宇宙でからあげクンが食べられる時代に!宇宙飛行士の心身を支える「宇宙食」の歴史

宇宙

有人宇宙飛行が行われるようになった1960年代から現在に至るまで、宇宙食は宇宙飛行士たちの大切な栄養源であり続けています。
開発当初はあくまでも栄養補給食品として位置づけられていたため、とても美味しいとは言えない代物ばかりだったそうですが、食事が「過酷な宇宙空間における貴重な楽しみ」となるように改良が重ねられた結果、近年では美味しく食べられる宇宙食も豊富に存在しています。

そして美食の国・日本では美味しい宇宙食の開発がとりわけ熱心に行われており、2020年6月にはローソン、JAXA、様々なメーカーが共同開発した「スペースからあげクン」が「宇宙日本食」として認証されました。
コンビニエンスストアのオリジナル商品が宇宙日本食に認証されるのは、これが初めてのことだそうです。

今回は、宇宙食の歴史を辿りつつ、スペースからあげクンをはじめとした近年話題の宇宙日本食についてチェックしていきたいと思います。

宇宙飛行士からは大不評!初期の宇宙食

1963年頃の宇宙食(画像引用元:JAXA宇宙映像館

宇宙空間で初めて食べ物を口にしたのは、1961年にソビエトのヴォストーク2号に搭乗したゲルマン・チトフ飛行士です。
当時は「喉に食べ物が詰まるのではないか」との不安から、チューブに入ったものやトレイに充填されたクリーム状、ゼリー状の宇宙食が用意されたそうです。
その後ひと口サイズの固形食も登場しましたが、いずれにせよ宇宙飛行士たちからは「まるで離乳食のようだ」と不評でした。

1963年頃にはペースト食は廃止され、代わりに乾燥食品や中程度の水分を含んだ食品が採用されるようになり、宇宙食の質とメニューはいくらか改善されました。
しかしやはり味の方はイマイチだったらしく、1965年にアメリカが行ったジェミニ3号の宇宙飛行では、搭乗していたジョン・ヤング飛行士が味気ない宇宙食に不満を募らせ、機内にこっそりコンビーフサンドを持ち込み食したそうです。
この行為は器物破損や食中毒などのリスクを生む危険性があったため厳しく批判されましたが、同時に「食事の質は宇宙飛行士の士気に影響する」ということも認められ、以降の宇宙食の味が改善される大きなきっかけとなりました。

少しずつ進化する宇宙食

スカイラブ時代(1973年~74年頃)の宇宙食(画像引用元:JAXA宇宙映像館

「アポロ時代」と呼ばれる1969年~72年頃には宇宙でもお湯が使えるようになり、食品を水で戻して暖かい食事をとることが可能になりました。
これにより食事のメニューも一気に増え、七面鳥、ミートソーススパゲティ、豆のスープ、スクランブルエッグなどが宇宙空間で食べられるようになったそうです。
ちなみに当時の宇宙飛行士に必要な摂取カロリーは、1日1人あたり2800キロカロリーとなっており、初期のペースト状宇宙食の場合は1日でなんと2kg分も摂取しなければなりませんでした。
しかしアポロ時代の宇宙食は、約1/3の600gで必要分のカロリーを摂取できるように改善されています。

「スカイラブ時代」と呼ばれる1973年~74年頃には生医学実験などが積極的に行われるようになり、 宇宙空間における食事メニューはより一層緻密に管理されるようになります。
メニューのうち約半数はまだ水で戻すいわゆる加水食品でしたが、残りの半数は温度安定化食品(レトルト食品や缶詰)、そのまま食べられる加工食品(ナッツやドライフルーツなど)、フリーズドライ食品など、地上の食事に近いものが提供されるようになりました。
この頃から容器は蓋付きのアルミ缶になり、さらにナイフ、フォーク、スプーンを使って食事できるようになったことで、宇宙空間における食事環境は一気に改善されました。

「単なる栄養源」から「美味しい食事」へ

2006年頃の宇宙食(画像引用元:JAXA宇宙映像館

スペースシャトルが活躍し、国際宇宙ステーション(ISS)が開発された1981年~2008年頃には、宇宙食はますます地上の食事に近いものとなりました。
メニューのラインナップもさらに広がり、前述した温度安定化食品、そのまま食べられる加工食品、フリーズドライ食品に加え、一部の市販食品や新鮮食品(リンゴ、オレンジ、セロリなどの果物や野菜)も宇宙空間で楽しめるようになりました。
ちなみにスペースシャトルの宇宙食はプラスチック容器に入っており、水やお湯を加えて戻して食べるもの、電気オーブンレンジで加熱できるものなどがあったそうです。

また、当初ISSの滞在初期段階の食事メニューはロシアの宇宙食とアメリカの宇宙食のローテーションとなっていましたが、2008年以降はシステムが変わり、日本やヨーロッパなどの宇宙機関が開発した宇宙食もメニューに選ばれるようになっています。
今や宇宙食は栄養源や一宇宙飛行士の個人的な楽しみにとどまらず、各国から集まった宇宙飛行士たちの交流を深める大切なコミュニケーションツールとなっています。

近年の宇宙日本食

「きぼう」船内実験室(PM)の窓で撮影された宇宙日本食の亀田の柿の種(画像引用元:JAXAデジタルアーカイブス

日本では2004年より、「宇宙日本食」というプロジェクトがスタートしています。
宇宙日本食とは、食品メーカーなどが提案する食品をJAXAが定めた「宇宙日本食認証基準」と照らし合わせ、基準をクリアしていた場合に宇宙日本食として認証するものです。
ISSに滞在する日本人宇宙飛行士に日本食の味を楽しんでもらい、長期滞在による精神的なストレスを軽減し、パフォーマンスの維持および向上につながることを目的として開発されました。
「日本食」と言っても、宇宙日本食は日本の伝統的な「和食」に限定している訳ではなく、日本の家庭で普段食されている範囲が対象となっています。
そのためこれまでに宇宙日本食として認証された食品には、カレーライスや焼きそばなども含まれています。

2021年現在までに認証された宇宙日本食は47品目、提案した食品が認証を受けたメーカーは26団体となっています。
冒頭で紹介したスペースからあげクンの他、認証された宇宙日本食には以下のものがあります。

・日清スペースカップヌードル
・キッコーマン宇宙生しょうゆ
・名古屋コーチン味噌煮
・森永ミルク生活(宇宙用)
・サバの味噌煮
・亀田の柿の種(宇宙用)
・マヨネーズ
・味付け海苔
・ようかん


特に日清からは多くの食品が宇宙日本食に認証されており、日清スペースカップヌードルの他には「日清スペースチキンラーメン」や「スペース日清焼そばU.F.O.」なども認証されています。
日清では創業者の安藤百福氏が「宇宙食をつくりたい」という強い思いを持っていたことから、他メーカーよりもいち早く宇宙食開発をスタートさせており、2001年からはJAXAと共同開発を進め、世界初の宇宙食ラーメン「スペース・ラム」を開発しています(スペース・ラムは2007年に宇宙日本食認証)。
元々ラーメンは宇宙食に不適格な食品の代表格とも言われていたため、これは世界的な快挙でした。
ちなみにスペース日清焼そばU.F.O.は、野口聡一飛行士からの希望を受けて開発されたそうです。

また「森永ミルク生活(宇宙用)」は、森永乳業がJAXAから依頼を受けて申請し認証された、大人向けの粉ミルクです。
ミルク生活にはビフィズス菌やラクトフェリンなどの機能性成分が配合されているため、骨からカルシウムが溶けだしてしまう無重量空間における効率的なカルシウム補給源となることが期待されています。

宇宙日本食は、現在は日本人宇宙飛行士のみに提供されていますが、今後は国際パートナーの宇宙飛行士にも提供することが考えられています。
宇宙で日本食ブームが起こる日は、そう遠くないのかもしれません。

まとめ

今回は、宇宙食の歴史や宇宙日本食などについて見ていきました。
宇宙飛行士もそうでない人も関係なく、美味しい食事は誰にとっても心の癒しとなることが分かりましたね。
そして「宇宙では今カップヌードルを食べている人がいるのかな…」と考えると、遠い宇宙もなんだか身近な場所に感じられる気がしますね。
ちなみに、今回紹介した宇宙食の一部はJAXAのオンラインショップなどで購入することができるので、気になる人は是非一度トライしてみてはいかがでしょうか?
今までに体験したことのない、新しい美味しさに出会えるかもしれませんよ。

タイトルとURLをコピーしました