太陽光発電システム導入における恩恵の一つに「発電した電気を売電できる」というものがありますが、肝心の売電価格は10年前に比べ大幅に下がっています。
具体的な数字で言うと、2009年には1kWhあたり48円だったのに対し、2019年にはなんと半額の24円(※)まで下がっています。
これは一気に暴落したというわけではなく、設備そのものの低価格化や急激な普及による出力抑制に合わせ、年々緩やかに下がっていった結果と言えるでしょう。
とはいえ、やはりこの数字だけを見ると「下がり過ぎていて不安…」と感じる方もいるかもしれません。
売電の仕組みについて理解を深めるためにも、今回は住宅用太陽光システムにおける売電の歴史、そして売電価格の推移を辿っていきましょう。
※出力制御対象地域の場合は26円。
出力制御対象地域…電気需要を大きく上回る発電量が出てしまうため、電力会社が意図的に出力制御している地域
売電の歴史
売電制度の制定は2009年
売電制度が正式に日本で採り入れられたのは2009年11月となっています。
制度の正式名称は「余剰電力買取制度」と言い、家庭で使いきれなかった電気を電力会社に売ることで、再生可能エネルギーの普及率が上がることを目的としたのが始まりです。
先進国ではスペイン、ドイツに続く形で日本もこの制度を導入しました。
実は、住宅用太陽光発電システム自体は1993年には日本での販売が開始しており、1994年度には補助金制度もスタートしています。
それでも中々普及が進まなかったのは、補助金が出るとはいえ、やはり当時の太陽光発電設置費用が今よりも高額だったことが主な原因でしょう。
よほど技術や環境に興味が無い限り、一般家庭で設置するというケースはあまり多くありませんでした。
ちなみにこの補助金制度は、2006~2008年の間に一度廃止され、その後また復活しています。
住宅用太陽光発電システム普及のきっかけとなった「FIT法」
中々設置が広まらない住宅用太陽光発電システムでしたが、前述の余剰電力買取制度が生まれたことをきっかけに、加速的に普及していくことになります。
そして、より大々的な普及への後押しとなったのは、2012年に発足した「固定価格買取制度」(通称FIT法)です。
これは、太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーを利用し発電した電気を、一定期間一定価格で電力会社が買い取ることを国が約束する制度です。
期間は発電方法によって異なり、住宅用太陽光発電の場合は設置後10年間が該当します。
固定買取価格は設置年度の導入費用や全国の普及率を参考に、設置者に利益が出るよう経済産業省が算出した数字が設定されます。
この時に設定された価格は、期間中に変動することはありません。
例えば設置した翌年度に買取価格が大幅に安くなったとしても、設置した年度の価格のまま売電することが可能となっています。
この制度により、初期費用の高さがネックと言われてきた住宅用太陽光発電も、長期的に見ればコストの回収が見込めるようになりました。
「自家発電への興味」「投資目的」など、より身近な理由で設置する方が増えてきたのもこの頃です。
また、2009年頃に比べ2012年頃の設置費用が大幅に安くなっていたという点も、住宅用太陽光発電システム普及の一つのきっかけと言えるでしょう。
太陽光発電ユーザー間で噂されていた「2019年問題」とは?
日本で正式に売電制度が施行された2009年から10年目の2019年を目前に、設置者の一部ではとある噂が囁かれ始めました。
2012年に施行されたFIT法ですが、売電制度制定年の2009年に売電を始めたユーザーは、2019年までの10年を固定価格買取期間と定められていました。
この期間が終わった後の売電システムは一体どうなるのか、そもそも売電自体を継続できるのかという点は、渦中のユーザーにとって大きな不安の種となったのは言うまでもないでしょう。
これがいわゆる「2019年問題」であり、この件は同年の春頃になっても先行き不透明な状態が続いていました。
最終的には期間が過ぎても売電は可能であるものの、買取価格がやや下がるという結論に落ち着きました。
2019年に買取期間が終了した設置者向けの買取価格は、各大手電力会社の場合1kwhあたり7円~9円となっています。
FIT法適用期間終了後の買取価格下落については、この先の項目で詳しく説明していきます。
売電価格のこれまでとこれから
売電価格の推移
前章では正式な売電制度が日本で施行されたのは2009年と述べましたが、この制度が発足する以前から、電力会社は個々の発電所から自主買取をしていました。
しかしその頃の売電価格は現在と同じく1kWhあたり24円だったため、
当時の方が今よりも膨大設置費用が必要だったことを考えると、
世間にはさほど魅力的な制度とは映らなかったようです。
そして、売電が正式に制度化された2009年には48円まで跳ね上がり、FIT法が施行された2012年には42円に再設定されました。
その後の売電額の推移は以下になります。
一般的に、住宅用太陽光発電システムで売電可能な電気量は10kW未満か或いは10kW~50kWなため、ここではその2パターンの売電額に絞って見ていきましょう。
★2014年以降の売電推移表(1kWh/円)
年 | ~10kWh ※税込 | 10kW~50kW ※税抜 |
2014年度(H25) | 37円 | 32円 |
2015年度(H26) | 33(35)円 | 29円(7月以降は27円) |
2016年度(H27) | 31(33)円 | 24円 |
2017年度(H28) | 28(30)円 | 21円 |
2018年度(H29) | 26(28)円 | 18円 |
2019年度(H30~R1) | 24(26)円 | 14円 |
2020年度(R2) | 21円 | 13円 |
2021年度(R3) | 19円 | 11円 |
※()内は出力制御対象地域の場合の数値
年度順に見ていくと、冒頭で述べたように一気に低価格化しているわけではなく、徐々に下がっているということが分かります。
この価格推移は太陽光発電システム自体の低価格化とほぼ比例しているため、「設置にかかる初期費用が高額だったのに売電額が割に合わない!」という損をすることはありません。
実際、2009年頃の太陽光発電システムの初期費用相場が300万円前後だったのに対し、2020年現在では100万円前後と半額以上も安くなっています。
太陽光発電導入全般における価格推移を知れば、売電額の低価格化も順当と言えるでしょう。
売電収入のカラクリは「再エネ賦課金」にあり!
通常、売電費用は電力会社が直接負担していると思われがちです。
しかし、実は固定買取期間中の10年間は、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(通称再エネ賦課金)という名目で各世帯から回収した料金が売電費用として支払われています。
「そんなの知らなかった!」という方は、機会があれば一度電気使用量の徴収票をじっくり見てみてください。
よく見ると、料金内訳の欄に「太陽光促進賦課金」の項目があるのが分かります。
再エネ賦課金は毎月の電気使用量を計算した上で、各世帯に合わせた金額を回収するシステムとなっています。
この回収した分を電力会社でまとめ、売電費用として各設置世帯に分配しているため、FIT法適用中の10年は高額な売電収入が可能になるという仕組みです。
では、固定買取期間の10年が過ぎた後はどうなるのでしょうか。
期間終了後、それまでは国民の再エネ賦課金を発電元に渡す役目を務めてきた電力会社が、そこで初めて直接売電費用を負担することになります。
しかし電力会社自体、電気を作って売ることを目的としているため、売電された電気を高額で買い取るばかりでは、会社としては損失が増える一方です。
固定買取期間終了後に売電価格を下げることで、極力損失を防ぎ利益のバランスをとっていると言えます。
気になる今後の売電価格は?
今後も太陽光発電システムの初期費用が安くなることが予想される一方、それに応じて売電価格も引き続き下がるだろうと予想されています。
政府は最終的には設置コストを20万円前後まで下げることを目標に掲げており、もし達成された場合、売電価格は1kWhあたり11円を切る可能性もあります。
まとめ
年々低価格化が進行する売電価格ですが、その変遷を知ることで、さらなる自家発電の普及に向けた必要な過程を歩んでいるということが分かりました。
売電価格はその年の自家発電普及率などに応じて変わってくるため、しっかり調べた上で設置時期を決めることが重要です。
稀に同年度の中で価格が変わるケースもあるので、常に最新の情報をお客様と共有できるよう、当社も引き続き発信してまいりたいと思います。