日本酒やビールなど、近年ではアルコール業界でもサステナブルな動きが積極的に取り入れられ始めています。
「お酒とサステナブルをどうやって結びつけるの?」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、実は近年の酒づくりには、地球環境をより良くしていくための知恵や努力が沢山込められています。
今回はアルコール業界で行われている、サステナブルの実現に向けた様々な取り組みについて見ていきましょう。
日本酒業界で進む「サステナブルな日本酒づくり」
日本が世界に誇る醸造酒である日本酒は、元来より「米」と「麹」と「水」を原料としたシンプルな生産方法によってつくられています。
しかし近年ではその製造プロセスに、さらに環境へ配慮した視点を組み込んだ「サステナブルな日本酒づくり」が拡がりつつあります。
サステナブルな日本酒づくりでは、主に二つの観点が重要視されています。
まず1つ目は、「環境への還元」です。
農薬や除草剤を使わない「オーガニック栽培」で育てた原料を使用することで、自然環境に配慮した日本酒づくりを実現することができます。
2つ目は、「地元への還元」です。
酒造メーカーの地元で生産されている原料を日本酒づくりに使うことで、地元全体の持続的な生産性の向上を実現することができます。
例として米の名産地である新潟県には、日本酒が1本売れるごとに一定額が地域の稲田に寄付されるシステムを導入している蔵元もあります。
このように売り上げの一部を地域に還元することで、農家側も安定した米づくりを持続することが可能となるのです。
オススメのサステナブルな日本酒
「環境への還元」「地元への還元」などのプロセスを経て誕生したサステナブルな日本酒ですが、気になるのはやはりその「味」ではないでしょうか。
サステナブルな日本酒づくりを支援するためには、私たち消費者が購入することは必要不可欠ですが、せっかく飲むのであればやはり美味しいお酒を選びたいものですよね。
多くのサステナブルな日本酒の場合、まずオーガニックな原料を使用しているというだけで、そうでない日本酒とは一味も二味も違います。
ここでは、その中でも特に人気の高いオススメの日本酒を紹介していきます。
阿部酒造「スターシリーズ」
新潟県の蔵元「阿部酒造」がつくるスターシリーズの日本酒は、「飲むだけで地域に還元できる」というサステナブルな日本酒の先駆け的な存在として知られています。
ワインのような酸味と旨味が特徴で、中でも「ベガ」という日本酒は低アルコールで甘酸っぱい口当たりとなっているため、お酒に飲み慣れていない人にもオススメです。
現在スターシリーズには6種類のラインナップがあり、日本最古の清酒製法をベースにつくられた日本酒からスパークリング清酒まで幅広く用意されています。
★(スター)シリーズ|阿部酒造
寺本本家「なんじゃもんじゃ」
寺本本家は創業340年以上を誇る老舗の酒造メーカーです。
なんじゃもんじゃは、そんな老舗が満を持して生み出したオーガニックな日本酒です。
なんじゃもんじゃには無農薬の米が使用されており、濃厚な旨味と切れ味の良い酸味を兼ね備えた力強い味が特徴です。
水割りで飲むとまろやかな口当たりに変化するため、飲み方によって異なる味を楽しむことができます。
なんじゃもんじゃ720ml|寺田本家
福光屋「禱と稔」
「禱と稔(いのりとみのり)」は、有機認証を受けたブランド米のみを使い、創業390年以上の老舗である福光屋で醸造された日本酒です。
禱と稔には現在3種類のラインナップがあり、それぞれ有機栽培米の「山田錦」「金紋錦」「フクノハナ」が100%使用されています。
有機栽培米ならではの豊かな旨味と品のある香りは、飲み干した後も深い余韻を残してくれます。
各日本酒は酒造の公式オンラインショップから購入することができますが、時期によっては売り切れている可能性もあるため、もし「飲んでみたい!」と思った日本酒がある場合は、オンラインショップをこまめにチェックしておくと良いかもしれません。
禱と稔|福光屋
「責任ある飲酒国際連盟(IARD)」の取り組み
次は、日本酒以外のアルコール分野におけるサステナブルな取り組みも見ていきましょう。
ビール、ワイン、スピリッツ(ジンやウォッカなどの蒸留酒の総称)などを扱う世界の大手酒類メーカー11社による「責任ある飲酒国際連盟(通称「IARD」(アイアード))」は、2018年に「SDGs達成に向けた取り組みをさらに強化し、企業の社会的責任(CSR)を果たしていく」と宣言しています。
IARDに加盟しているメーカーの売上高は、世界中のアルコール飲料市場の80%近くを占めるとも言われているため、この発表はサステナブルな意識を業界全体へ行き渡らせる大きなきっかけとなりました。
2021年5月時点でIARDに加盟しているメーカーは、以下の通りです。
・アンハイザーブッシュインベブ
・アサヒグループホールディングス
・ウィリアムグラント&サンズ
・カールスバーググループ
・キリンホールディングス
・ディアジオ
・ハイネケン
・バカルディリミテッド
・ビームサントリー
・ブラウンフォーマン
・ペルノリカール
・モルソンクアーズ
(五十音順)
SDGsで掲げられている17の目標のうち、IARDを筆頭としたアルコール業界では主に「目標6:安全な水とトイレを世界中に」や「目標12:つくる責任 つかう責任」を達成するための取り組みが進められています。
さらに、「目標3:すべての人に健康と福祉を」の4つ目のターゲットである「アルコール依存症などの非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する」の達成にも意欲的な姿勢を示し、IARDは2020年に「未成年飲酒防止に向けた行動指針」を策定しています。
またIARDに加盟している各メーカーは、環境保護活動にも積極的に参加しています。
具体的には、カールスバーグが100%分解性のボトルを開発、アサヒやキリンはアルコールの製造過程において発生する副産物や廃棄物の100%再資源化を実現させるなど、主にCO2排出量の削減に取り組んでいることが事例として挙げられています。
世界中のアルコール業界が生産から消費までのプロセスの間にもたらす経済効果は、なんと150兆円以上にもなると言われています。
IARDにはその影響力を活用して、社会により良い影響を持続的に与えていくことが期待されています。
究極にエコな酒「エア・ウォッカ」も誕生!
2020年8月、ニューヨークのスタートアップ企業「エア・カンパニー」は、「究極にエコな酒」と謳われる「エア・ウォッカ」の販売を開始しました。
このニュースは一躍注目を集め、日本でも大きな話題となったのは記憶に新しいのではないでしょうか。
エア・ウォッカの原料はたった2つ、それは「CO2」と「水」です。
通常のウォッカは、糖分またはでんぷん質を含む原料を発酵、蒸留させて醸造します。
一方でエア・ウォッカの場合、まずCO2を空気中から抽出し、それを純粋なエタノールへ変えてウォッカを生み出します。
この製造過程では太陽光発電による再生可能エネルギーが用いられており、原理としては植物の光合成と同様と言われています。
エア・カンパニーによると、エア・ウォッカ1本分の製造で1ポンドの温室効果ガスが空気中から除去されることが分かっており、「カーボンネガティブ(CO2除去量が排出量を上回ること)を実現させる世界初の蒸留酒だ」と説明しています。
ちなみにエア・ウォッカのアルコール度数は40%で、現在通販サイトなどでは1瓶(750ミリリットル)約8,000円で販売されています。
Air Vodka(エアウォッカ)|知財図鑑
まとめ
今回は、アルコール業界におけるサステナブルな取り組みについて紹介してきました。
各メーカーがここまで活発にサステナブルに取り組んでいたことに対しては、驚いた人も多かったのではないでしょうか。
もしかするとSDGsの達成をけん引するのは、他でもないお酒の存在なのかもしれませんね。