近年、ファッションや食品などの様々な分野に浸透している「サステナブル」という概念は、建築業界においても広がりつつあります。
とはいえ、建築におけるサステナブルがどんなものかは、中々想像がつきませんよね。
今回は、「サステナブル建築」とは一体どんな建築なのか、建築基準や建築事例などから探っていきましょう。
サステナブル建築の定義とは
まず、サステナブルには「持続可能性(持続可能な)」という意味があります。
サステナブル建築における持続可能性とは、設計から施工、そして実際に建築物として利用するまでのすべての段階で自然、地域、生態系に配慮し、耐久性に優れた建築物を構築することで、長い間運用することを指しています。
そのためサステナブル建築における建築プロセスには、省エネ設備の設置や廃材のリサイクル、温室効果ガスの排出抑制なども含まれています。
また環境面に限らず、地域の伝統文化や周辺環境と調和し、将来に渡って人々の生活の質を維持する建築の構築を目指すことも、サステナブル建築の大切な要素となっています。
サステナブル建築における建築基準とは
サステナブル建築の定義について分かったところで、次はサステナブル建築における建築基準について見ていきましょう。
地球環境へ配慮しているか
サステナブル建築には、地球環境に配慮した建築設計を行うことが求められます。
この基準における具体的な項目は、以下の6つとなります。
➀節電対策・CO2削減対策…石油や天然ガスなどの化石燃料を極力使用しない設計および運用、使用電力量の削減など
②再生可能エネルギーの使用…太陽光や風力といった再生可能エネルギーの活用を推進する設計および運用
③長期利用が可能な建物の設計…長く住み続けられる住宅、または長く利用し続けられるオフィスなどの設計および運用
④「エコマテリアル」の推進…良質でありながら環境や人に配慮した「エコマテリアル」と呼ばれる材料の利用
⑤ライフサイクルマネジメント…建築プロセスを通じ、長い期間有効活用するための改良を続ける
⑥世界基準への対応…世界的な性能評価基準(LEED、Energy Starなど)への対応
地域環境へ配慮しているか
サステナブル建築においては、地球規模の視点から見た環境設計を行うことはもちろん、地域環境に焦点を当てた環境設計を行うことも重要です。
周辺地域の環境に十分配慮することで、地域全体の持続可能な開発を実現させることに繋がります。
この基準における具体的な項目は、以下の6つとなります。
➀地域のヒートアイランド抑制対策…屋上庭園やグリーンカーテンなどの緑化活動など
②動植物への配慮…既存の生態系ネットワークに対する配慮など
③文化・歴史への配慮…地域に古くから根付いた文化、歴史、それにともなう景観への配慮など
④近隣住民の生活や地域利用者への配慮…汚染問題(大気、水質、土壌など)、廃棄物、騒音問題を引き起こさないための配慮など
⑤エネルギーのネットワーク化…地域に最適なエネルギーのネットワーク化を推進(CEMSやスマートグリッドなど)
⑥防災への配慮…地域における自然災害対策の確立やライフラインの確保など
省エネ性と快適性を併せ持つ生活環境へ配慮しているか
サステナブル建築は、省エネ性の高さと快適さを両立させた建築を目指しています。
この基準における具体的な項目は、以下の6つとなります。
➀安全面への配慮…防犯性の高さや平常時の安全性や、地震や台風など災害時の時の安全性への配慮など
②健康面への配慮…温室効果ガスや化学汚染物質、また感染症などが人体の健康に与える影響への配慮など
③快適性への配慮…室内温度、照明、音環境などが快適な建物の設計および運用
④利便性への配慮…エレベーターやエスカレーターの待ち時間や、ネットワーク環境に配慮した建物の設計および運用
⑤空調面への配慮…広さ、色彩、眺望、コミュニティなどに配慮した建物の設計および運用
⑥更新性への配慮…可変性、拡張性、収納性などに優れた建物の設計および運用
サステナブル建築の実例
ここでは、サステナブル建築をより身近に感じるべく、ここからは国内における実際のサステナブル建築例を見ていきましょう。
阪神甲子園球場
阪神甲子園球場は、「日本で最も知られているサステナブル建築」といっても過言ではありません。
1924年にオープンした阪神甲子園球場は、その後「100年を超えて愛されるサステナブルな球場」になることを目指し、2010年にリニューアルされています。
リニューアルの際は、以下の4つのポイントが重視されました。
➀既存の植物(壁面のツタなど)を再利用し、環境保護と新しい価値の創出を両立させる
②太陽光発電システムの導入や、自然換気により、再生可能エネルギーを活用する
③銀傘雨水や井戸水を利用し、貴重な水資源を保護する
④化石燃料や金属などの枯渇性資源の使用量を削減する
これらの項目を重視して設計された阪神甲子園球場は、球場としてはもちろん日本を代表するサステナブル建築として親しまれています。
みなとみらいセンタービル
みなとみらいセンタービルは、みなとみらい駅から直結している複合業務ビルです。
みなとみらいセンタービル設計の際には、主に以下の5つの点が重視されました。
➀耐用性および信頼性の確保
②地域環境への配慮および価値創出
③熱負荷の抑制
④再生可能エネルギーの利用
⑤水資源の保護
これらの点を踏まえ、建築プロセスの中では屋上緑化、節水システムの導入、日射遮蔽効果のあるガラスの使用などが組み込まれ、完成以降みなとみらいセンタービルは「高い事業性と環境性を併せ持った画期的なサステナブル建築」として地域全体の持続可能性をけん引する存在となっています。
箱根ラリック美術館
箱根の市街地と観光地の中間に位置する箱根ラリック美術館は、「地域生態系との調和」を目指して作られたサステナブル建築です。
箱根ラリック美術館設計の際には、主に以下の2つの点が重視されました。
②地域生態系の保全および価値創出…地域に根付いた郷土種への配慮、ビオトープの形成、野生生物の生息地確保など
②景観への配慮…地域の建物や街並みとの調和、地域に関連深い素材の採用、歴史の保護及び継承など
これらの点を取り入れて作られた箱根ラリック美術館は、「自然豊かな美術館」として人気を集め、多くの人が訪れています。
イオンレイクタウン
イオンレイクタウンは、「環境配慮型商業施設の実現」を目指して埼玉県越谷市に作られた大規模なショッピングセンターです。
イオンレイクタウン設計の際には、主に以下の4つの点が重視されました。}
➀「エコストア」の実現…太陽光発電システムの利用、雨水利用、壁面緑化、リサイクル材の利用など
②施設と自然の一体化…ソーラールーパーの設置、駐車場の緑化、水辺空間の形成など
③耐用性および信頼性…災害時などにおける浸水への配慮、熱源種の分散など
④再生可能エネルギーの利用…自動換気システムや再エネ発電システムの導入など
このように、環境保全や快適さ、そして安全性の高さに配慮して作られたレイクタウンには、連日多くの地域住民の方が訪れています。
まとめ
今回は、サステナブル建築の定義や基準、そして実例について見ていきました。
紹介した実例の中には、「この建物もサステナブル建築だったんだ…!」と驚くような建築もあったのではないでしょうか。
今やサステナブル建築の考え方は、それだけ自然に広く浸透しているということでしょう。
また、今回紹介した実例はすべ公共の建物ですが、近年では住宅にもサステナブル建築の考え方が取り入れられるようになりつつあります。
今後サステナブルな建物や住まいが増えていけば、地球環境や地域環境はより一層豊かになることが期待できます。
今度街を歩く時は、「あの建物はサステナブル建築かな?」と少し気にかけながら周囲の街並みをチェックしてみてはいかがでしょうか。
もしかすると、今までとは少し違う景色が見えてくるかもしれませんよ。
参考:サステナブル建築 | 日本建設業連合会