「マイクロプラスチック」という言葉をご存知でしょうか?
この言葉は、2004年のサイエンス誌に発表された論文で初めて言及されたことから、
有識者たちに認知され始めたと言われています。
しかしここ数年の間に、マイクロプラスチックに関する問題はテレビのニュースやネット記事などのメディア媒体でも頻繁に取り上げられるようになってきました。
そして2020年現在、マイクロプラスチックは国内外問わず多くの人々が知っている「国際問題」として、世界的に(主にヨーロッパを中心に)浸透しています。
ちなみに、日本では2018年の後半ごろからマイクロプラスチックへの認知度が徐々に高まってきています。
そしてこの問題と切っても切り離せないのが、2020年7月より国内の小売店でスタートした「レジ袋有料化の義務付け」です。
そこで今回は「マイクロプラスチックとはそもそも一体何?」「マイクロプラスチックとレジ袋有料化に一体どんな関係があるのか?」という点に焦点を当て、一緒に環境改善について考えていきましょう。
まずはマイクロプラスチックについて知ろう
定義
プラスチックの原料は石油となっており、全世界における生産量は年間で約3億トンにもなると言われています。
この生産量は石油産出量の約8%分となっており、その8%のうち半分は容器および包装の生産に使われています。
プラスチックの大きな特徴として、「自然に分解されず、半永久的に残る」というものがあります。
きちんとゴミ箱に捨てずポイ捨てされたもの、またはごみ処理場への輸送途中にはずみでトラックから出てしまった使用済みプラスチックなどは、自然に還ることなく雨風に流され、最終的には海に流れ着きます。
それらのプラスチックが波にもまれたり、紫外線を受けるなどの影響で劣化する過程で小さくなり、最終的に5mm以下にまでなったものをマイクロプラスチックと言います。
種類
マイクロプラスチックには大きく分けて2つの種類があり、1つは「一次プラスチック」、もう1つは「二次プラスチック」と呼ばれています。
以下、それぞれの特徴をご紹介していきます。
一次マイクロプラスチック
ボディソープや歯磨き粉などに使われるスクラブ剤には、小粒のビーズのような形状をしたプラスチック原料が使われています。
これが「一次マイクロプラスチック」です。
一次マイクロプラスチックは非常に微小かつ微細なため、一度自然環境の中へ流れ出てしまうと、回収は極めて困難となってしまいます。
またその小ささから、海洋生物が誤って飲み込んでしまうことへの危険性も指摘されています。
二次マイクロプラスチック
「1-1.定義」で述べたような、自然環境の中に流出した後に海に漂着し、やがて波や紫外線による刺激で劣化して小さくなったプラスチックのことを「二次マイクロプラスチック」と言います。
また波や紫外線以外にも、プラスチック同士が衝突したり摩擦することで砕けて小さくなるパターンもあります。
「5大プラスチック」とは
開発当初、プラスチック製品は「非常に画期的な存在」として多くの人々に支持され、以降20年以上に渡り世界各国で大量生産が行われ続けました。
その結果、現在ではなんと100種類以上ものプラスチックが開発されています。
そのうち生産量の多くを占めており、捨て方を誤ればマイクロプラスチックのもとになり得る「5大プラスチック」と称される種類は、次のようになります。
➀ポリ塩化ビニル(PVC)…ホース、水道管、合成皮革、クレジットカードなどに使用
②ポリエチレン(PE)
低密度ポリエチレン(LDPE)…ラップ・レジ袋・紙パック飲料などに使用
高密度ポリエチレン(HDPE)…洗剤用の容器・バケツ・灯油用のタンクなどに使用
③ポリスチレン(PS)…プリンター・ハンガー・フード用トレイなどに使用
④ポリプロピレン(PP)…ペットボトルのキャップ・ストロー・文房具・医療器具などに使用
⑤ポリエチレンテレフレタート(PET)…卵のパック・ペットボトル・衣類の繊維などに使用
これらを見ると、いかに私たちの周りにプラスチック製品が溢れているかということが分かりますね。
どんな被害がある?マイクロプラスチックの恐ろしさとは
近年、最も問題視されている海洋汚染
度々述べている通りマイクロプラスチックは非常に小さいため、海洋生物たちが食糧と間違えて呑み込んでしまうことが多々あります。
マイクロプラスチックは体内で消化されないため、誤って呑み込み続けると胃の中にそのまま蓄積されてしまい、最悪の場合その生物の命を奪うこともあります。
浜辺に打ち上げられたクジラの死骸を専門機関が解剖したところ、胃の中から大量のマイクロプラスチックが出てきた…という痛ましいニュースを目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
他にも「消化器官にプラスチックが詰まる」「プラスチック片により消化器官の内部が傷つけられる」などの理由で命を落とす生物もいます。
このようなマイクロプラスチックが原因で起きる海洋汚染は、年々深刻化の一途を辿っていることが分かっています。
ある研究機関の予測によると、今と同じ量のマイクロプラスチックが今後変わらず排出され続けた場合、20年後には海に浮かぶプラスチックの量はなんと今の約10倍にまでなるということが分かっています。
さらに30年後には、海に生息する魚たちの総数をマイクロプラスチックの総数が超えてしまう可能性もあると言われています。
人体にも影響がある?
また、マイクロプラスチックを呑み込む生物は、海鳥や魚に限りません。
度々述べているようにマイクロプラスチックは非常に小さいため、プランクトンのような極小サイズの生物でさえ呑み込んでしまうことがあります。
その結果どうなるかと言うと、マイクロプラスチックを食べたプランクトンを魚が食べ、その魚を人間が食べることで、巡り巡ってプラスチックに含まれる有害物質が人体にまで及ぶことになります。
実際2018年には、オーストリアの医療機関の研究に参加した8人の被験者の体内からマイクロプラスチックが検出されたというデータが発表されています。
全ての生物は食物連鎖の上で成り立っており、それは人間も例外ではありません。
「海が汚れる=人間を含む多くの生物の生命を脅かす」ということがよく分かりますね。
レジ袋有料化に意味はあるのか
冒頭でも述べたように、日本ではマイクロプラスチックの流出による環境への悪影響を少しでも減らすべく、2020年7月より全国の小売店におけるプラスチック製レジ袋の有料化が義務付けられています。
しかし、このレジ袋有料化には「環境保全のためには必要な措置だ」といった評価の声が挙がる一方で、「実際はあまり意味がないのでは」「むしろ広い目で見ればマイナス面が多い」などといった批判的な声が挙がっていることも事実です。
意味がないと言われる理由の1つに、「海に流出したプラスチックゴミの中で、レジ袋が占める割合は僅か0.3%」というデータがあります。
「たとえ僅かだとしても、さらに量を減らせるならそれに越したことは無い」という
見方もできますが、実はレジ袋の割合に対しペットボトルのゴミは13%近くの割合を
占めているため、どちらかと言えばレジ袋よりもペットボトル削減に関する対策を優先した方が良いのではないか、という意見が出るのももっともなことです。
また、指定ごみ袋のない地域などでは、レジ袋をごみ袋として再利用する人も大勢います。
そのような人々にとっては、1枚2~5円程度とはいえ毎回スーパーでレジ袋を購入するのは少々痛手に感じてしまうことでしょう。
とはいえ、まだレジ袋有料化が義務付けられてからそこまで時間が経っていないため、今後この政策がどのように環境を良い方向へ変えていくのか、今は少し様子を見た方が良いのかもしれませんね。
【12/18追記】近年ではプラスチックを分解する進化している?
マイクロプラスチック問題を解決すべく、近年では「バクテリアによるプラスチック分解」を可能にするための研究が世界中で行われています。
そんな中、最新の研究では「世界中の海や土壌に生息する微生物が、プラスチックを食べて分解できるように進化している」といった驚くべき可能性が報告されています。
この可能性は、スウェーデン・チャルマース工科大学のアレクセイ・ゼレズニアック教授率いるチームが行った研究によって示されてたものです。
同研究では、海洋環境や土壌環境から採取された2億以上のDNAサンプルが調査され、その結果3万種もの分解酵素が発見されました。
また、この時見つかった酵素の数やタイプは、サンプルが採取された地域のプラスチック汚染の規模や種類と一致していることも判明しています。
これは一見ポジティブなニュースに感じますが、決してそうではなく、むしろプラスチック汚染が世界中の微生物に与える影響の大きさと、その深刻さを物語っていると言えるでしょう。
まとめ
ここ十数年の間に一気に深刻化したマイクロプラスチック問題ですが、改善にはまだまだ長い時間がかかってしまいそうです。
専門家や政府もあらゆる対策を練りながら解決への道を探っていますが、とにかく私たちにできることは、「ゴミをポイ捨てしないこと」「ゴミを捨てる時はきちんと分別すること」の2つではないでしょうか。
これらは当然のことではありますが、それでも一人一人が日ごろから意識して行動することこそが、環境改善への最も大きな一歩になると言えるでしょう。