現在世界中で深刻視されている海や川などにおける水中ゴミ問題は、水質汚染だけでなく水中生物が誤飲により命を落としてしまうなど、さまざまな危険性をはらんでいます。
そんな中、かねてより度々議論されているにもかかわらず、なかなか根本的な解決に至っていない問題のひとつに「釣りによる水中ゴミ問題」があります。
もちろん、釣りが好きな人全員がこの水中ゴミ問題を引き起こしているわけではありませんが、残念ながら中には環境への配慮を全くせずに釣りを行う不届き者がいるのも事実です。
このような釣りによる水中ゴミ問題が解決しない限り、「釣り=環境負荷の高いレジャー」という印象は深まる一方となるでしょう。
そこで今回は、釣りが原因と考えられる水中ゴミについて学びながら、環境に配慮した釣りの楽しみ方について考えていきたいと思います。
釣り由来の水中ゴミ➀「釣り糸」
現在出回っている釣り糸の原料には、主にナイロンやポリエチレンといった化学繊維が使われています。
元々は麻や絹といった天然由来の原料が主流でしたが、1950年代頃から化学繊維が広く普及したことによって、釣り具業界でも化学繊維が取り入れられるようになりました。
化学繊維は、その強度の高さと価格面の優秀さから重宝され、また釣り人からも「天然素材の釣り糸に比べて大物が釣れる」と人気でした。
しかし、化学繊維は天然素材と違って自然界で分解されないため、もし釣りの最中にプツンと切れてしまうと、分解されることなく水中をいつまでも漂い続けることになります。
そうして水中に残った釣り糸は魚などの水中生物や、その魚を食べようとした鳥などに絡みつき、怪我を負わせることも少なくありません。
また、魚や鳥が誤って呑み込んだことで窒息死してしまう場合もあります。
さらには野生生物だけでなく、水中に潜ったダイバーに釣り糸が絡まったという事例も報告されています。
ここ数年、釣り糸問題は各地で頻発しており、その度に地域住民や漁業関係者からは厳しい視線が浴びせられています。
実際、長年人気の釣りスポットとして知られていた静岡県沼津市の大瀬崎で2020年に一切の釣りが禁止されたように、具体的な措置が取られた事例もあります。
このニュースは当時大きな話題となり、海中に残留した釣り糸などの画像や、それらをダイバーが清掃する様子を映した動画が配信されました。
こういった釣り糸問題に対し、釣り業界も何もしなかったわけではありません。
空前のバス釣りブームが到来した1990年代には、釣り場に大挙した釣り人が水中に釣り糸を残すことを懸念して、「生分解性素材を利用した釣り糸」が発売されました。
これは、水中に残った釣り糸に微生物が付着すると、その働きによって水と二酸化炭素に分解されるという画期的なものでした。
しかし、結局化学繊維よりも強度面で劣ってしまい、釣り人への普及は上手くいきませんでした。
2022年現在、生分解性素材を利用した釣り糸は生産自体ほとんど行われていませんが、釣りをする中で発生した釣り糸くずを回収できる「糸くずワインダー」という商品は販売されています。
今はせめてこの糸くずワインダーを使う人が、一人でも増えてくれることを願いたいですね。
釣り由来の水中ゴミ②「オモリ」
オモリは、エサを付けた仕掛けを沈め、釣りを行う場所の地形やボトム(海底や川底)の位置を確認するための釣具です。
主原料として使われている鉛は、加工がしやすく高比重であることから、昔からオモリ作りの際に重宝されてきました。
しかし、言わずもがな鉛は生物にとっては有害な物質です。
それは野生生物に限った話ではなく、人間も一定量を摂取した場合には中毒症状などの健康被害を引き起こすおそれがあります。
実際、工場から川に流入した鉛が原因で公害が発生したという事例は、日本に限らず世界各国で報告されています。
そのような危険性を含んだ鉛製のオモリを多くの釣り人が水中へと投げ込み、時には水中に残してしまっているのです。
鉛が危険な性質を持っているにもかからず、これまでオモリづくりに重宝された背景には、「鉛は水中ですぐ溶け出すものではない」という長年主流となっている説があります。
しかし、近年研究が進んだことによって、この説の信ぴょう性も薄れつつあります。
また、仮にすぐに溶け出さなくとも岩礁などと摩擦して細かい粒となり、水中生物や鳥の体内に取り込まれる可能性は大いにあります。
さらに長期的に考えた場合、鉛を呑み込んだ魚を人間が食べる可能性もあるのです。
こうした懸念の高まりを受け、釣具業界でも鉛の代わりに「鉄」や「タングステン」を使ったオモリの開発が進められています。
鉄は水中で腐食して水生植物などの養分として吸収される点が、鉛よりも高比重なタングステンは鉛よりもさらに高比重な点が評価され、市場でも定着しつつあります。
ただ、現時点では鉄製もタングステン性も鉛製よりコストがかかるため、まだまだ鉛製からの完全移行には時間がかかると考えられています。
釣り由来の水中ゴミ③「ルアー」
小魚や甲殻類を主に補食している肉食魚を狙う際に使うルアーにはいくつか種類があり、そのなかでグミのような触感のものは広く「ワーム」と呼ばれています。
木や硬質プラスチック、金属を使用したものとは違い、水中で滑らかな動きをするため魚の反応が良いのが特徴です。
幅広い色や形状で作ることができ、なおかつ低価格なため広く普及しています。
しかし、このワームのようなルアーには軟質のプラスチックが主な原料として使われており、それが水中環境を汚染する一因となっています。
釣り糸と同様にプラスチックは化学繊維であるため、自然に分解されることはほぼ不可能です。
そのため、水中に残るとそのまま堆積してしまうのです。
ルアーの水中残留問題については釣り業界も深刻視しており、2000年代初頭には一部メーカーから生分解性ルアーが開発、販売されました。
これは危機意識を持った一部の釣り人からは一定の支持を集めましたが、当時は大々的な普及には至りませんでした。
2021年現在、生分解性ルアーのシェア数は決して多いとは言えませんが、それでも一定の支持を得続けています。
性能自体も販売当初に比べて格段に向上し、プラスチック製と比べても遜色ないレベルとなっています。
今後、世の中の環境意識の高まりとともに、より一層存在感を増していくと考えられています。
釣り由来の水中ゴミ④「釣り用具やエサの包装容器」
釣り場で最も問題となっているのが、ルアーやオモリなどの釣り用具やエサなどが入っていた包装容器です。
これらの大半はビニールやプラスチックから作られているため、やはり自然に分解されることはありません。
また、風や紫外線による劣化で小さく砕けることでマイクロプラスチック問題を引き起こしたり、水中生物がエサと間違えて誤飲したりするおそれがあります。
このように釣り糸やルアーと同様の負荷を水中環境に与えるにもかかわらず、釣り糸やルアーのように直接釣りに関わるものではないため、生分解性素材への移行が中々進んでいないのが現状です。
当たり前のことではありますが、水辺や水中に包装容器のゴミを残さないためには、製品の包装容器は自宅であらかじめ処分しておく、袋入りのエサなどは蓋つきの入れ物に入れ替えて風に飛ばないようにするなど、事前にしっかり対策を取ることが大切です。
まとめ
今回は水辺の環境問題の一因となっている、釣りによる水中ゴミ問題について解説しました。
釣りに限らず、水辺のレジャーを楽しむためには、一人一人が環境に配慮する気持ちを忘れずにいることが大切ですね。
参考URL:
・タカミヤ「釣り場のゴミ問題につきまして」
・東京新聞「<環境視点>海に優しく魚にも優しく エコな釣り具が登場」