焼酎メーカーが発電事業!?霧島酒造が取り組む「サツマイモ発電」とは

エネルギー(再エネ・化石燃料etc.)

近頃は連日寒い日が続いていますが、お酒好きな人にとっては、熱燗や焼酎のお湯割りが美味しい季節なのではないでしょうか。
焼酎と一口に言っても、そば、麦、芋など種類があり、このうち芋焼酎と言えば「黒霧島」が有名です。

この黒霧島を手掛ける宮崎県津上司の酒造メーカー「霧島酒造」は、伝統を重んじつつも、新しいことに積極的に取り組む姿勢も大切にしている企業です。
近年では、そば焼酎や健康に配慮した健麗酒(けんれいしゅ)など、芋焼酎以外にも多種多様なお酒を製造・販売しています。

そして、その姿勢はお酒造りに留まらず、2014年からは芋焼酎の製造工程で発生した焼酎かすや芋くずなどを利用した「サツマイモ発電事業」にも乗り出しています。

今回は、なぜ霧島酒造はサツマイモ発電事業に取り組んでいるのか、サツマイモ発電で生まれた電気はどのように使われているのか等について解説していきます。

サツマイモ発電事業が始まった背景

霧島酒造が芋焼酎を製造する際、焼酎製造時に発生する焼酎かすは1日およそ850トン、芋の選別時に発生する芋くずは1日およそ15トンにものぼります。

これらは当初「廃棄物」として見なされ、焼却処理するための設備も建設されようとしていましたが、焼却するにも高額な費用がかかることが分かり、結局計画は中止となりました。
何より、焼酎かすや芋くずには豊富な栄養分が含まれていたため、廃棄物ではなく資源として有効活用できる方法について議論されるようになったのです。

その後、一時は豚や牛の飼料や、飼料を栽培する農地に散布する特殊肥料として再利用されるようになりましたが、さまざまなしがらみによってこの方法は長続きしませんでした。

度重なる試行錯誤が行われた末、ようやくたどり着いたのが「エネルギー化」でした。
2006年頃、霧島酒造はリサイクルプラントを建設し、焼酎かすと芋くずから生成したバイオガスを自社工場の燃料として利用するようになりました。

2014年には、バイオガスを電力へと変換する施設が設置され、ここで発生した電力を電力会社へ販売する発電事業がスタートしました。
自社工場だけでは使い切れなかったバイオガスを電力に変えて外部に提供することで、バイオガス利用率を100%に近づけています。

焼酎かすや芋くずから電力が生み出されるまで

霧島酒造の工場には、毎日およそ400トンのサツマイモが運ばれてきます。
その中から傷のついた芋を省いたり、均等に蒸されるよう大きさを揃えたりする過程で、焼酎づくりには使用できない芋くずが発生します。

また、焼酎酵母と麹と水を混ぜて発酵させた「一次もろみ」に芋を加えて発酵、蒸留を行う工程では、焼酎かすが発生します。
芋焼酎の場合、出来上がる焼酎よりも2倍近く多い量の焼酎かすが発生すると言われています。
焼酎かすと芋くずはある程度集められた後、リサイクルプラントへと運ばれます。

リサイクルプラントに運ばれた焼酎かすと芋くずを細かく砕き、微生物の力を使ってメタン発酵させると、バイオガスが生成されます。
生成されたバイオガスは、前述したように燃料として利用し、使い切れなかった分を発電設備で電力に変換しています。

なお、バイオガス抽出後の焼酎かすと芋くずは個体と液体に分けられ、個体は堆肥として地元の農地に還元し、液体は微生物の力で浄化した後下水道へ放流されます。
このように霧島酒造は、焼酎づくりの過程で生まれたものすべてを地域に還すことで、「ゼロエミッション(廃棄物の排出ゼロ)」の達成を目指しています。

サツマイモ発電で生まれた電気の使い道

バイオガスから変換された電力は大半が九州電力に売電され、地域の各家庭に還元されます。
現在は年間およそ850万kWhの電気が生み出されており、約2400世帯分の年間消費電力を支えていることが分かっています。

この画期的な発電事業は開始当初から注目され、2015年度には約1億6,000万円、2019年度には約2億5,500万円の収益を達成しています。
またバイオガスの利用促進によって、霧島酒造が所有する全施設における2020年度のCO2排出量は、2013年度比で約33%削減しました。

これらの成果を受け、霧島酒造は2021年11月24日、「サツマイモ由来のエネルギー活用をさらに進め、同社が所有する全施設におけるCO2排出量を2030年度までに実質ゼロにする」と宣言しました。

そして同じ日、この目標達成に向けた取り組みの一環として、サツマイモ発電で作った電気を利用する電気自動車の「さつまいもEV e-imo(イーモ)」を4台導入したことを発表しました。

e-imoは、まずは地域の人々に親しんでもらうため、霧島酒造が本社を構える宮崎県津城市内を中心に走行し、同社の取り組みを発信する予定です。
また、災害時には市の避難所の電力支援にも活用できるよう準備が進められています。
加えて霧島酒造は2030年度までに、同社が所有する自動車約130台を電動車に切り替えることを発表しています。

その他、霧島酒造が取り組むさまざまな環境保全活動

サツマイモ発電の他にも、霧島酒造はさまざまな環境保全活動に取り組んでいます。
ここでは、具体的にどのような取り組みを行っているかについて見ていきましょう。

森林保全活動

2010年、霧島酒造は宮崎県が推進している「企業の森林づくり事業」に参加し、都城市山田町の6ヘクタールの市有林を使って植林活動を開始しました。
社員らの手によって生い茂っている竹や雑草が伐採され、それらに代わるケヤキやクヌギなどの広葉樹が植林されました。
植林後は豊かな森林を守るため、定期的に下草刈り作業が行われています。
この市有林は、地域の子供たちに自然の大切さを教える自然学習の場にもなっています。

また、霧島酒造は2004年よりNPO法人「1000年の森をつくる会」の植林活動にも賛同しており、どんぐり株の購入・寄付や植樹会への参加を行っています。
毎年、会社や社員がどんぐり株を購入し、これが植林や森を維持するための資金として寄付されます。
また、2018年3月に行われた植樹会には社員とその家族が約170名参加しています。

廃棄物の分別・回収

事務所、工場、直営レストランから出る生ゴミを肥料化している他に、紙パックを固形燃料にリサイクルして活用するなど、棄物の分別・回収活動にも積極的に取り組んでいます。

蒸留時に発生する温排水の再利用

焼酎製造時に排出される温排水をボイラー給水に再利用することで、水の消費量と燃料の消費を低減しています。
その他、製品輸送用パレットや工場内設備の洗浄、冬場に使われる工場内の暖房にも温排水が再利用されています。

太陽光発電

霧島酒造はサツマイモ発電だけでなく、太陽光発電にも取り組んでいます。
本社増設工場にソーラーパネルを設置し、1時間あたり最大100kWの発電を行っています。
発電した電気は、自社工場で利用しています。
将来的には、サツマイモ発電、太陽光発電、外部から調達した再エネを上手く組み合わせ、脱炭素化を目指すとされています。

『黒霧島720ml』瓶の軽量化

霧島酒造は2015年11月より、『黒霧島720ml瓶』の重量を10%軽量化しています。
これは環境に配慮した資材開発の一環であり、ガラス使用量、製造時・輸送時における二酸化炭素排出量を削減するという狙いによるものです。

軽量化瓶は、強度やデザインはそのままに1本あたり50gが削減されています。
6本入りの1ケースの場合、およそ300g軽くなるため、持ち運び時の作業負荷の軽減も実現しています。

輸送手段のモーダルシフト化

「モーダルシフト」とは、CO2排出量の多いトラック等の自動車で行われている輸送を、環境負荷の低い鉄道や船舶による輸送に切り替えることです。
霧島酒造はモーダルシフト化を積極的に進め、2016年にはエコレールマーク(※)を取得しています。

※エコレールマーク…CO2排出量の少ない輸送に取り組む企業や商品に贈られる環境ラベル

まとめ

霧島酒造がサツマイモ発電をはじめとしたさまざまな環境保全活動に取り組む理由は、「地元の豊かな自然を守りたい」という真摯な想いに尽きることが分かりましたね。

今度、黒霧島を嗜む時は、霧島酒造の取り組みについて思い馳せてみてはいかがでしょうか。

参考URL:霧島酒造「サツマイモ発電」(2021年12月1日)
参考URL:環境省「サツマイモ発電で循環サイクルを確立」(2021年12月1日)

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