今さら聞けない「脱炭素社会」って何?日本が実現するためにクリアすべき課題とは

エコな取り組み

近年世界中から注目されており、当コラムでも度々触れている「脱炭素社会」ですが、「具体的にどのような社会を指しているのか実はよく分かっていない」という人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は脱炭素社会の意味や、実現のためにはどのような取り組みが必要かなどについて解説しながら、脱炭素社会を目指すことの重要性を考えていきたいと思います。

脱炭素社会とは

脱炭素社会とは、地球温暖化を進行させる最も大きな原因である温室効果ガスの排出を極力減らすことを目指す社会です。
現在、ヨーロッパをはじめとした各国がこの脱炭素社会実現を目標に掲げており、日本では2020年5月に菅義偉首相が就任後初めて行った所信表明演説において、「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」という「脱炭素宣言」を発表しました。

このように世界中が今脱炭素社会に向けて動いていますが、数年前までは「脱炭素化」ではなく「低炭素化」が重視されていました。
しかし、途上国の急速な経済成長などの影響により、低炭素化では対策が間に合わず温室効果ガスの排出量は増える一方でした。
そのため、2015年にパリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」において「パリ協定」が採択されて以降は、より具体的な地球温暖化対策を確立すべく、低炭素化から脱炭素化に目標設定が変更されたと言われています。
パリ協定とは、地球温暖化対策に向けた国際的な枠組みのことで、「世界全体における平均気温上昇を、産業革命前と比較して2℃以下に保ち、なるべく1.5℃以下に抑え込むこと」などを長期目標として掲げています。

なぜ今脱炭素社会が注目されている?

世界各国が脱炭素社会の実現を目指す背景には、年々深刻化する地球温暖化問題があります。
現在、気候変動の影響で海水の温度は上昇し、北極や南極の氷河は溶け、海面上昇をも進んでいます。
それらの現象は自然生物の生態系を脅かすだけでなく、世界各地で豪雨や森林火災などといった自然災害を引き起こしています。

パリ協定で「世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃以下に保つ」と設定されているのは、この「2℃以下」が自然と人間が共存できる限界だとされているからです。
これ以上世界の気温が上昇した場合には、未曽有の大災害や伝染病の蔓延、食料や水の不足などを今まで以上に深刻化させると言われています。

パリ協定が採択された2015年には、国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)も採択されました。
SDGsでは、貧困、環境、エネルギーなど、世界における様々な課題を17の目標として掲げていますが、そのうちのいくつかの目標にとって地球温暖化の解決は共通した課題です。
「気温上昇を食い止められる最後の10年」とも言われている2020年から2030年までの10年間においては、今まで以上に芯のある地球温暖化対策が求められています。

日本が脱炭素化を実現するために解決すべき課題

前述したように、日本は「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」という目標を掲げていましたが、実現するためには様々な課題を乗り越える必要があります。

まず一つ目は「化石燃料への依存度の高さ」です。
認定NPO法人の「環境エネルギー政策研究所(isep)が調査したデータによると、2020年の日本国内における再エネの全発電電力量(自家消費を含む)は20.8%であることが分かっています。
前年の18.5%からはやや増加しているものの、それでも日本のエネルギー産業では、いまだに石炭、石油、LNG(液化天然ガス)などの化石燃料が80%近くのシェア数を占めています。

特に、現在日本における主力エネルギーとなっている石炭と石油を用いた火力発電は、LNGを使用する火力発電の倍以上CO2を排出する点が問題視されています。
そのため、より一層の再生エネ普及が求められていますが、価格面や供給面などが十分に安定していないのが現状です。

二つ目は、「運輸分野の脱炭素化の遅れ」です。
運搬分野を支える自動車や飛行機などの主燃料にはいまだに化石燃料が用いられている場合が多く、エネルギー産業に次いで多量の温室効果ガスを排出しています。
それを削減するべく、近年では電気自動車(EV)や水素自動車(FCV)などの開発が進められており、補助金制度も設けられつつあります。
また、2020年からは燃料を再エネに変えるだけでなく物流の効率化も同時に実現するため、最先先端技術を駆使した「自立型ゼロエネルギー倉庫モデル促進事業」や、「トラック輸送高効率化支援事業」なども国によって進められています。
しかし、日本より一足早く自動車の電動化や航空燃料の変更、ガソリン車の販売規制などを行っていたヨーロッパや北欧各国などと比べると、やや出遅れた印象はどうしても拭えません。
この遅れを今後どう取り返していくかについては、日本における大きな課題だと言えます。

三つ目は、「鉄鋼分野における温室効果ガスの排出」です。
日本国内において鉄鋼分野、はエネルギー分野、運輸分野に次いで温室効果ガスを排出しています。
製鉄は日本における一大産業であることは間違いありませんが、製造時に石炭を使用しているため排出する温室効果ガスも膨大となっています。
この課題を解決すべく、近年では石炭の代わりに水素を原料に用いて温室効果ガス排出を削減する技術の研究も進められていますが、実用化に至るまではまだ数十年かかると言われています。

日本が脱炭素社会を実現するために必要な取り組みは?

カーボンプライシングの導入

カーボンプライシングとは、直訳すると「炭素の価格づけ」となり、温室効果ガスを排出した企業などを課税対象とする制度のことです。
現在日本では、以下の3つの税について導入が検討されています。

➀炭素税(地球温暖化対策税)
各企業の温室効果ガス排出量に応じて課税額を設定する制度。
排出量1トンあたり300円程度が課税される予定。

②排出量取引
企業の温室効果ガス排出量に上限を設定し、超過した場合に罰金を徴収する制度。
国内の一部地方公共団体では既に運用されている。

③国境調整措置
輸出品または輸入品の製造時に発生した温室効果ガス排出量に応じ、課税もしくは減免を行う制度。

エネルギーミックスの実現

エネルギーミックスとは、いくつかの発電方法を組み合わせて電気の供給を行う方法です。

日本では現在、「3E+S」に基づいたエネルギーミックスが推進されています。
「3E+S」とは、「エネルギーの安定的な供給(Energy Security)」、「経済性の向上(Economic Efficiency)」、「環境(Environment)」を実現させた上で、「安全性(Safety)」を確保するという考え方です。
例えば、火力発電の安定性に再エネのクリーンさを組み合わせれば、温室効果ガスの排出量を削減しながら安定的な電気供給を実現させることができると言われています。

ゼロカーボンシティの促進

ゼロカーボンシティとは、「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」という目標を掲げた地方公共団体のことです。
2021年4月の時点で、日本では350以上の地方公共団体がゼロカーボンシティ宣言を出しています。

革新的技術の確立

日本では脱炭素化を進めるべく、革新的な技術を開発する動きも進んでいます。
具体例には、以下のようなものがあります。

・化石燃料依存を解決する技術…排出後に回収した温室効果ガスを資源として再利用する「カーボンリサイクル」や「CCUS」の開発
・物流分野の脱炭素化…EV普及のための大容量かつ低価格な「高性能蓄電池」の開発

この他にも多くの企業や研究機関によって、日本の脱炭素化に向けた様々な技術の研究、開発が進められています。

まとめ

今回は脱炭素社会とは何か、日本が脱炭素社会を実現するために必要なことは何かについて解説していきました。
脱炭素社会に向けて舵を切り始めたばかりの日本は世界的に見てやや出遅れた印象がありますが、これから積極的に取り組みが進められてくことを期待したいですね。

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