新しいかたちの経済モデルとして、いま世界中が関心を寄せているサーキュラーエコノミー(循環型経済)。
当コラムページの過去のコラムにも度々登場しているこのワードですが、「実はいまだによく分からない…」と思っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「サーキュラーエコノミーとは一体何か」「具体的にはどんな取り組みがあるのか」などについて解説します。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは
サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、「製品、素材、資源を修理やリユースを通して最大限長く活用し、廃棄物の発生を最小限まで抑えることを目指す経済モデル」のことです。
2015年12月に、ヨーロッパ連合(EU)がサーキュラーエコノミーの実現に向けた政策や行動計画をまとめた政策パッケージの公表をきっかけに世界中に浸透しました。
サーキュラーエコノミーのシステムを構築することは、環境負荷の軽減だけでなく、新たな経済価値や雇用機会の創出にもつながると考えられています。
イギリスに拠点を置くサーキュラーエコノミーの推進団体であるエレン・マッカーサー財団は、「サーキュラーエコノミー3原則」として次の3つを挙げています。
・廃棄物を出さない設計
・資源と製品の最大限使用
・自然システムの再生
また、サーキュラーエコノミーには「持続可能な生産および消費形態の確保」や「持続可能な開発のための手段の強化」なども含まれているため、SDGsの達成にもつながると考えられています。
サーキュラーエコノミーが経済に与える影響
サーキュラーエコノミーの市場規模が拡大すれば、人口増加や大量生産、大量消費型の経済システムによる経済損失が防がれ、莫大な市場価値が生まれると考えられています。
2018年に経済協力開発機構(OECD)が発表したデータによると、このままのペースで資源採掘が行われ続けた場合、世界の総資源利用量は2060年には167ギガトンにまで達することが想定されています。
過剰採掘によって資源が枯渇すれば、世界では深刻な環境破壊が進み、経済活動も停滞を余儀なくされていまいます。
しかしサーキュラーエコノミーのシステムを構築し、消費済みの資源や製品を捨てずに再利用すれば、資源の枯渇を防ぐことができると期待されています。 今後10年間で、サーキュラーエコノミーの市場規模は4~5兆ドルにものぼると試算されています。
サーキュラーエコノミーの拡大は、SDGsへの取り組みとビジネスが一体となった新しい潮流を生み出していると言っても過言ではないでしょう。
日本は「サーキュラーエコノミー後進国」?
サーキュラーエコノミーは、主にヨーロッパ各国の取り組みによって発展を遂げてきました。
例えば、ドイツでは2020年から、フランスでは2021年から使い捨てプラスチック袋の製造および販売が全面的に禁止されるなど、ヨーロッパではサーキュラーエコノミーに沿った規制が各国の政府主導のもと進められています。
一方、近年では日本でもサーキュラーエコノミーに対する関心が高まっており、実際にシステムを導入する企業も増えていますが、それでもヨーロッパに比べるとまだまだ遅れを取っているのが現状です。
理由としては、日本は諸外国に比べて環境負荷の高い方法で製造される製品への不買運動などが起こりにくく、環境に配慮した製造・販売に対する企業責任を求める雰囲気も十分に成熟していないことなどが挙げられています。
しかし見方を変えれば、サーキュラーエコノミーのシステムを構築し、拡大させる余地が日本にはまだまだ残されているとも言えます。
サーキュラーエコノミーに対する海外企業の取り組み事例
ナイキ
大手スポーツアパレルメーカーのナイキは、1990年代に使用済みシューズの回収・リサイクルを行う「Reuse-A-shoe」というプログラムを開始するなど、早い段階から環境に配慮した取り組みを進めています。
近年では、CO2と廃棄物の排出量ゼロを目指す「Move to Zero」というプロジェクトを立ち上げ、スポーツや地球環境未来を守るためのさまざまな活動に取り組んでいます。
このプロジェクトによって誕生した「スペースヒッピー」は、工場で出た廃材や再生ポリエステルを原料に取り入れ、ナイキ史上最低のCO2排出スコアで生産されたサステナブルなフットウェアとなっています。
アディダス
ナイキと同じく大手スポーツアパレルメーカーのアディダスは、海岸や海沿いの地域で回収されたプラスチックごみから「PARLEY OCEAN PLASTIC」という素材を生み出す活動に取り組んでいます。
新しく生まれ変わったリサイクル素材は、アディダスが生み出すスポーツウェアの原料として使用されています。
この取り組みは、プラスチックごみが回収される海沿いの地域の雇用創出といった面でも高い評価を得ています。
また2019年からは、接着剤を使わずに単一素材でつくられた100%再生可能なランニングシューズ「FUTURECRAFT(フューチャークラフト)シリーズ」を製造・販売しています。
ユニリーバ
洗剤やバス・トイレ用品などの日用品を扱うユニリーバは、世界共通の成長戦略である「ユニリーバ・コンパス」のもと、2025年までにプラスチック・パッケージを100%再利用可能にする、非再生プラスチックの使用量を半減するなどの取り組みを進めています。
その取り組みの一環として、日本でも人気の高い「ダヴ」や「ラックス」などのボトルには、すべて再生プラスチックが採用されています。
サーキュラーエコノミーに対する日本企業の取り組み事例
ファーストリテイリング(ユニクロ・GU)
世界でも人気の高い日本屈指のファストファッションブランドであるユニクロおよびGUは、全商品をリサイクル、リユースする「RE.UNIQLO」というプロジェクトに取り組んでいます。
RE.UNIQLOでは、購入者が不要になったユニクロ、GUの服を店舗に設置した回収BOXで回収し、リサイクル品として防音材や燃料の素材にしたり、リユース品として難民支援に活用したりといった活動が行われています。
また、近年では服から服へリサイクルする取り組みも進められています。
このほかにも、ジーンズの加工時に使用する水を最大99%削減したり、製造から販売に至るすべてのプロセスで化学物質や有害物質を出さない配慮をしたりするなど、幅広い取り組みを行っています。
ユニ・チャーム
ベビー用品や日用品を扱うユニ・チャームは、使用済み紙おむつを回収し、脱水処理や洗浄などを経て衛生的なパルプとして再資源化する「紙おむつの循環型リサイクル」を実現しています。
再資源化したパルプは、新しい紙おむつの素材として活用される仕組みとなっています。
このシステムを活用すれば、バージンパルプから新たな紙おむつを製造する場合に比べ、温室効果ガス排出量を90%近く削減できるとされています。
同社は、製造や流通工程に生じるCO2の削減などを通して循環型社会の実現を推進する商品を「エコチャーミング商品」と名付け、消費者に対しても環境へ配慮する視点を持つことを推奨しています。
イワタ
創業190年以上の歴史を持つ老舗寝具メーカーのイワタは、2020年よりサステナブルな新ブランド「unbleached」の販売を開始しています。
unbleachedには徹底した「循環型ものづくり」のシステムが採用されており、生地や詰め物などには無漂白、無染色、蛍光増白剤未使用の素材だけが使われています。
漂白、染色を省くことで、水資源や大気への影響を最小限まで抑えることに成功しています。
もし使っていくうちに洗いたくなった場合は、縫い付けられたQRコードにアクセスすれば、水洗いや天日干しなどのお手入れ方法に簡単にアクセスすることができます。
また、年月が経ってへたりを感じた場合は仕立て直しも可能です。
同社はその他に、再生可能エネルギー100%の電力の導入や、不要になった寝具の引き取りや再利用などにも取り組んでいます。
まとめ
サーキュラーエコノミーに対し、日本はまだまだヨーロッパほどの熱量はないかもしれませんが、それでも日本を代表する大企業の取り組みによって、その経済システムは着実に広まりつつあることが分かりました。
元々日本には「もったいない」という言葉があるように、ものを大切に長く使う文化自体は古くから根付いているので、いつかは「サーキュラーエコノミー先進国」になることを期待したいですね。
参考URL:環境省「循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けて」
参考URL:ナイキ「ナイキのサステナビリティへの取り組み」
参考URL:アディダス「PARLEY OCEAN PLASTICとは」
参考URL:アディダス「FUTURECRAFT」
参考URL:ユニリーバ「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン10年の進捗」
参考URL:ユニクロ「UNIQLO Sustainability/THE POWER OF CLOTHING」
参考URL:ユニ・チャーム「図解でわかるユニ・チャーム紙おむつリサイクル」
参考URL:イワタ「unbleached」