日本の動物園による「種の保存」のための取り組み

環境問題

動物園は、教育、研究、レクリエーションを行う場である他に、「絶滅の危機に晒されている野生生物を保護し、種を保存する」という重要な役割を担う場でもあります。
この役割を果たすべく、日本各地の動物園は長年さまざまな取り組みを実施しています。
そこで今回は、動物園がどのように「種の保存」に取り組んでいるのか、取り組む上での課題とは何かについて考えていきたいと思います。

日本の動物園の現状

日本最初の動物園である上野動物園が開園したのは、1882年のことです。
開園当初はツルやニホンザルといった日本産動物が主に展示されていましたが、その後すぐゾウやキリンなどの海外から輸入された動物が中心的に展示されるようになりました。

高度経済成長期(1950~1960年代)に入ると、地方自治体は続々と動物園を作るようになり、日本各地に多くの動物園が設置されました。
1972年には、日中国交正常化を祝して中国から上野動物園にジャイアントパンダが寄贈され、空前の「パンダブーム」が起こりました。

しかし、テレビの普及により野生動物に関する情報を容易に得られるようになったこと、ディズニーランドなどの遊園地が立て続けに開園し娯楽が多様化したことなどによって、動物園の人気は低迷期に陥ります。
また、そのような世間の流れに焦ってか、この頃の動物園は動物に曲芸をさせるなど娯楽面ばかりを重要視し、生き物を扱う教育・研究機関としての役割が二の次になっていました。

そんな中、北海道旭川市の旭山動物園は1990年代以降展示スタイルの改善に取り組み、動物の姿をそのまま見せるだけの「形態展示」から、動物の自然なままの行動や能力を見せる「行動展示」に移行しました。
その結果、2008年には旭山動物園の来園者は年間300万人を超え、唯一無二の人気動物園となりました。

これ以降、旭山動物園の後を追うように、全国各地で「行動展示型動物園」が増えていったのです。
このように、多くの動物園は時代と共に「動物ファースト」な運営方法に変化しています。

動物園で行われている「種の保存」活動

トキ

日本の動物園が初めて「絶滅危惧種の野生生物を保護し、種を保存する」という取り組みを行ったのは、1950年代のことです。
当時、野生のトキの生存が危機的状況にあることが問題視されており、1953年に新潟県・佐渡市で怪我を負ったトキが上野動物園に保護されたことをきっかけに、都内3動物園による「トキ保護実行委員会」が立ち上げられました。

その後、委員会は正式に文化庁の委託を受けて、人工飼料の開発や飼育下におけるトキの繁殖など本格的な保護活動を開始しました。
トキの保護事業が環境庁(当時)の所管となり、1980年代頃から佐渡トキ保護センターが中心的に飼育下繁殖に取り組むようになって以降も、動物園のスタッフや獣医師はトキ飼育のノウハウを活用するため度々佐渡に出向いており、その取り組みは現在も続いています。

2003年には日本の野生産最後のトキである「キン」が死亡しましたが、1999年に中国からトキのペアである「友友(ヨウヨウ)」と「洋洋(ヤンヤン)」が贈呈されてからは、着実に繁殖が進んでいます。

コウノトリ

日本の特別天然記念物であるコウノトリですが、残念ながら日本の野生コウノトリは1971年に絶滅しています。
しかし翌1972年、日中国交正常化と北京動物園との交流をきっかけに、東京都の多摩動物公園でのコウノトリの飼育が開始しました。
それから16年後の1988年には、日本国内初となるコウノトリの飼育下繁殖に成功し、以降も順調に繁殖が進められています。

1999年には、野生コウノトリ最後の生息地だった兵庫県・豊岡市に「コウノトリの郷公園」が開園し、もう一度コウノトリを日本の空に羽ばたかせるための野生復帰計画がスタートしました。
この計画は2005年に達成され、今では豊岡市にとどまらず日本各地の空をコウノトリが舞っています。

動物園に求められる「種の保存」の役割

動物園に「種の保存」の役割を求める声がより一層強くなったのは、1980年代に入ってからです。
1980年、IUCN(国際自然保護連合)が公表した「世界環境保全戦略」では、動物園に絶滅のおそれのある種の保存を支援することが強く求められました。

また、1993年にIUCNやその他機関が公表した「世界動物園保全戦略」では、動物園運営における大きな目標として「種の保存」と「環境教育」が打ち出されました。
こうした世界的な流れを受け、日本では1992年に「生物多様性条約」が採択され、1995年には地球環境保全に関する「生物多様性国家戦略」が策定されます。

そして2014年5月には、日本動物園水族館協会と環境省の間で、「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」が締結されます。
この協定書では、絶滅危惧種の保護と外来種対策を積極的に進めていくことが主な目的とされており、そのために必要な普及啓発等を連携して実施することについても盛り込まれました。

動物園における「種の保存」をめぐる課題

「種の保存」に関する取り組みを行う動物園が年々増えている一方で、取り組みを行う上でクリアしなければならない課題も浮き彫りになっています。

一つは、たとえ現場に「種の保存」に取り組みたいという意欲があっても、運営側が難色を示し、中々実現に至らない場合があるという点です。
実際、動物園の事業評価は、集客数や収益などの基準から判断されることが多く、運営側からすれば、成果が不確実な「種の保存」を評価することはまだまだ難しいのが現状です。
持続的な「種の保存」活動を促進していくには、動物園がそこに取り組むことの意義をより公的に認知してもらうための働きかけが必要だと考えられています。

また、WAZA(世界動物園水族館協会)が定めた動物福祉規範によると、「原則的に野生生物の捕獲は許されない行為であり、動物園はこれまでに収集してきた動物の飼育を行いながら繁殖にも取り組み、世代交代を促すことが重要」だとされています。
実際、現在日本の動物園で展示されている動物の半数以上は、繁殖による個体だということが分かっています。

しかし、生物の繁殖で重要視されるのは、「いかに遺伝的多様性を維持できるか」という点です。
そのためには一動物園にとどまらず地域や国を超えて課題に取り組んだ方がより効果的ですが、それを実現するには、移動による動物のストレス、輸出入における条約、検疫、輸送費など、様々な問題をクリアしなければなりません。
それでも種の希少性や絶滅の可能性が高いほど、広範囲における繁殖活動の必要性も高まるため、よりグローバルに「種の保存」に取り組める仕組みづくりが求められています。

動物の展示方法にも変化の兆しが

現在、動物園での飼育や野生動物保全に必要な個体情報を一括管理する国際機関としては「国際種情報機構(ISIS)」があり、日本からもいくつかの動物園が加盟しています。

しかし、ISISに加盟するには比較的高額な費用がかかること、また使用言語が英語に限られていることなどから、加盟を渋っている動物園も少なくありません。
ISIS非加盟の動物園が海外の動物を入手したいと思った場合、情報収集と交渉を独自に進めていく必要がありますが、この手続きに不慣れな動物園も多いため、受け入れに難航するケースが度々報告されています。

このような海外動物の輸入における手続きの複雑さや、野生生物の捕獲がタブーになりつつある現状を受け、外国産動物ではなく地域にゆかりのある動物を展示し、「地域動物園」としての存在価値を高めていくことを重視する動物園も増えています。

まとめ

「さまざまな動物を見ることができる場所」というイメージの強い動物園ですが、私たちの知らないところで多くの野生生物を保護し、種を保存するための活動に取り組んでいたとは驚きですね。
今後動物園に行く時は動物だけではなく、そこで活躍するスタッフの方達にも思い馳せてみてはいかがでしょうか。

参考URL:参議院「種の保存における動物園の役割」
参考URL:環境省「佐渡トキ保護センター」
参考URL:
兵庫県立コウノトリの郷公園「コウノトリ野生復帰グランドデザイン」

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