皆さんは「クルエルティフリー」という言葉をご存知でしょうか?
日本ではあまり聞き馴染みのないこの言葉ですが、実は欧米や欧州では約50~70年前から知られており、近年ではSDGsを推し進めるための指針の一つとして欧米以外にも浸透しつつあります。
そこで今回は、クルエルティフリーの意味、言葉が生まれた背景、認証マークの種類などについて解説していきます。
クルエルティフリーの意味と歴史
クルエルティフリー(cruelty free)は、直訳すると「残虐性がない」という意味になります。
その意味の通り、クルエルティフリーとは動物保護の観点から、商品の開発や経営活動、市場流通などすべてのフェーズにおいて、「動物実験によって動物を傷付けたり、命を奪ったりしていないこと」を示すラベルを指しています。
この言葉を初めて使用したのは、生涯をかけて動物の権利を守る活動に取り組んでいたダウディング夫人(1908-1993/イギリス)です。
1950年代半ば頃、ダウディング夫人がフェイクファーのメーカーに「ビューティー・ウィズアウト・クルエルティ(残虐性のない美)」というラベルを使用するよう働きかけたことがきっかけとなり、1959年には「ビューティー・ウィズアウト・クルエルティ」が設立されました。
1970年代になると、クルエルティフリーは欧米や欧州に広まり始め、その言葉に込められた思いが浸透するにつれ、消費者の中からも「動物を犠牲にした商品は使いたくない」という声が多く挙がるようになりました。
この流れを受け、1998年にはイギリスとドイツが動物実験の廃止に踏み切り、2013年にはEU全体で「動物実験を行った化粧品の開発、製造、販売」が例外なく完全に禁止となりました。
その後EUに続くように、アメリカではカリフォルニア州、ネバダ州、イリノイ州、バージニア州、メリーランド州、メイン州、ハワイ州、ニュージャージー州の8つの州で同様の法律が作られました。
また、イスラエル、インド、ニュージーランド、台湾、ブラジルのサンパウロ州などでも同様の動きが見られており、いまやクルエルティフリーは世界基準のビジネスポリシーとなっています。
クルエルティフリーが広まった背景
クルエルティフリーが広まった背景には、主に化粧品の開発時に行われている、動物を実験台にした商品の毒性試験の存在があります。
たとえば、シャンプーが目に入ったり、口紅の成分が口から体内に入ったり、日焼け止めクリーム塗った肌が太陽光を浴びたりした時、その化粧品に含まれる化学物質は私たちの身体にどのような影響を及ぼすのか。
これらを調べるための実験台として、ウサギやモルモット、ラットなどの小動物が利用されているのは、残酷なことに紛れもない現実です。
実験台となった動物たちは、化学物質を直接目に注入される、皮膚に塗布されるなどの大きな苦痛を与えられた結果、ほとんどの場合最終的には殺され、廃棄されてしまいます。
動物実験は化粧品に限らず、薬品、食品、日用品など、あらゆる商品の開発現場において行われています。
しかし近年では、「商品を開発するうえで、残酷な実験は不要なものだ」と言った声が動物愛護団体だけでなく、多くの消費者から挙がっています。
この現状に対し、「商品の安全性を調査するためにはやむを得ないのではないか」と考える人もいるかもしれません。
ところが、専門家の間でも「動物実験で得られたデータは決して有効ではない」と疑問視する声は増えているそうです。
というのも、人間と実験に使われる小動物とでは体の構造や代謝機能などに大きな差があり、化学物質に対する反応も異なるからです。
そのため、動物実験を行った結果「人体には安全」と判断されたはずの商品が、後になってから人体だけでなく、環境へも悪影響を及ぼすことが判明したというケースは少なくありません。
このように動物愛護の観点からだけでなく、医学的観点から動物実験に疑問を唱える声も増えていることが、近年クルエルティフリーが広まった理由の一つだと考えられています。
代表的なクルエルティフリー認証マーク
動物実験を一切行わずに開発、製造された商品は、その証として「クルエルティフリー認証マーク」を取得することができます。
一口にクルエルティフリー認証マークと言ってもさまざまな種類がありますが、ほとんどは「うさぎ」をモチーフにしています。
とはいえ「クルエルティフリーな商品を選びたい場合はうさぎのマークを目印にすれば良い」と一概に言えるわけではなく、残念ながら中には偽物の認証マークを掲げている悪質な商品もあります。
偽物に騙されることなく本物の「うさぎ」を見極めるために、ここでは世界的に認知度も信頼度も高いクルエルティフリー認証マークを紹介していきます。
リーピングバニー
リーピングバニーは、世界で最も有名なクルエルティフリー認証マークです。
この認証制度は、動物実験の廃止を求めるためにアメリカとカナダで結成された動物保護団体の「CCIC(Coalition for Consumer Information on Cosmetics/化粧品の消費者情報連合)」が運営しています。
リーピングバニーは、動物実験を行わないメーカーと消費者をつなぐことを目的に立ち上げられたプログラムです。
動物実験を100%行っていないと認められたブランドには、リーピングバニーの認証マークが与えられます。
なお、アメリカとカナダではCCICが、その他の国を拠点とするメーカーは国際的な非営利団体「クルエルティフリー・インターナショナル」が認証を行っています。
リーピングバニーを取得しているメーカーには、ハンドメイド化粧品やバス用品を取り扱っている「LUSH(ラッシュ)」や「THE BODY SHOP(ザ・ボディショップ)」などがあります。
PeTA認証マーク
PeTA(ペタ)認証マークは、世界最大の動物愛護団体「PETA(People for the Ethical Treatment of Animals/動物の倫理的扱いを求める人々の会)」が認証するマークです。
「動物実験を行っていないブランド」に与えられる「クルエルティフリー」と、「動物実験を行っておらず、動物由来成分を使用していないヴィーガンなブランド」に与えられる「クルエルティフリー&ヴィーガン」の2種類の認証マークが用意されています。
IHTK認証マーク
IHTK認証マークは、ドイツを拠点として活動している動物愛護団体「IHTK(化粧品の動物実験に反対する国際製造者協会)」が認証するマークです。 IHTKは、1979年から動物実験を廃止にするための活動を行っている歴史ある団体です。
このマークを取得している化粧品メーカーは、「動物虐待防止のためのドイツ社会」のガイドラインに従って作業を行い、動物実験を全面的に拒否していることを保証されています。
CCF認証マーク
CCF認証マークは、動物実験反対の啓蒙活動を行っているオーストラリアの非営利団体「CCF(CHOOSE CRUELTY FREE)」が認証するマークです。
CCFは自らを「世界的に見ても特に厳格な基準を設けている団体」だと言っており、「Restrictions on animal bi-products(畜産副産物の制限)」という独自の基準を設けています。
この基準は、「その商品を作る過程において、生き物が苦痛を強いられたり殺されたりしてはいけないことはもちろん、食肉など別産業の副産物だとしても動物が犠牲になっている成分の使用を禁止する」という内容となっています。
ただし、ハチミツやミルクなどの使用は許可されているので、「CCF認証マークがついた商品=完全にヴィーガン」というわけではありません。
日本におけるクルエルティフリーに向けた動き
EUやアメリカなどに比べると、日本では国として動物実験を取り締まるシステムが確立していないだけでなく、クルエルティフリーという言葉の知名度自体、まだまだ高くはないのが現状です。
それでも、商品開発における動物実験の廃止を打ち出す国内企業は着実に増えています。
たとえば、大手化粧品メーカーの資生堂は2013年4月から化粧品や医薬部外品の開発における動物実験を廃止しています。
また、大手食品・飲料メーカーのアサヒグループは、2020年2月上旬には日用品分野における動物実験を、2020年6月末には化粧分野における動物実験を全廃しています。
さらに2021年12月末には、食品・飲料分野における動物実験も全廃しています。
このように、今はまだ企業単位での取り組みのみとなっていますが、国際的な動向を考えると、いずれ日本も国としてクルエルティフリーに向き合うべきタイミングが来ると考えられています。
まとめ
日本ではクルエルティフリーに関する情報はまだまだ限られていますが、それでも近年では、クルエルティフリーを打ち出した商品を店頭で見かけることも多くなっています。
今回の記事をきっかけに、クルエルティフリーな商品に目を向ける方が少しでも増えれば幸いです。
参考URL:IDEAS FOR GOOD「クルエルティフリーとは・意味」
参考UR:資生堂「動物実験と代替法に対する取り組み」
参考URL:JAVA「Victory! アサヒグループ、動物実験を食品・飲料では2021年末、化粧品では即時全廃を決定」
参考URL:クルエルティフリードットコム「クルエルティフリー認証マーク4選!国際的に認められたものを厳選」