世界的に進行している気候変動を食い止めるべく、多くの国や企業が環境問題の解決に取り組む一方で、日本では「ゼロカーボンシティ」を宣言して温暖化対策に乗り出す都道府県や市町村が日に日に増えています。
今回は「ゼロカーボンシティとは何か」という点と、実際にゼロカーボンシティとして気候変動対策に取り組んでいる地方公共団体についてチェックしていきましょう。
ゼロカーボンシティの定義
ゼロカーボンシティとは、「2050年までにCO2(二酸化炭素)の排出量を実質ゼロにすることを目指す旨(脱炭素化)を、首長もしくは地方公共団体から公表された都道府県または市町村」のことを指しています。
ゼロカーボンシティであることを表明するためには、次のような手順を踏む必要があります。
➀環境省大臣官房環境計画課へ、ゼロカーボンシティと表明することを検討している旨を連絡する
②定例記者会見またはイベント等において、「2050年までのCO2排出実質ゼロを目指す」と首長が表明する
③議会、報道機関へ向けたプレスリリース、各地方公共団体のホームページにおいて②と同様の内容を首長が表明する
上記の手順を踏んでゼロカーボンを目指すと表明した地方公共団体は、当初は東京都、山梨県、京都市、横浜市のみとなっていました。
しかし小泉新次郎環境相が全国に向けてゼロカーボンを呼びかけたことによって急速に拡大し、2021年2月の時点では、275の地方公共団体(32都道府県、161市、61町、18村、3特別区)がゼロカーボンシティ宣言をしています。
そして宣言都市の総人口は約9,944万人(※都道府県と市町村による重複は除外)となっており、これによるGDPは約441兆円にものぼることが分かっています。
「ゼロカーボン」への意識が高まる背景とは
国内におけるゼロカーボンへ向けた動きが活発になっている背景には、2015年に国際的枠組みとして採択された「パリ協定」があります。
パリ協定では、「産業革命以前からの平均気温の上昇を2℃または1.5℃未満に抑え、2050年には世界における温室効果ガス排出量を実質ゼロにすること」が目標とされています。
このパリ協定以前には、気候変動に関する国際的な枠組みとして定められた「京都議定書」(1997年に採択)がありました。
しかし京都議定書は温室効果ガスの削減義務を先進国にのみ課していたため、期待できる効果には限界があると考えられていました。
一方、パリ協定には途上国も含む200近くの国と地域が参加しており、参加国は温暖化対策に向けた目標を5年ごとに表明し、その目標を達成するための対策に取り組むことが定められています。
これにより、環境対策の潮流は温室効果ガスの排出を極力抑える「低炭素化」から、そもそもの排出量ゼロを目指す「脱炭素化」、つまりゼロカーボンへと完全移行しつつあります。
パリ協定の採択以降、参加各国ではそれぞれが掲げたCO2削減目標に向けて積極的な取り組みを進めています。
例えば中国では、2030年頃までにCO2排出量を大幅に減少させることを目標に定め、石油依存からの脱却をはかり、中国内で深刻化している大気汚染の改善に取り組んでいます。
またEUは、「2030年までに40%の温室効果ガス排出量の削減(1990年比)を目指す」と表明しています。
このような脱炭素化へ向けた世界的な流れを受け、日本では2020年10月に菅総理が自身の所信表明演説にて「2050年までに国内における脱炭素化を目指す」と宣言しています。
こうして国が本格的にゼロカーボンへ向けて動き出したことこそが、日本におけるゼロカーボンシティ拡大の推進力になっていると言えるでしょう。
国によるゼロカーボンシティへの支援
前述の通りゼローボンシティを宣言する地方公共団体は増えてはいるものの、蓋を開けてみれば実際に行われている取り組みは省エネ推進に留まっている場合が多かったため、かねてより「具体的に脱炭素を実現するためには対策を強化するべき」との声が上がっていました。
そのため2020年9月、環境省は2021年度から「ゼロカーボンシティ」を宣言した地方公共団体(以下、ゼロカーボンシティ宣言都市)への支援を強化する旨を発表しています。
これによりゼロカーボンシティ宣言都市は電気を自給できるエリアの整備や、また新電力会社設立に向けた人材確保および育成等に乗り出す場合、優先的に支援を受けることができます。
また環境省によると、ゼロカーボンシティ宣言都市は再エネ導入の際にも優先的に支援対象となるそうです。
より具体的な支援内容は、次のようになります。
・災害による停電時に備え、大手電力会社の供給網から独立して電気を自給できるエリア整備の促進
・再エネ発電システムや蓄電池、専用電線の導入費用を補助
・地方公共団体と地域の企業等が連携し、地域の再エネ新電力会社を設立するための人材育成を後押し
・持続可能なビジネスモデルの策定、販売先の開拓方法といったノウハウを学べる環境づくりを補助
この支援強化が開始した暁には、2050年に向けてより具体的に脱炭素化が進むことが期待されています。
各ゼロカーボンシティ宣言都市の取り組み
新潟県十日町市
十日町市は、2020年8月にゼロカーボンシティ宣言を出しています。
目標達成に向け、十日町市では現在計画期間中となっている「第二次十日町市環境基本計画」及び「十日町市地球温暖化対策実行計画(区域施策編)」の見直しを行うことを決めており、その中で2050年のCO2排出実質ゼロを目指す具体的な取り組みを展開していく予定となっています。
鹿児島県鹿児島市
鹿児島市は、2019年12月に「ゼロカーボンシティかごしま」への挑戦を宣言し、現在は主に以下のような取り組みを行っています。
➀南国ならではの豊かな太陽の恵みを活かした再エネによるエネルギーの地産地消
・太陽光等の再エネ発電システムを設置する市民等への助成
・公共施設への再生可能エネルギーの率先導入
②一般廃棄物を活用した再生可能エネルギーの創エネ
・新南部清掃工場(ごみ焼却施設・バイオガス施設)の整備
③走行時の二酸化炭素排出量ゼロの電気自動車・燃料電池自動車の普及促進
・電気自動車もしくは燃料電池車を購入する市民への助成
・公用車への率先導入
④家庭・事業所等でのエコスタイルへの転換
・かごしま環境未来館のリニューアルによる環境学習・保全活動のさらなる推進
・クールチョイス(地球温暖化対策のための賢い選択)の普及啓発
・自転車プラス公共交通による移動への転換を図るコミュニティサイクル「かごりん」の利用促進
これらの他に、2021年度に策定を予定している「第三次環境基本計画」及び「第二次地球温暖化対策アクションプラン」等を策定していく中で、2050年CO2排出実質ゼロを見据えた具体的施策を盛り込むことが表明されています。
山形県米沢市
米沢市は、2020年10月にゼロカーボンシティ宣言を出しています。
ゼロカーボン計画を行うにあたって策定した取り組み内容は、以下になります。
➀低炭素・循環型社会の構築
・低炭素・循環型社会に関する意識啓発
・省エネ(低炭素)型製品の導入拡大
・徒歩や自転車の利用促進による健康長寿のまちづくりとの連携
・国の補助金や減税制度の情報発信による省エネ住宅等の普及拡大
・公共建築物等における木材の積極的な利用促進
②再生可能エネルギーの導入
・創・蓄エネルギーの導入拡大
・木質バイオマスエネルギーの利用推進
③森林等の吸収源対策
・民有林における森林整備の促進
・公園の整備・適切な維持管理の推進
・街路樹等公共空間の適切な維持管理の推進
・公共空間や宅地、事業所敷地内の緑化推進
これらに加え、今後は米沢市地球温暖化対策実行計画(区域施策編)改定の際に、2050年CO2排出実質ゼロを見据えた具体的施策を盛り込むことが予定されています。
まとめ
今回はゼロカーボンシティについて詳しく見ていきましたが、今や地球環境の改善に向けた取り組みは国単位に留まらず、1つ1つの県や市によって行われているということが分かりましたね。
もし「自分の暮らす街はゼロカーボンシティなのだろうか」と気になった場合は、環境省または地方公共団体のホームページ等で是非調べてみてください。
ゼロカーボンシティ宣言を既に出している場合はその取り組み内容をチェックし、まだ宣言を出していない場合は、メールフォーム等を通じてゼロカーボンシティ宣言の表明を提案してみるのも良いかもしれません。
そのように一人一人が意識を持って行動すれば、日本中の地方公共団体がゼロカーボンシティ宣言都市となる未来は一気に近づくことでしょう。