今、五大湖が危機に瀕している?環境修復のために行われている取り組みとは

環境問題

突然ですが、皆さんは「五大湖」についてご存知でしょうか?
「聞いたことはあるけど、実はよく分かっていないかも…」
「中学生の頃教科書で見た気がするけど忘れちゃった…」
という人は、こと日本においては珍しくないかもしれません。
また、日本の富士五湖と混合されることもありますが、五大湖と富士五湖は全くの別物です。

五大湖に関する詳しい説明は後述しますが、先に簡単に説明すると、五大湖とは「アメリカとカナダの国境付近に連なっている5つの淡水湖」
を合わせた呼び名のことです。
それぞれがとてつもない大きさを誇っており、五大湖の中で一番小さな湖でさえ琵琶湖の約30倍近くあるということが分かっています。
そんな五大湖ですが、実は十数年前より深刻な汚染問題に脅かされつつあります。

一体、何が五大湖の環境を蝕んでいるのでしょうか。
そしてこのまま汚染が続けば、五大湖は一体どうなってしまうのでしょうか。

今回は五大湖それぞれの特徴と問題となっている環境汚染を知りながら、近年五大湖の環境修復に向けて行われている取り組みについて見ていきましょう。

五大湖に関する基本知識

宇宙から見た五大湖

前述した通り五大湖はアメリカとカナダの国境辺りに位置し、5つのうち4つの湖上を両国の国境線が通っています。
五大湖は水の流路をすべて共有しており、上流(西)から順に「スペリオル湖」「ミシガン湖」「ヒューロン湖」「エリー湖」「オンタリオ湖」と続いています。
その広大さから、「アメリカの北海岸」「北米の地中海」「内陸の海」などとも呼ばれています。

五大湖それぞれの特徴は、次のようになっています。

スペリオル湖

五大湖の中では最大面積を持ち、淡水湖としても世界最大の面積を誇っている。
その面積は北海道本島やチェコ国土よりも広く、水深および水量も五大湖の中では一番となっている。
五大湖のうち最も標高の高い場所に位置していたことから、「高次」を意味する「スペリオル」と名付けられた。
あらゆる面で五大湖において最大規模を誇ってはいるものの、周辺人口は少ない。

ミシガン湖

五大湖の中で三番目に面積が広く、水量は二番目に多い。
また、五大湖の中では唯一アメリカの領地内にのみ位置している。
シカゴをはじめとした人口の多い都市がいくつも面しており、また南端は大規模な工業地帯となっているため、周辺人口は約1200万人と多い。

ヒューロン湖

スペリオル湖に次いで二番目に面積が広い湖。
前出のミシガン湖と同じ水面を共有しているため、2つ合わせて1つの湖として見られる場合もある。
ヒューロン湖の中にあるマニトゥーリン島は、淡水湖の中に存在する島の中では最大面積を誇っている。周辺人口は五大湖の中で最も少ない。

エリー湖

五大湖の中では最も水深が浅く水量も少ない湖で、面積はミシガン湖に次いで五大湖のうち四番目となっている。
ミシガン湖と同様に、湖周辺には工業地帯が多く存在している。

オンタリオ湖

五大湖の中では最小面積、かつ最も低地に位置する湖。
しかし地球上の湖の中では14番目の大きさを誇っており、その大きさは四国4県を合わせた面積とほぼ同じ。
「オンタリオ」とは、インディアン部族集団イロコイの言葉で「輝く水」または「美しい湖」を意味しており、カナダのオンタリオ州はここから名付けられた。

以上が、5つの湖それぞれの特徴です。

ちなみに五大湖の覚え方としては、5つの湖の頭文字を取った「スミ ヒエオ(隅 冷え男)」というものが有名です。
隅っこで凍えている男性を想像するとなんとも哀愁を感じてしまいますが、良かったらこの機会に覚えてみてはいかがでしょうか。

五大湖周辺の気候や環境

五大湖に多数生息しているサケ

五大湖周辺はメキシコ湾から流れる暖かく湿った空気と、北極から流れる冷たく乾燥した空気の両方から影響を受けており、特に春と秋は天気が変わりやすくなっています。
しかし、湖がいわゆる「ヒートシンク(放熱板)」のような役目を果たしているため、季節による周辺気温の変動を緩やかにし、一年を通して冷涼な気候を保っています。

また、冬の五大湖周辺の気温は基本的に氷点下となり、湖面は氷に覆われ、湖岸付近は大量の雪に覆われますが、このような氷や雪の存在も湖の生態系と深く関連しています。
五大湖周辺に生息する代表的な生物は、以下になります。

・サケ
・カワカマス

・スケトウダラ
・オオアオサギ
・ムース
・カナダオオヤマネコ
・ウシガエル

上記の他にも五大湖周辺には魚類、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類などの様々な生物が生息しており、その数は何と3,500種にものぼると言われています。

五大湖周辺で発展した経済

シカゴの街並みとミシガン湖

五大湖は周辺地域において貴重な水資源として扱われており、「五大湖水路」や「セントローレンス海路」などをはじめとした運河網によって様々な地域と繋がっています。

水路交通の開拓は1830年代前後にはもう確立していたこと、また五大湖周辺には鉄鉱石や石炭などの天然資源も豊富だったことから、特にアメリカ側においては早い段階で水資源や天然資源を利用した重工業が発展していきました。
中でもシカゴ(ミシガン湖周辺に位置)やデトロイト(エリー湖周辺に位置)などは、長年世界の工業の中心的存在を担っていました。

重工業に限らず、観光業も五大湖周辺の経済を支える重要な要素となっています。
主に夏場用の避暑地として利用されることが多く、湖の中に点在する島々にはキャンプ場やコテージなどが設置されています。
また、前述したようにサケやマスなどの白身魚が豊富に生息しているため、五大湖周辺は釣りの聖地としても人気を博しています。

五大湖を脅かす汚染問題

様々な角度から大々的な経済発展を遂げた五大湖周辺ですが、近年ではその影響による周辺環境の汚染が深刻化しています。

まず、五大湖周辺における経済の中核を担っていた重工業ですが、その100年以上に渡る稼働の中で水銀、ダイオキシン、フラン類などの有害物質を大量に排出しており、その多くは五大湖の湖底や湖水に蓄積されてしまっています。
また、農業肥料や農薬、外来種などの流入による生態系破壊も問題となっています。

温暖化が原因と見られる水位の低下も、ここ十数年の間にかつてないペースで進行しています。
2013年時点で米国陸軍工兵司令部が発表したデータによると、「五大湖のうちの2つの湖は既に過去最低水位を更新している」ということが分かっています。

他にも魚介類の乱獲、非常識な観光客によるゴミの廃棄、気候変動による有害藻類の大量発生、同じく気候変動による冬季の氷の減少など、五大湖の自然は様々な要因によって崩壊の危機に瀕する事態となってしまいました。

五大湖の環境修復に向けた取り組み

五大湖元来の美しい状態を取り戻すべく、アメリカ環境保護庁が2010年に立ち上げたのが「五大湖回復イニシアティブ(GLRI)」です。
GLRIは五大湖の保護及び回復の促進を目指す中で、「魚介類や飲料水の安全性確保」「有害藻類ブルームの防止」「生態系機能の健全な回復」なども達成することを長期的な目標としています。

立ち上げ以降、GLRIは五大湖周辺の環境を保護するためのプロジェクトへ多額の資金を投入し続け、2016年時点で助成を受けたプロジェクトは3,500件以上にのぼっています。
その結果、水質改善や在来種の保護、汚染物質の流入防止などの様々な対策が実施され、五大湖は少しずつ本来の美しさを取り戻しつつあります。

さらに2018年には、カナダの環境・気候変動省が今後4年間に渡り36件の五大湖環境修復プロジェクトに895万ドル(日本円で約9億2650万円)の助成金を出すことを発表しています。
五大湖の環境を完全に修復するまでにはまだまだ時間がかかると考えられますが、一方で今後もアメリカとカナダの連携のもと、着実にその環境は改善されていくとも考えられています。

まとめ

今回は五大湖における環境汚染や、その改善および修復のために行われている取り組みについて見ていきました。

「五大湖って遠いし中々行く機会もないし、あんまり自分には関係ないなあ…」
と思った方も、もしかすると少なくないのかもしれません。
しかし、すべての環境問題はその地域周辺に限った問題ではなく、地球全体ひいては人間全体の問題だと言えるのではないでしょうか。

当コラムが、今まさに世界で起きている環境問題を「自分事」として捉え、五大湖以外の地域にも目を向けるきっかけになれば幸いです。

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