7月頃に備えての発表です。
会議では、100年に1回起きるとされる大規模な太陽フレアが2週間連続で起きた場合の「最悪シナリオ」として、スマートフォンの通信障害、航空機の運航抑制、広範囲に及ぶ大規模停電などが挙げられました。
これらの被害を最小限に抑えるべく、総務省は今後対策強化に向けた取り組みを進めていくとしています。
今回の発表はあくまでも想定ですが、いずれにせよ大規模な太陽フレアが私たちの生活に影響を及ぼすことはほぼ間違いありません。
いざという時の心構えをしておくためにも、今回は太陽フレアとは何か、なぜ太陽フレアが私たちの生活に影響を及ぼすのかなどについて解説していきます。
太陽フレアとは?
太陽フレアとは、太陽の表面で起こる爆発現象のことです。
爆発する様子が火炎(フレア)のように見えることから太陽フレアと呼ばれていますが、「太陽面爆発」と呼ばれることもあります。
太陽フレアが発生すると、太陽の表面からはX線やガンマ線などが大量に放出されるほか、太陽コロナ中のプラズマが突発的に噴出する現象「コロナ質量放出」が起こります。
これらが放出される際の威力は、水素爆弾10万個~1億個と同程度だと考えられています。
なお、太陽フレアの威力はX線強度によって5段階に分類されており、低い方からA、B、 C、 M、 Xとなっています。
Xクラス級の大規模な太陽フレアが発生すると、爆発的に放出されたエネルギーが「太陽嵐」となって地球に到達します。
太陽嵐が到達するメカニズムについては、次の章で解説します。
太陽嵐が到達するメカニズム
太陽嵐は、大きく3段階に渡って地球に到達します。
まず初めに、「X線や電磁波」がわずか8分程度で到達します。
到達後は人工衛星や飛行機の無線などに通信障害が発生し、地図アプリに使用されているGPSの精度も落ちるとされています。
次に、30分~数時間かけて「放射線」が到達します。
国際宇宙ステーションに宇宙飛行士がいた場合、放射線の影響を受けない室内に避難しないと被ばくしてしまう可能性があります。
最後に、2~3日かけて「プラズマやコロナガス」が到達します。
到達後は磁気嵐によって地球を取り囲む磁場が大きくかき乱され、北欧などではオーロラが出現する一方で、発電施設や電力機器には重大な障害が発生する場合があります。
専門家によると、この3波目による影響が最も深刻であるとされています。
太陽フレアが社会へ及ぼした実際の影響については、次の章から解説していきます。
過去、太陽フレアが社会に及ぼした影響
1859年
1859年9月1日に観測された太陽フレアは、当時の記録上最大の磁気嵐「キャリントン・イベント」を発生させ、北欧やアラスカはもちろん、ハワイ、カリブ海沿岸などの普段オーロラが見えないはずの地域にもオーロラを出現させました。
人々が美しいオーロラに見とれる一方で、ヨーロッパおよび北アメリカ全土の電力システムは壊滅的な状態に陥りました。
通信用の鉄塔からは火花を発し、当時まだ普及途中だった電信機器は回路がショートし火災が発生したそうです。
1989年
1989年3月、Xクラスの大規模な太陽フレアが発生したことによって地球は深刻な磁気嵐に見舞われ、世界各地の社会インフラに甚大な被害を及ぼしました。
アメリカでは気象衛星「GOES」との通信が途絶えたことによって気象データが消失し、NASAのTDRS-1衛星では、プラズマによって引き起こされた数百もの電子部品異常が確認されました。
また、同じくNASAが所有していたスペースシャトル・ディスカバリー号では、水素タンクのセンサーが異常なほどの高圧を示しました。
カナダのケベック州一帯では、ハイドロケベック電力公社の電力系のすべてが破壊され、大規模な停電が発生しました。
停電はなんと9時間も続き、約600万人の生活に深刻な影響を及ぼしました。
この大停電以降、ハイドロケベック社は様々な被害緩和策に取り組むようになり、NASAやNOAA(米国海洋大気局)では宇宙天気予報の研究が進められるようになりました。
2003年
2003年10月に発生した太陽フレアは観測史上最も激しく、数十にも及ぶ人工衛星や惑星探査機が一瞬にして機能障害に陥りました。
後日行われた復旧作業によって大半は正常に戻りましたが、いくつかの計測機器や実験機器は完全に故障してしまったそうです。
また、この太陽フレアによってスウェーデンでは1時間の停電が発生し、約5万人が影響を受けました。
2012年
2012年7月に発生した太陽フレアから放出された太陽嵐は、1859年のキャリントン・イベントと匹敵するほどの威力を持っていました。
後の調査によると、この時の太陽嵐は地球の軌道上を通っていたことが分かっており、発生があと数日遅ければ地球に直撃していたと言われています。
幸い軌道からは免れたものの、もし直撃していれば世界中で未だかつてない規模の通信障害や停電が起こっていたかもしれません。
2012年当時は「人類滅亡説」が巷を騒がせていましたが、実際に危機一髪の状況になっていたと思うと何だかゾッとしますね。
大規模な太陽フレアはいつ起こる?
太陽フレアがいつ頃起こるのかを予想するには、太陽活動の周期を知っておく必要があります。
まず、太陽は活発な時期と大人しい時期をおよそ11年周期で繰り返しながら活動しており、最も活発な時期は「極大期」、最も大人しい時期は「極小期」と呼ばれています。
極小期には黒点が減り、磁力が弱くなることで太陽活動が停滞します。
反対に極大期には黒点が増えて磁力が強まるため、黒点付近で太陽フレアが起こりやすくなるとされています。
1755年以来、太陽活動の周期には番号が付けられており、極小期から次の極大期までを「1周期」として数えています。
前回の周期である第24周期は2008年12月に開始し、2014年4月に極大期を迎え、その後は再びゆっくりと大人しくなっていきました。
そして2020年9月、NASAとNOAAによる国際的な専門家グループ「太陽活動第25周期予測パネル(The Solar Cycle 25 Prediction Panel)」は、太陽活動が2019年12月頃より第25周期に突入したことを発表しました。
調査によると、第25周期の極大期は2025年7月頃になると予測されており、大規模な太陽フレアが起こるとすればこの時期だろうと考えられています。
太陽活動の活発化は既に始まっており、2022年2月頃からは連日のようにコロナ質量放出が観測されています。
同年2月3日には、スペースX社の人工衛星「スターリンク」49基が打ち上げられましたが、太陽嵐の影響で40基を喪失する事態となっています。
2月15日にはXクラス級相当の太陽フレアが観測され、幸い地球は大きな影響を受けなかったものの、次に発生したら磁気嵐が地球に直撃する可能性もあると懸念されています。
太陽フレアによる被害を抑えるための対策とは?
冒頭で紹介した総務省の被害想定を受け、政府は大きく分けて2つの対策を掲げています。
まず1つ目は、「警報の強化」です。
政府は、行政や企業に向けた太陽フレア警報の基準を6月までに取りまとめ、かつ今年度中に正式な制度として創設することを目指すとしています。
具体的には、通信・放送、電力、衛星などそれぞれの分野に基準を設け、状況に応じて「通常」「注意報」「警報」といった段階ごとに情報を発信することが検討されています。
2つ目は、「宇宙天気予報の精度向上」です。
日本では2019年より24時間体制で宇宙天気の監視が行われていますが、現時点ではあくまでも太陽フレアの規模など「物理現象」の観測にとどまっており、太陽フレアが地球に及ぼす「具体的な影響」の予測についてはまだ不十分であると指摘されています。
これに対し政府は「宇宙天気予報士」と「宇宙検定」に関する専門組織を編成し、宇宙天気予報の精度向上に努めると発表しています。
まとめ
人間には止めようのない太陽フレアですが、ライフラインに影響が生じるのだけはなるべく回避したいものです。
2025年までには今以上に対策が強化され、太陽フレアによる影響が少しでも抑えられることを願いたいですね。
参考URL:太陽の爆発現象「太陽フレア」活発に 社会インフラに影響も…(NHK)
参考URL:太陽フレアなど宇宙天気による社会への影響を評価(NICT-情報通信研究機構)
参考URL:宇宙天気による社会システムへの影響例(NICT-情報通信研究機構)
参考URL:宇宙天気の科学(JAXA-宇宙航空研究開発機構)
参考URL:2022年2月の太陽活動(国立天文台 太陽観測所)