日本家庭料理の定番メニューの肉じゃが、ファストフード店のフライドポテト、そしてポテトチップスなど、大人から子供まで幅広い年齢層に愛されている食材・ジャガイモ。
そんなジャガイモが、近年では「サステナブルフード」としても注目を集めていることはご存知でしょうか。
今回はジャガイモの歴史や、今サステナブルフードとして注目されている理由などについて掘り下げていきたいと思います。
ジャガイモの歴史
発祥地はアンデスの高地
じゃがいもの発祥地は、南アメリカ・アンデスに広がる、標高3,000~4,000メートルの高地だと言われています。
アンデスでは、13~16世紀にかけてインカ文明が繁栄しており、その食生活の中心にあったのが「トウモロコシ」と「ジャガイモ」でした。
当時中央アンデス高地で暮らしていた人々は、冬の間に「チュノ―」と呼ばれる乾燥ジャガイモを作り、長期保存食として重宝していました。
チュノ―は水で戻したり、粉にしたりして料理に使われていたそうです。
当時のアンデス高地に存在していたジャガイモの野生種は今でも残っており、その中でも特に貴重だと言われていた種を日本向けに改良したのが「インカのめざめ」です。
ヨーロッパへの伝来
ヨーロッパでは、15~16世紀頃にスペイン人がインカ帝国に訪れた際に本国へジャガイモを持ち帰ったのが始まりだとされています。
当初は食料として普及することは無く、その後しばらくはフランスの宮殿を中心に「花」として楽しまれていました。
食料としての普及が進まなかった理由としては、アンデス高原との気候の違いにより、茎や葉ばかりが茂りがちだったことが挙げられています。
しかし18世紀に入ると、ヨーロッパの気候でもジャガイモの実が作れること、踏み荒らしなどの影響を受けにくい「地中に実る作物」だったことなどから、ジャガイモはヨーロッパ中に広がり始めます。
やがてヨーロッパから世界全土に広がり、18世紀末になる頃には、ジャガイモは麦や大豆と並ぶ主要作物となりました。
日本への伝来
日本におけるジャガイモの歴史は、17世紀の初めにインドネシアを拠点としていたオランダ人によって長崎に伝わってきたのが始まりだとされています。
インドネシアの首都ジャカルタから持ち込まれたことに由来して「ジャガタライモ」と呼ばれていたのが短縮され、「ジャガイモ」と呼ばれるようになったそうです。
その後、江戸時代に度々発生した飢饉の度にジャガイモは緊急食料として広まりましたが、サツマイモが鹿児島や宮崎などの温暖地に広まったのとは対照的に、ジャガイモは北海道を中心とした寒冷地に普及していきました。
明治時代になると北海道におけるジャガイモ栽培はますます本格化し、外国品種の導入や新品種の開発などにも力を入れるようになります。
やがてその動きに続くように、全国各地でジャガイモ栽培が行われるようになりました。
この時期、アメリカから伝わってきた「男爵」と「メークイン」は、現在日本で最も親しまれている二大品種となっています。
サステナブルフードとして注目されている理由
種類が多い
ジャガイモは作物の中でも種類が豊富なことで知られており、その数は何と5,000種以上にものぼると言われています。
前述したように男爵やメークインに親しんでいる私たちにとっては、「そんなにあるの!?」と驚いてしまう数字ですよね。
これだけジャガイモの種類が豊富な理由は、アンデスから世界各地に伝わる過程で、それぞれの土地に適した品種改良が行われてきたからだと考えられています。
その結果、標高の高い土地で育つ品種、乾燥している土地で育つ品種、熱帯気候の土地で育つ品種…といったように、種類の多様化が進んだのです。
これはつまり、土地資源が限られている場所でも育つ品種があるということです。
今後、世界の人口は発展途上国を中心に更に増加すると考えられていますが、ジャガイモの持続的な生産地と労働力を確保すれば、人口増加による食糧難を回避できる可能性があると考えられています。
栄養価が高い
ジャガイモは種類の豊富さに加え、栄養価が高い点も特徴として挙げられます。
まず、ジャガイモの主成分は「でんぷん」であり、そのでんぷんには人間の身体にとって主要エネルギーである「糖質」が豊富に含まれています。
そのため、同じく糖質を豊富に含む米や麺と同じように主食として食べることができます。
その他、ジャガイモにはたんぱく質、カリウム、ビタミンC、食物繊維などの栄養も含まれています。
このように栄養価が高いことから、今まさに食糧難の危機に瀕しているアジアやアフリカの発展途上国では、必要最低限のカロリーを摂取するためにジャガイモを主要作物として栽培していることが多いそうです。
栽培時の環境負荷を低くできる
温室効果ガス削減の指標の一つに、「カーボンフットプリント」というものがあります。
カーボンフットプリントとは、原材料調達から製造、流通、廃棄、リサイクルに至るまでの流れ全体を通して排出される温室効果ガスを把握するための仕組みのことです。
とある食料別データによると、ジャガイモは肉類や麦類などの他の食べ物に比べて、カーボンフットプリントが比較的低いことが分かっています。
これは、ジャガイモ栽培は土地を効率的に利用して行えることが理由として考えられています。
また、日本では近年ジャガイモ栽培時に発生する環境負荷を下げる栽培法に取り組んでいる農家が増えつつあります。
たとえば、北海道北見市でジャガイモ栽培を行っている「きたみらい馬鈴薯振興会」では、環境に配慮した独自の栽培基準を設定した「ECOみらいじゃがいも(エコじゃが)」づくりに取り組んでいます。
ECOみらいじゃがいもの栽培基準は、次の通りです。
・化学肥料の使用量を北海道基準から45%以上削減
・堆肥・有機質肥料の投入を継続し地力向上に努めることにより、化学肥料の使用量を抑え、作物の健全な生育を促進
・化学合成された農薬の使用回数を北海道基準から33%以上削減
・収穫前に「でんぷん価(でんぷんの含有量)」の確認を行い、ホクホクとした食味にこだわった完熟したジャガイモの出荷に努めている
(ECOみらいより引用)
このような取り組みは、そう遠くない将来、日本中のジャガイモ栽培におけるスタンダードとなるかもしれませんね。
今年流行るかも!?欧米発の「ポテトミルク」とは
2022年現在、サステナブル界の新たなトレンドとなるかもしれない存在として注目を集めているのが、ジャガイモを原料として作られた植物性ミルクの「ポテトミルク」です。
ヴィーガンをはじめとした食生活の多様性が進んでいる欧米では、動物性ミルクの牛乳ではなく豆乳やアーモンドミルクを選ぶ人々が増えています。
そんな中、ここ最近登場したポテトミルクは、ジャガイモ特有の香ばしさや優しい甘みが美味しいと評判だそうです。
ポテトミルクが注目を集めている理由の一つは、何と言っても「環境負荷の低さ」です。
ポテトミルクを生産しているスウェーデンのブランド・DUGは、「牛乳をポテトミルクに代替することでカーボンフットプリントは大幅に低くなり、気候への影響が約75%低下する」と述べています。
また、アーモンドミルクとポテトミルクを比較した場合、ジャガイモはアーモンドよりもはるかに少ない水で栽培することができるため、ポテトミルクの普及は水資源不足を解消するのにも役立つとしています。
このように環境負荷の低さだけでなく、栄養価の高さや糖質の低さでも注目を集めているポテトミルク。
日本に上陸する日も、そう遠くはないかもしれません。
まとめ
環境に配慮したジャガイモ栽培、ジャガイモを原料に使ったサステナブルフードやドリンクは、今後益々広がっていくと考えられています。
今度ジャガイモを食べる時は、ジャガイモの長い歴史と秘められた無数の可能性について思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
参考URL:ジャガイモ「どこからきたの?」(環境省)
参考URL:じゃがいもの歴史(日本いも類研究会)
参考URL:ECOみらい(JAきたみらい)
参考URL:ジャガイモはサステナブルな未来の食べものなのか?前編(AGRI PICS)
参考URL:DUG公式サイト