IT業界をはじめ、映画業界や金融業界など、近年幅広い分野で成長を遂げているインド。
その成長スピードは今や中国やアメリカにも届きそうな勢いですが、一方で経済の発展に比例するかのように、インド国内における大気汚染も深刻化しています。
今回は、インドが革新的な経済成長を遂げた理由と深刻化する大気汚染の原因、そして現在インドで行われている環境政策までをチェックしていきましょう。
インドが経済成長した理由
カースト制度による貧困からの脱却
国民の約8割がヒンドゥー教を信仰している「ヒンドゥー教社会」のインドには、「カースト制度」と呼ばれる身分制度が深く根付いています。
カースト制度は主に「バラモン(司祭)」、「クシャトリア(王族・軍人)」、「ヴァイシャ(平民)」、「シュードラ(隷属民)」の4つに分けられており、さらにシュードラの下には、「ガリット」と呼ばれる最下層身分があります。
法としてのカースト制度は1950年に廃止されているものの、長い歴史の中でインド国民に染み付いたカースト意識はそう簡単には拭えず、それによる身分差別は今なお色濃く残っています。
カースト制度においては、職業は基本「世襲制」となっているため、身分が低い国民はいつまでも貧困から抜け出せないサイクルが続いていました。
しかし、カースト制度の廃止後に生まれたIT分野はカースト制度の影響下に無いため、たとえ低い身分に生まれても才能、環境、努力によっては、貧困から抜け出すことが実現できるようになったのです。 これによりITの道を志し、猛勉強する若者が増えたことによって、インドにおけるIT技術は急速に発展しました。
アメリカとの時差が絶妙
世界一の経済大国・アメリカとインドの時差は、およそ12時間となっています。
「時差が経済成長と何の関係があるの?」と思うかもしれませんが、この「12時間」という絶妙な時差こそが肝となっています。
例えば、アメリカで日中に開発されたソフトウェアを現地時間の夜20時にインドに送れば、同じ頃朝8時を迎えたインドですぐさま作業を引き継ぐことができます。
つまり、一刻一秒を争うIT業界において一日中開発し続けられる12時間の時差というのは、これ以上も以下もない絶妙な時差だと言えるのです。
この時差を上手く活用してアメリカとの共同開発を進めたことにより、インドは瞬く間にIT大国となりました。
英語が準公用語
かつてイギリスの植民地支配を受けていたインドでは、今でも英語が準公用語となっています。
また、インドの連邦公用語となっているヒンディー語を話せる国民は実際には少なく、英語が共通言語として幅広く使用されているのが実状です。
そのような背景から、インドでは小学校から大学まで英語教育に力が入れられており、アジアではシンガポール、マレーシア、フィリピンに続いて英語力が高い国となっています。 英語が主な共通言語となっているIT業界では、英語でスムーズに意思疎通できることは大きな強みです。
他のアジア諸国と比較しても英語力が高く、前述したようにアメリカとの時差が丁度良いインドの経済が発展したのは、もはや必然だったと言っても過言ではないでしょう。
経済発展が引き起こすインドの汚染問題
工場から排出されるガスやほこり
IT分野において革新的な経済成長を実現したインド政府は、国内における産業をさらに拡大するべく「Made in India」構想を打ち出し、ここ数年で多くの工場を建設しては稼働させています。
これによる重工業分野の発展には「地方労働者の雇用確保」や「国内産業レベルの底上げ」というポジティブな側面もありますが、一方で工場の建設中に排出されるホコリ、稼働中の工場から排出されるガスなどは深刻な大気汚染を引き起こす原因にもなっています。
自動車による排気ガス
自動車による排気ガスは、工場からの排煙やホコリと同じく経済成長と共に深刻化した環境問題です。
この問題を解決すべく、インド政府は2016年より排気ガス減少を目的とした車両規制をスタートさせましたが、2年後の2018年にインド地球科学省(MoES)が実施した調査では、インドの主要都市における大気汚染の約4割は未だ自動車の排気ガスが原因となっていることが分かっています。
経済活動以外の大気汚染原因
ヒンドゥー教の祭事「ディワリ」で打ち上げられる花火や爆竹
インドでは毎年10月下旬~11月中旬頃に、ヒンドゥー教における新年の祝祭「ディワリ(ディーワーリー)」が開催されます。
ディワリはヒンドゥー教徒にとっては一年の中で最大の祭典となっており、毎年開催時には新年を祝う意味を込め、インド中で花火や爆竹が打ち上げられます。
国民が愛する伝統的な祭りですが、このディワリ時に打ち上げられる花火や爆竹による煙こそが、インドにおける大気汚染深刻化の大きな原因となっています。
ちなみに、ディワリが開催される秋頃はインド北部では雨季が終わっているため雨が降らず、気温も夏に比べ低くなっています。
このような気候ではディワリ時に発生した汚染物質が滞留しやすいため、これも大気汚染に拍車をかけている一因だと言われています。
野焼き
野焼きとは、作物を収穫し終わった土地に火を放ち、次の農作に向けて剪定枝や雑草などの「作物残渣(さくもつざんさ)」を燃やし尽くすことです。
実は、インドのほとんどの地域では既に野焼きは禁じられていますが、それでも一部の農家には未だに野焼きを行う習慣が伝統として根付いており、それも日本の国土と同じくらいの広大な土地を燃やすため、大量のCO2を排出するとして問題視されています。
インド政府による環境政策
工場への再生可能エネルギー導入
近年、インド国内のいくつかの工場には有害物質の排出を削減するべく、風力や太陽光といった再生可能エネルギーを利用した発電システムが設置されるようになっています。
この再エネ発電システムの導入には、急激な経済成長により汚染問題と共に深刻化していた電力不足も解決することが期待されています。
現在、インド政府は「2022年までに10万MW(メガワット)の太陽光発電システムと6万MWの風力発電システムを国内に導入すること」と、「2030年までに国内電力の4割を再生可能エネルギーで補うこと」を目標に掲げています。
車両における新しい排気ガス規制の実施
インドでは2020年4月より、2016年に制定した規制を見直しさらに強化した新たな排気ガス基準が、全国全車種を対象に導入されています。
これを受けインド国内の大手自動車メーカー各社も、段階的にガソリン車およびディーゼル車の生産から撤退するなどの対策を実施しています。
ディワリで使用する爆竹への規制
ディワリ開催時における爆竹への使用規制は、2017年頃より厳しくなってきています。
これに対し規制当初は反発の声も少なくありませんでしたが、年々インド国内における環境意識は高まっており、近年では「グリーンディワリ(環境に配慮したディワリ使用)」を謳う人も増えています。
現時点においては爆竹は完全に使用禁止というわけではなく、「ディワリ当日の夜8時~10時の間だけ使用可」といったように、時間帯で使用制限する方向に進んでいます。
野焼きを減らすための農家への支援
前述したように、インドでは既にほとんどの地域で野焼きが禁止されているにも関わらず、まだまだ野焼きを行う農家が多く残っているのが現状です。
野焼きを行う農家を少しでも減らす対策として、インド北部に位置するパンジャブ州やハリヤナ州などの地域では、農家への教育支援や、野焼きをせずに収穫後の処理が行える機械を購入するための補助金支給などを行っています。
まとめ
今回はインドの経済成長、その裏で深刻化する大気汚染、そしてそれに対する環境政策について見てきました。
日本からは遠く、文化も気候も全く異なるインドですが、大気汚染問題に関しては決して対岸の火事ではありません。
これを機に、「日本では今どのような大気汚染が問題視されているのか」「どのような環境政策が実施されているのか」などの点にも目を向けてみてはいかがでしょうか。