私たち人間だけでなく、すべての生物が生きていくうえで欠かせない存在である海。
そんな海にはさまざまなエネルギーが豊富に蓄えられており、近年ではそれらを環境に優しいエネルギー資源として発電に生かす動きが進んでいます。
今回は、その中でも代表的な5つの発電方法について紹介していきます。
波力発電
波力発電は、その名の通り波のエネルギーを利用した発電方法です。
面積あたりのエネルギーは、なんと風力の5~10倍、太陽光の20~30倍にもなると言われており、その発電効率の高さが注目を集めています。
数ある波力発電の方式として現在最も普及しているのが、「振動水柱型」です。
この方式は、発電装置内にある空気室と呼ばれる場所に海水が流入し、波の上下動によって押し出された空気がタービンを回すことによって発電される仕組みとなっています。
タービンに波が当たらないため故障や腐食が起こりにくく、また台風などによって海が荒れても比較的対応できることから、幅広く実用されている方式です。
主な実用方法としては、航路標識(灯台やブイ)の電源などがあります。
この他には、次のような発電方式があります。
・ジャイロ方式…波の上下動をジャイロ(回転装置)によって回転運動に変換し、発電する方式。
・越波方式…防波堤を超えてきた波と貯留池表面との高低差を利用してタービンを回し、発電する方式。
・可動物体型…波エネルギーを振り子の運動エネルギーに変換し、油圧モーターを回して発電する方式。
日本における波力発電装置の開発研究は1940年代頃から始まっており、1965年には世界初となる波力発電装置「増田式航路標識ブイ」が採用されました。
このように、日本の波力発電研究は世界でも先を行っていましたが、その後はコスト面での苦戦が続いており、幅広い分野で実用化されるまでにはもう少し時間がかかると考えられています。
海洋温度差発電
地球の70%を覆う海の表面は太陽によって常に温められていますが、一方で深層部の海水は10℃以下と温度が低く、その温度差によって海には膨大な太陽エネルギーが生まれていると言われています。
そんな太陽光によって温められた表層海水と、その下の冷たい深層海水との間で生じた温度差を利用した発電方法が「海洋温度差発電」です。
基本的な仕組みとしては、表層海水の熱で作動流体と呼ばれる媒体(アンモニアや代替フロンなど)を蒸発させ、その時に生じる圧力でタービンを回し、発電します。
その後、気化した作動流体は冷たい深層海水によって液化し、再び表層海水による気化装置に供給されます。
なお現在の技術では、表層海水と深層海水との温度差が年間を通して平均20℃程度ある亜熱帯、熱帯地域でのみ適用可能とされています。
あまり聞きなれない発電方法のため比較的新しい技術かと思われがちですが、意外にもその歴史は古く、1881年にフランスの物理学者ジャック=アルセーヌ・ダルソンバールが提唱したのが始まりとされています。
その後、キューバ、ブラジル、インドなどにプラントが建設され、世界各地で断続的に開発研究が進められてきましたが、近年では脱炭素社会に向けた機運の高まりを受け、より一層普及に向けた動きが加速しています。
日本も海洋温度差発電の開発研究に積極的な姿勢を見せており、2012年からは沖縄・久米島にて世界で唯一の海洋温度差発電実証試験設備が稼働開始しています。
潮汐力発電
潮汐力発電とは、月の引力によって生じる潮汐のエネルギーを利用した発電方法です。
潮の干満時における潮位差の大きい河口や湾の入り口などにダムと水門を設置し、満潮時には貯水、干潮時には放水してタービンを回すことで電力を得る仕組みです。
基本的には、水力発電と同じ原理となっています。
潮汐力発電は、年間平均7~8m程度の潮位差がある場所にしか発電装置が設置できないこと、メンテナンスコストが膨大にかかる点などが課題として挙げられています。
とはいえ、太陽光発電や風力発電などと違い天候による影響を受けにくいこと、月や太陽の動きから潮位差を計算できることから、「予測しやすく安定的な再生可能エネルギー」とも言われています。
有名な潮汐力発電プラントとしては、フランスで1966年に建設されたランス潮汐発電所があります。
潮位差が年間平均8mあるランス潮汐発電所は24万kWの容量を有しており、平均出力は6.8万kWとなっています。
世界的に見ても珍しいこの発電所は、観光スポットとしても高い人気を誇っています。
また2011年には、ランス潮汐発電所の24万kWを上回る25万4000kWの容量を有した潮汐発電所が、韓国の始華湖(シファホ)に建設されています。
一方日本では、現在に至るまで潮汐力発電は行われていません。
理由としては、採算ラインの7~8m程度の潮位差がある場所がないことが大きいでしょう。
過去には鹿児島県薩摩川内市の上甑島(かみこしきしま)に発電所を建設する話も持ち上がっていましたが、年間平均潮位差が1.52mと基準に満たなかったため白紙となりました。
このように、日本で潮汐力発電が実用化される見通しは今のところ立っていません。
しかし、今後技術が進んで発電効率の高い潮汐発電装置が開発された暁には、国内初の潮汐発電所が生まれる可能性もゼロではありません。
潮流発電
潮汐によって起こる潮流は、潮の満ち引きによってほぼ規則的に、かつ水平方向に流れるため、近年では潮汐力発電と同様に「予測しやすく安定的な再生可能エネルギー」として注目されています。
そんな潮流の流れるエネルギーを利用した発電方法が「潮流発電」です。
潮流発電の基本的な原理は、海底に設置した発電装置のタービンを潮流の運動エネルギーで回し、電力を生むといったものです。
発電装置のタイプには、風力発電と同様に大きく分けてプロペラ形の「水平軸タイプ」と、ダリウス形またはサボニウス形の「垂直軸タイプ」の2つがあります。
水平軸タイプは発電効率が高いこと、垂直軸タイプは流れの方向に左右されず発電できる点が特徴です。
日本においては1983年に日本大学の研究グループによって、愛媛県今治市の来島海峡でダリウス型発電装置を用いた実証実験が行われ、世界で初めて潮流発電に成功しています。
また、2008年には九州大学の研究グループによって、長崎県平戸市の生月大橋でダリウス形・サボニウス形を掛け合わせた発電装置の実証実験が行われました。
2019年からは、長崎県五島市において環境省による潮流発電技術実用化推進事業が開始し、2021年1月からは国内初となる500kWの大型潮流発電装置を用いた実証実験が行われています。
海洋濃度差発電
海洋濃度差発電は、海の塩水と河川などの淡水との間に生じる塩分の濃度差を利用した発電方法です。
この発電には、大きく分けて「浸透圧発電」と「逆電気透析発電」といった2つの方法があります。
まず「浸透圧発電」とは、淡水が塩水に浸透する際に生じる圧力(浸透圧)のエネルギーで水車を回して発電する方法です。
浸透圧を生じさせるためには、ある容器を塩分は透過せず水分のみを透過する「半透膜」で仕切り、一方に海水、もう一方に淡水を流し込みます。
そうすることで、浸透圧の低い淡水が水分のみ海水に透過する「正浸透現象」が発生します。
次に「逆電気透析発電」ですが、これは海水から塩分を除去するときなどに用いられる「電気透析」という技術を応用した発電方法です。
電気透析とは、イオンを含んだ溶液を陽イオン交換膜と陰イオン交換膜で挟み、両端から電圧をかけることでイオン交換を行い、溶液内の塩分を除去する技術のことです。
逆電気透析発電はこれと逆の動作を行い、海水と淡水から電気を取り出す方法です。
海洋濃度差発電は、他の海洋エネルギー発電同様天候に左右されにくく、世界中の河口で適用可能な点が特徴です。
一方で、浸透圧発電に必要な膜などのコスト面、河口の塩分濃度が変わることによる生態系への影響などが課題として挙げられています。
海洋濃度差発電の研究においてはヨーロッパがリードしており、2009年にはノルウェーで世界初となる浸透圧発電プラントの実証実験が行われました。
また、オランダでは逆電気透析発電の研究が進んでおり、2020年3月には従来に比べて100倍の電力を得ることができるイオン交換膜の開発に成功しています。
日本でも、2011年に東工大・長崎大・協和機電工業による共同研究が行われたり、2019年には山口県大学の研究チームが新たな塩分濃度差エネルギー変換装置を開発したりと、少しずつ実用化に向けた取り組みが進んでいます。
まとめ
今回は、海のエネルギーを利用した発電方法について紹介しました。
これらの発電技術の開発が進んで実用化した暁には、日本全体の電力を100%再生可能エネルギーで賄えるようになるかもしれませんね。
そんな将来への期待を胸に、今後も海のエネルギー利用に注目していきたいと思います!
参考URL:海洋エネルギーとは(佐賀大学 海洋エネルギー研究所)
参考URL再生可能エネルギー技術白書-第6章 海洋エネルギー(NEDO)
参考URL:波力発電システム(国土交通省)
参考URL:海洋温度差発電のしくみ(沖縄県海洋温度差発電実証設備)
参考URL:日本初、500kWの「潮流発電機」が国の審査に合格しました。(五島市)
参考URL:世界最大・始華湖潮力発電所が発電開始(東洋経済日報)
参考URL:浸透圧発電(山口大学 比嘉研究室)