私たち人間が活動する上で、二酸化炭素(CO2)をはじめとした温室効果ガスの排出はどうしても避けられません。
そこで生まれたのが、排出量を削減するよう最大限努力しつつ、それでも出てしまうCO2は森林等に吸収させて削減する、「カーボン・オフセット」という考え方です。
そして、このカーボン・オフセットをさらに推し進めるために生まれたのが「カーボン・オフセット制度」です。
今回は、これらの制度の具体的な内容や、各企業によるカーボン・オフセット及びカーボン・ニュートラルに向けた取り組みについて解説していきます。
カーボン・オフセット制度とは
カーボン・オフセット制度は、CO2の削減及び森林等による吸収活動への投資を促進し、カーボンオフセットをより一層深化するべく、環境省が2012年に制定した制度です。
この制度の設立以前は、「カーボン・オフセット認証」と「カーボン・ニュートラル認証」という二つの制度がありました。
まず「カーボン・オフセット認証」は、企業等によるカーボン・オフセット活動が認証基準を満たしていることを、一般社団法人カーボンオフセット協会が確認し認証する制度です。
この認証の特徴は、認証取得に向けた活動のなかで、温室効果ガス排出源のすべてを排出量として算定する必要が無い点です。
また「削減量」ではなく「削減に取り組む姿勢」などで評価されるため、初めて取り組む事業者でも比較的取得しやすくなっています。
次に「カーボン・ニュートラル認証」は、企業や団体等の活動による温室効果ガス排出量が認証基準を満たしているかどうかを、審査機関が検証し認証する制度です。
カーボン・オフセット認証に比べ、認証基準がより厳格な点が特徴です。
これらの制度が、2011年に行われたカーボン・オフセット促進に関する議論を機に統合され、創設されたのがカーボン・オフセット制度です。
その後「カーボン・オフセット第三者認証基準」も制定され、2017年からはこの基準に準拠した認証が実施されています。
認証を取得した暁には、環境改善に貢献できるだけでなく、企業や団体といった組織のブランドイメージを高める効果も期待できます。
参考URL:環境省「カーボン・オフセット制度」(2021年12月)
2.カーボン・オフセット制度の認証を得るには
カーボン・オフセット制度の認証を取得するには、まずはカーボン・オフセット協会へ申請を行う必要があります。
申請書を提出したら、その後審査が行われ、無事認証を取得すると認証番号とラベルを貰うことができます。
認証取得時に発生する費用は、以下の通りです。
・登録申請料…初年度5万円、継続時1万円
・ラベル使用料(年間)大企業10~15万円・中小企業3~5万円
・認証費用…審査機関に個別見積もりを依頼
・コンサルティング費用…企画、算定、申請書作成代行等の個別見積もりを各仲介業者へ依頼
なお、カーボン・オフセット制度の認証には期間が定めらえており、基本的には申請者が認証申請書に記載した認証日から1年以内となります。
この期間中は認証取得の公表をはじめ、認証取得後のカーボン・オフセットに向けた取り組みをアピールしたり、HP等でラベルを使用したりすることができます。
参考URL:環境省「カーボン・オフセット認証ラベル」(2021年12月)
企業によるカーボン・オフセット活動
ここでは、さまざまな分野の企業が実際に行っている、カーボン・オフセット活動について紹介していきます。
参考URL:環境省「カーボン・オフセットの取組事例」(2021年12月)
東芝
大手電機メーカーの東芝は、グループ全体で進めているカーボン・ニュートラル関連の事業活動をより加速させるため、2021年8月1日に「カーボン・ニュートラル営業推進部」を新設しました。
カーボン・ニュートラルを検討する企業に、同社の商材を組み合わせた総合的な提案を行っていく予定だとされています。
参考URL:東芝「「カーボン・ニュートラル営業推進部」の新設について」(2021年12月)
佐川急便
佐川急便は、物流業界で初めてカーボン・ニュートラル認証を取得した企業です。
自動車ではなく台車や自転車などを使用して集配を行う「カーボン・ニュートラル宅配便」を実施した結果、見事CO2排出量ゼロを実現しています。
また、削減が困難な電気使用によるCO2排出量は、佐川林業グループの森林保全活動により創出されたクレジット(※)を利用してオフセットすることでカバーしました。
これらの取り組みが評価され、佐川急便は2017年の第7回カーボン・オフセット大賞で環境大臣賞を受賞しています。
※カーボン・オフセットにおけるクレジット…再エネ発電設備やエネルギー効率の良い機器の導入、森林管理などの取り組みにより実現できた温室効果ガス削減及び吸収量を、決められた方法に従って定量化し取引可能な形態にしたもの。
参考URL:佐川急便「「第7回 カーボン・オフセット大賞」において環境大臣賞を受賞」(2021年12月)
ローソン
大手コンビニチェーンのローソンは、店舗利用者の生活から排出されるCO2排出量の削減を手伝う「CO2オフセット運動」というサービスを提供しています。
このサービスを利用すると、ポイントカードや店舗マルチメディア端末「Loppi」を通して、誰でも簡単にカーボンオフセットに貢献することができます。
CO2オフセット運動には、2021年2月末時点で3,874万人が参加しており、オフセットされたCO2は累計3万トン以上にのぼっています。
参考URL:ローソン「CO2オフセット運動」(2021年12月)
住友林業
住友林業は戸建住宅建築時に発生するCO2を、国内外で植林を行うことによってオフセットしています。
国内には総面積約4.8万ヘクタールの社有林を有しており、パプアニューギニア、インドネシア、ニュージーランドには大規模な産業植林を展開しています。
インドネシアでは、2014年に火災によって植林地の大半を焼失する不運に見舞われましたが、その後再び植林を行い事業継続に取り組んでいます。
このカーボン・オフセット事業は2026年まで続く予定となっており、終了後は樹木を伐採して建築資材として活用し、そこで発生した利益を周辺住民に還元するとともに、次の植林事業資金に充てる予定だそうです。
参考URL:住友林業「資源環境事業」(2021年12月)
CO2削減に向けたもう一つの制度「J-クレジット制度」
CO2削減に向けた制度には、「J-クレジット制度」というものもあります。
J-クレジット制度とは、温室効果ガスの削減や吸収量を、クレジットとして国が認証する制度です。
この制度により生み出されたクレジットは、カーボン・ニュートラル実施計画の目標達成やカーボンオフセット活動など、多様な用途に活用することができます。
たとえば、企業や地方自治体などが省エネルギー機器や再生エネルギーの導入、森林管理などの活動を行うと、「J-クレジット創出者(作成者)」となり、CO2排出削減量や吸収量ごとに相応のJ-クレジットが発行されます。
このJ-クレジットは、「J-クレジット購入者(使用者)」である他の企業などに販売することができます。
参考URL:「J-クレジット制度とは?」(2021年12月)
まとめ
今回は、カーボン・オフセット制度について詳しく解説していきました。
温室効果ガスは目に見えないため、普段の生活の中でその存在を意識することはあまり無いかもしれません。
しかし、今こうしている間にも温室効果ガスは着実に地球に広がり、気候変動を引き起こし、南極の氷を溶かし、多くの生態系を脅かしています。
また気候変動は地球環境だけでなく、人々の貧困や飢餓の原因にもなります。
このような背景から、いまや世界各国では、CO2削減の努力を行わない企業に対して厳しい目が向けられるようになっています。
環境意識の低い企業の製品は、消費者の不買にもつながりかねません。
そんな中で生まれた「カーボン・オフセット制度」は、企業だけでなく消費者の意識も変える、無視できない存在となりつつあります。