電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)の普及が進む昨今では、「そろそろ太陽光の力だけで走るソーラーカーも実用化しそうだな」と思っている方もいるのではないでしょうか。
実際のところ、ソーラーカー自体はもう何十年も前に開発されているのですが、日本では今日に至るまで大々的な普及には至っていないのが現状です。
再エネの中でも高いシェア数を誇る太陽光発電技術が量産車にも搭載されれば、日本が目指している「脱炭素化」も一気に進みそうなものですが、一体何が普及の足かせとなっているのでしょうか。
今回はその理由を探りつつ、ソーラーカーの実用化に向けて行われている取り組みや、海外の動きなどについて見ていきましょう。
ソーラーカーの歴史
「太陽の力を利用して走行する自動車」の概念は古くから存在していましたが、実際にソーラーカーが開発されたのは1950年代に入ってからです。
1955年、シカゴで開催されたゼネラルモーターズ社によるイベントで、セレン光電池から発電される電力で走行する全長約40cmの模型自動車の走行が実演されたのがソーラーカーのはじまりだと言われています。
そして1982年、冒険家のハンス・ソルトラップが開発した「クワイエット・アチーバー」がソーラーカーとしては世界初の長距離走行に成功したことをきっかけに、1987年からは「ワールド・ソーラー・チャレンジ」というソーラーカーレースが開催されるようになります。
これ以降、ソーラーカーレースの開催地は世界各地に増え、日本でも鈴鹿、能登、北海道などさまざまな場所で開催されました。
中でも1992年から続く鈴鹿サーキットのソーラーカーレースは、その高いレース水準によって「FIA国際自動車連盟」の認定レースにもなりましたが、2021年、ついにその長い歴史に幕を閉じました。
鈴鹿サーキットのソーラーカーレースが終了した理由には、「ハイブリットカー、電気自動車、燃料電池自動車などが登場し、代替エネルギーのトレンドが変化してきたこと」が挙げられています。
ソーラーカーが「レースカー」ではなく「実用車」として新たなトレンドとなるのは、やはり難しいのでしょうか。
次の項目では、その「なぜ実用化が難しいのか」という点について見ていきましょう。
実用ソーラーカーが普及しない理由
燃費が悪い
ソーラーカーレースが行われていることから分かる通り、太陽光だけで自動車を走行させること自体は技術的に可能です。
しかし、それはレース用ソーラーカーが走行することに特化しており、最大限軽量化されているからだとも言えます。
何故なら一般的な量産車はレース用と違い、快適装備や安全装備などが満載で車体が重くなりがちです。
そのため、レース用よりもはるかに走行時に消費する電力が多くなってしまうのです。
価格と発電量が割に合わない
日本には今のところ、元からソーラーパネルを搭載した実用車はありませんが、「ルーフにソーラーパネルを搭載できるオプション」の導入は度々実践されています。
例えばトヨタが2009年~2016年まで製造・販売を行っていた『ZVW30型 プリウス』には、ルーフにソーラーパネルを埋め込み、車内温度の上昇を抑えるシステムがセットオプションで用意されていました。
しかし、このオプションの追加費用は20万円と決して安くは無かったため、実際に利用する人はごくわずかでした。
また、2017年から製造・販売されている『ZVW52型 プリウスPHV』にも、ルーフパネルをソーラーパネルに変更できるオプションが用意されていますが、その価格は約30万円。
仮に晴天時、このソーラーパネルを日中の間ずっと充電させたとしても蓄えられる電気は1kWhで、これはわずか6km分となっています。
この発電ぶりでは、お世辞にも導入費用に見合うとは言えないでしょう。
実用ソーラーカーの普及に向けた日本の取り組み
2019年、トヨタはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による開発プロジェクトにシャープと共に参加し、「プリウスPHVに高性能ソーラーパネルを搭載した航続距離向上」の実証実験を行いました。
この実験は、プリウスがオプションとして用意している単結晶シリコン型ソーラーパネルの代わりに、シャープが開発中のガリウムヒ素系ソーラーパネルをルーフ、ボンネット、リアガラスなどに貼り付け、発電量の増加による充電能力の向上を確かめるものです。
実験に使われたソーラーパネルの変換効率は世界最高水準の34%を上回っており、また厚みも0.03mmと非常に薄いため、クルマのボディに滑らかにフィットし綺麗に貼り付けることができます。
実験の結果、元々のオプション品であるソーラーパネルの最大出力は180Wであるのに対して、開発のソーラーパネルは全体で860Wと、約5倍出力を上げることに成功しました。
さらに走行しながらの発電、充電が可能なため、1日で最大56.3㎞相当の距離を走行できることも分かりました。
56km程度だと約1時間半~2時間は走行できるので、通勤や毎日の買い物であれば十分賄えると考えられています。
この結果を見ると、「ソーラーパネルの力だけで十分走行できることが実証されたのなら、ソーラーカーの実用化もそう遠くないのでは?」と思ってしまいますよね。 しかし、そのためには大きな課題をクリアする必要があるのです。
実用化に立ちふさがる最も大きな壁は「コスト問題」
前述した実験結果から分かる通り、ガリウムヒ素は非常に高性能な化合物です。
しかしそれゆえに価格も高く、単結晶シリコン型ソーラーパネルと比べると、製造にかかるコストはなんと400倍(!)にもなると言われています。
2021年時点のプリウスの価格は300万円前後となっていますが、もしガリウムヒ素系ソーラーパネルを搭載した場合には、1,000万円以上価格が跳ね上がってしまうことになります。
これは、あくまでも車の一部品にかけるコストにしてはあまりにもハイリスクです。
また、ヒ素は毒性が強いため慎重に扱わなければならず、導入するにはハードルが非常に高いという点もあります。
製造過程でもカドミウムを使うため、生産設備や後処理には相当な配慮が必要となります。
そこでNEDOは現在、ガリウムヒ素系ソーラーパネルの安全な生産技術を確立することで、製造コストを10分の1にカットできるかどうかの研究を進めています。
これが実現すれば、生産規模を拡大することができ、量産化が進めばさらにコストを20分の1に下げることが可能になると予測しています。
欧米では「太陽光発電×プラグ充電」で走るSEV販売が本格化
実用ソーラーカーの普及に向け、日本がコスト面の課題をクリアしようとしている一方で、欧米では近年、太陽光発電とプラグ充電機能を備えたソーラーEV(SEV)の開発が進んでいます。
オランダのスタートアップ企業「ライトイヤー」からは、満充電時の航続距離が725㎞以上という「ライトイヤー・ワン」が年内に販売される予定です。
オランダの天候であれば全体の4分の1の電力を太陽光発電で賄えると言われており、充電ステーションへの依存度を下げることが期待されています。
その性能の高さゆえに、初年度の限定モデルは1台15万ユーロ(約1,900万円)とお高めですが、2024年には5万ユーロ(635万円)程度の新モデルが投入される予定となっています。
一方、ドイツに本社を構える「ソノ・モーターズ」は、1台25,500ユーロ(約324万円)の「サイオン」という低価格なSEVの開発を進めています。
ソノ社によるとサイオンのソーラーパネルにはガラスではなくポリマーが使われており、それによって価格と重量を抑えることに成功しているそうです。
そしてアメリカでは、「アプテラ・モーターズ」と「フィスカー」の2社によって積極的なソーラーカー開発が進められています。
アプテラ社が2020年12月に発表した「パラダイム」シリーズは、SF映画に出てくるような流線形のフォルムが特徴的です。
フィスカー社からは、「世界一エコフレンドリーなEV」と謳われている「オーシャン」が販売されます。
その謳い文句通り、オーシャンのカーインテリアはプラスチックボトルごみや、廃棄されたTシャツなどを素材として作られています。
価格はパラダイムシリーズが25,900~46,900ドル(270~490万円)、オーシャンが37,499ドル(390万円)と、こちらも比較的リーズナブルとなっています。
(※価格はすべて2022年1月時点のもの)
まとめ
ソーラーパネルを使った太陽光発電「だけ」で走行する車が実用化するには、安全面やコスト面などまだまだクリアすべき課題がありそうです。
しかし欧米諸国の動きを見ても分かる通り、太陽光発電とプラグ充電を両立させたSEVは着実に実用化の道を進んでいます。
SEVの普及に注目しつつ、100%太陽光発電の力で走行する実用ソーラーカーの登場にも期待したいですね。
参考URL:
・TOYOTA「世界最高水準の高効率太陽電池を搭載した電動車の公道走行実証を開始」(2022年1月31日)
・wikipedia「ソーラーカーレース」(2022年1月31)
・AMP「「ソーラーカー元年」太陽電池で走るEVが欧米で続々生産開始。自動車のスタンダードになるか?」(2022年1月31日)