「PFOS・PFOA」が深刻な水質汚染を招く?新たな公害を生まないための取り組みとは

環境問題

漏水率が低く、質の良い水を提供する日本の水道システムは、世界に誇るインフラとして知られています。
しかし一方で、河川や地下水では深刻な水質汚染が起こっていると指摘されています。

水質汚染の原因として考えられているのが、PFOS(ピーフォス)PFOA(ピーフォア)という物質です。
どちらもあまり耳慣れない言葉ですが、実はこれらの物質は、私たちがよく知るさまざまな製品に使われていたのです。

今回は、PFOSとPFOAが起こす水質汚染と、それに対する政府の取り組みについて解説していきます。

PFOS・PFOAとは

PFOSは「ペルフルオロオクタンスルホン酸」、PFOAは「ペルフルオロオクタン酸」の略称で、いずれも有機フッ素化合物に分類されています。

有機フッ素化合物は、撥水性や撥油(はつゆ)性が高い、光を吸収しない、薬品に強いなどの独特の性質を持っています。
このことから、PFOSとPFOAはコーティング剤や撥水剤など、過去にはさまざまな用途に使われてきました。
主な用途としては、以下のものが挙げられます。

【生活用品】
・フライパンのテフロン加工
・カーペットの保護コーティング剤

・化粧品
・シャンプー
・ワックス
・界面活性剤
 など

【工業用品】
・泡消火剤
・航空機用作動油 など

ざっと見ただけでも、私たちにとって非常に身近な部分で使われてきたことが分かりますね。

PFOS・PFOAの有害性

汎用性の高さから、幅広い分野で使用されてきたPFOSとPFOA。
しかし一方で、自然界で分解されにくく残留性、毒性が高いという特性も持っています。
PFOSかPFOAが体内に蓄積すると、がんの発症や胎児異常などを引き起こすおそれがあるとされています。

PFOSとPFOAが「環境汚染物質」として問題視されるようになったのは、2000年にアメリカで起こったある出来事がきっかけです(詳細は後述)。
この出来事によって、PFOSとPFOAの有害性は国際的に問題視されるようになり、2001年には「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」、通称「POPs条約」が採択されています。

この条約は、「残留性有機汚染物質(POPs)の減少」を目的として、それらの指定物質の製造・使用の禁止または制限を規定するものです。
POPs条約に基づき、2009年にはPFOSの使用制限(半導体にのみ使用可)、2019年にはPFOAの製造・販売の全面禁止が決定されました。

なお、日本は2002年よりPOPs条約の締結国となっており、PFOSとPFOAの両方を「第一種特定化学物質(難分解性、長期毒性、高蓄積性などを有する化学物質)」に指定するなどの対応をとっています。

PFOS・PFOAが問題視されるようになったきっかけ

PFOSとPFOAが問題視されるきっかけの1つとして知られているのが、2000年に明るみになったアメリカの大手化学メーカー・デュポン社による健康被害です。

フライパンのコーティングなどに使われていた「テフロン」の特許を持っていたデュポン社は、製品の製造過程で大量のPFOAが出ることを知りながら、40年にわたってウェストバージニア州の工場から汚水や廃棄物を川に垂れ流していました。

そのことを知らない住民たちが川の水を飲み水として体内に取り込み続けた結果、腎臓がんや潰瘍性大腸炎といった難病を患う人が続出しました。
またデュポン社の工場付近の牧場では、牛の大量死も確認されていたそうです。

調査の結果、工場周辺の住民たちの血液中のPFOA濃度は、アメリカ人全体の20倍にも達していたことが判明しました。
また、PFOA濃度が高い人は低い人に比べ、前述した腎臓がんや潰瘍性大腸炎に加え、精巣がん、甲状腺疾患、高コレステロール、妊娠性高血圧などの発病リスクが上昇していることも判明しました。

PFOAは血液中に長く残るため、体内に取り込んでから何年も後に影響が出る可能性があると指摘されています。

その後、デュポン社はPFOAの流入による水質汚染を認め、健康被害を受けたとする3,550件の訴訟に対し合計6億7070万ドル(約765億円)の和解金を支払いました。
アメリカの環境保護庁(EPA)はこの事態を重く受け止め、2016年より飲料水の健康勧告値を「1リットルあたり70ナノグラム(70ng/L)」と定めています。
70ng/LはPFOSとPFOAを合算した数値となっており、この程度であれば1日2リットルの水を70年間飲み続けても問題ないとされています。

この一連の出来事が起きて以降、国際社会ではPFOSとPFOAをはじめとした有機フッ素化合物への注目が高まり、近年ではアメリカだけでなく世界各地で水質汚染調査が実施されています。

日本でのPFOS・PFOA調査状況

日本では、2019年よりPFOSとPFOAの全国調査を実施しています。
アメリカが健康勧告値を70ng/Lに設定しているのに対し、日本はそれよりも低い「1リットルあたり50ナノグラム(50ng/L)」を目標値とし、それに基づいて調査を行っています。

環境省が発表している「令和元年度PFOS及びPFOA全国存在状況把握調査の結果について」によると、河川、湖沼、海域、地下水、湧き水を含む171地点で調査を実施した結果、13都府県の37地点で国の暫定的な目標値を超過していたことが分かっています。
このうち最も汚染濃度が高かった大阪摂津市の地下水からは、目標値を大きく上回る1156.6 ng/Lという数値が検出されています。

翌年度は143地点で調査を実施し、12都府県の21地点で目標値の超過が確認されています。
このうち最も数値が高かった大阪府大阪市の地下水からは、目標値よりも110倍高い5500 ng/Lという数値が検出されています。
その他、神奈川県綾瀬市の地下水が1300 ng/L、沖縄県嘉手納町の湧き水が1100 ng/Lという高濃度を記録しています。

また、調査では沖縄県宜野湾市の普天間飛行場や東京都福生市の横田基地など、多くの米軍基地周辺地点から高濃度のPFOSとPFOAが放出されていることが分かっています。
原因としては、日本では2010年から製造・使用が原則禁止されている泡消火剤が、米軍基地内では禁止後も使用されていたことが考えられています。
2020年4月には普天間飛行場から大量の泡消火剤が漏出する事故も発生しており、周辺住民は国に対し、米軍基地への調査と汚染物質対策の強化を求めているのが現状です。

なお、高濃度のPFOSとPFOAが検出された地点の水はいずれも飲料用ではありませんでしたが、環境省は近隣住民に対し地下水などを飲まないよう、改めて勧告しています。

PFOS・PFOAによる水質汚染を改善するための日本の取り組み

地下水や河川からPFOSやPOFAを除去する方法として、近年では多くの水道局で「活性炭浄水」が導入されています。
活性炭浄水とは、活性炭の持つ無数の小さな孔(あな)で水中の有害物質や臭気を吸着する浄水方法です。

アメリカの非営利団体「環境ワーキンググループ(EWG)」によると、イオン交換(水中の金属イオンを無害イオンに交換する技術)や逆浸透膜(不純物を通さない膜)などもPFOSやPOFAの除去に有効だとされていますが、イオン交換はまだ普及しておらず、逆浸透膜は高価なため、現在は活性炭浄水が主流となっています。

今のところ、活性炭による浄水もまだ十分に進んでいるとは言えませんが、各水道局は少しずつPFOSとPOFAの除去範囲を拡大しながら、より効果的な浄化方法の研究および情報収集に取り組んでいます。

まとめ

今回は、PFOSとPFOAは環境だけでなく私たちの健康にも深刻な被害を及ぼすこと、その被害を未然に防ぐべく現在さまざまな取り組みがなされていることを紹介しました。

水は、私たちが生きていくうえで欠かせない存在です。
そんな水の安全性を守るためには、国や専門機関の取り組みはもちろん、私たち一人一人が関心を持ち続けることも大切だと言えるでしょう。


参考URL:有機フッ素化合物(PFOA等)とは(大阪府)
参考URL:有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)について(神奈川県)
参考URL:有機フッ素化合物に係る対応状況等について(沖縄水道局)
参考URL:化学物質“水汚染” リスクとどう向き合うか(NHK)
参考URL:環境省_令和元年度PFOS及びPFOA全国存在状況把握調査の結果について (環境省)
参考URL:令和2年度有機フッ素化合物全国存在状況把握調査の結果について(環境省)

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