2020年1月頃から3月頃にかけて新型コロナウイルスが流行し始めたばかりの頃は、スーパーやコンビニからトイレットペーパーが無くなるオイルショックのような光景が話題となりました。
しかしその一方で、コロナ以降に拡大したリモートワークの影響により、各企業では業務におけるペーパーレス化が進みました。
このように、新型コロナウイルスの拡大は「日本社会における紙の需要」にも大きな影響をもたらしています。
そこで今回は、貴重な資源である紙の在り方や価格が新型コロナウイルスによってどう変動し、また今後どうなっていくかについて見ていきたいと思います。
まずは近年における紙の価格変移を知ろう
結論から言うと、近年における紙の価格は上昇の一途を辿っています。
様々な種類の紙の中でもとりわけ価格高騰が顕著となっているのが、企業で使われることの多い印刷・情報用紙です。
2019年に製紙メーカー3社が印刷・情報用紙における価格を20%近く値上げしたことは、当時のニュースでも話題となりました。
デジタル化が進む昨今は印刷・情報用紙の需要が下降気味であるにも拘わらず価格が上昇している理由には、次のようなものがあります。
・中国や東南アジアにおける古紙需要の増加
(中国は2021年に古紙輸入が完全廃止となる予定)
・紙の原料であるチップ(パルプ材)の価格高騰
・原油価格高騰による紙の製造コスト上昇
このような理由から各製紙会社は印刷・情報用紙にかかる生産力を極力減らし、紙の値上げを決行した形となりました。
新型コロナウイルスが製紙業界にもたらした影響
前述した状況の中で到来した新型コロナウイルスは、紙を取り巻く環境に大きな変化をもたらしました。
具体的な変化には、次のようなものがあります。
ウェットティッシュ等といった衛生目的の紙製品の需要増加
新型コロナウイルスの拡大以降は、感染対策として除菌用のウェットティッシュやペーパータオルといった衛生用紙製品の需要が一気に増加しました。
このような世間のニーズを受け、紙製マスク入れや飛沫防止用の紙製パーティション等、新たな衛生用紙製品を積極的に生み出す製紙メーカーが増えています。
通販利用の増加に伴う段ボールの需要増加
緊急事態宣言の発令や外出自粛の呼びかけにより外出して買い物することが困難になったため、今まではお店で直接買い物をしていた人々もオンライン通販にシフトチェンジするようになりました。
その流れに伴い、宅配用段ボールの需要も一気に高まりました。
パルプ材(原材料)不足の発生
日本はチップの自給率が低く、ほとんどを海外からの輸入に頼っているのが現状です。
しかしコロナ禍では経済活動が世界的に停滞したため、需要に対して原料輸入が追い付かなくなるという事態に陥りかけました。
原料輸入が停滞すると製造コストや商品自体の価格にも影響が出る可能性もあるため、「紙製品の価格が一気に高騰するのでは」と不安に駆られる人々が現れ、それがコロナ感染拡大初期のトイレットペーパー大量買い等の一因となったのではないかとも考えられています。
多くのイベントが延期または中止となり、宣伝用のチラシやポスター需要が激減した
コロナ禍においては、音楽、演劇、スポーツに関する数々のイベントが延期または中止を余儀なくされました。
イベントの中止は出演者に限らず、イベントの制作に関わった全ての業界に影響を及ぼしましたが、それは製紙業界も例外ではありません。
宣伝に使用するためのチラシ、紙製看板、ポスター、カタログ等の印刷物需要が、イベントの延期もしくは中止により激減したのです。
これにより、2020年4~6月期の決算では製紙メーカー6社のうち5社が赤字となってしまいました。
プラスチック製品から紙製品への移行の流れを後押しした
かねてより海洋汚染の原因として世界的な課題となっていたプラスチックごみですが、コロナ禍におけるデリバリーサービスの需要増加により、包装に使われるプラスチックごみの増加がより具体的に問題視されるようになりました。
そのような流れを受け、元々プラスチック製だったカトラリー、袋、弁当容器等を紙製に換える飲食店がコロナ以降は増加しています。
こうして見ると、新型コロナウイルスの感染拡大は紙製品不足や輸入停滞などの危機を招いた一方で、幸か不幸か地球環境に良い影響をもたらした側面もあるということが分かりますね。
コロナ禍におけるペーパーレス化の動き
新型コロナウイルスの感染拡大以降、「コロナ禍における新しい働き方」としてリモートワークを取り入れる企業が急増しました。
従来の働き方からリモートワークへ移行する中、多くの企業で紙の資料に代わる「オンライン資料」やタブレット端末の導入等が実施されたため、業務における紙の需要は一気に減少しました。
その中でも、かねてより「根強い“紙文化“が残っている」と言われてきた各地方公共団体がペーパーレス化に向けて動いたことは、大いに注目されました。
とある地方公共団体ではオンライン会議や電子マネーによる決済を導入し、またとある地方公共団体では、紙の資料や書類の削減に向けた取り組みが進められました。
とはいえ、地方公共団体における電子化へ向けた動きはコロナ以前からあり、例を挙げると東京都では2019年度の時点でコピー用紙使用量は約20%減、またペーパーレス会議の実施率は約70%を達成していたそうです。
そのため一部では、「あらかじめ予想されていた電子化の波がコロナ禍によって前倒しになった」とも言われています。
これからの紙の需要と価格の変化
ここまで書いてきたことから分かる通り、製紙業界は新型コロナウイルスの到来によって、はからずも大きな変革期を迎えています。
多くの製紙メーカーは印刷・情報用紙が収益源のほとんどを占めていますが、リモートワークの普及やイベントの減少により需要が減りつつあることから、収益構造の抜本的な見直しを迫られています。
どの業界にも言えることではありますが、製紙業界において今後しばらく新型コロナウイルスによる影響は避けられないと予想されており、そのような状況を打破するべく多くの製紙メーカーは環境に配慮した商品や感染症予防商品といった新たな製品を生みだしていますが、まだまだ業界全体の安定には程遠いのが現状です。
最も大きな不安材料は、「紙の価格が高騰するのではないか」という点です。
原油価格の高騰や原料不足等に関しては今後も予断を許さず、それらの影響によって紙の価格が大きく変動する可能性はゼロではありません。
また1章でも少し触れましたが、中国が2021年から古紙の輸入を完全廃止すると決定したことも、今後の紙の価格に影響を及ぼすのではと予想されています。
いずれにせよ、コロナ禍で世界的に不安定な状況が続いている現状では今後の紙の価格変動を見通すことは中々難しいため、注意深く動向を見守る必要があると言えるでしょう。
まとめ
コロナ禍では従来の価値観が崩れ、様々なものの価値が改めて見直されましたが、それは紙も例外ではありません。
紙は私たちにとってあまりにも身近な存在だったため中々気付きにくかったかもしれませんが、コロナ禍の今、紙を取り巻く環境は大きく変わりつつあるということが今回分かりましたね。
今後は引き続き新型コロナウイルスの影響による価格変動やペーパーレス化に注目が集まる一方で、環境へ配慮した新たな紙製品に期待が寄せられることも予想されています。
しかし何よりも忘れずにいたいのは、紙は私たちにとって何物にも代えがたい貴重な資源だということです。
それを常に意識することで、自然と「紙を取り巻く昨今の状況」にも目を向けることができるのかもしれません。
当社も再生可能エネルギーの筆頭である太陽光発電を取り扱う会社として、今後も大切な地球資源である紙について、そして地球環境について注目していきたいと思います。