日本に暮らす人々にとってのソウルフードに留まらず、今や世界中で愛されている寿司。
回転寿司などに行くとメニューには様々な寿司ネタが載っていて、ついつい目移りしてしまいますよね。
また、年末年始のご馳走として寿司を食べたという人も多いのではないでしょうか。
しかしそのメニューの中のいくつかの寿司ネタは、年々深刻化している海洋環境の変化の影響により、遠くない将来食べられなくなる可能性が浮上しています。
今、海では一体何が起こっているのでしょうか。
そして、海の環境破壊を食い止める方法はあるのでしょうか。
日本の伝統食を守るためにも、激減の危機に瀕している寿司ネタとそれらを守る方法について見ていきましょう。
寿司ネタが激減する原因
海洋酸性化
海洋酸性化とは、「大気中において濃度が上昇した二酸化炭素が海洋に溶け込むことによって、海水に含まれる炭酸イオンやカルシウムなどの濃度が低下する現象」のことです。
この炭酸イオンとカルシウムイオンを結合させた「炭酸カルシウム」は貝類や甲殻類が殻や骨格を作るために必要不可欠な物質となっているため、海洋酸性化が進行するとこれらの生物の成長を妨げることに繋ります。
「オークリッジ国立研究所CO2情報分析センター」の発表したデータによると、2016年時点で大気中の二酸化炭素濃度は産業革命以前に比べ0.04%増加していることが分かっています。
このペースでの増加が今後も続けば、海洋の生物多様性はさらなる危機に瀕する可能性が高いと言えるでしょう。
海水温度の上昇
海洋酸性化と同様に、海水温度の上昇も進行の一途を辿っています。
科学誌「サイエンス」によると、世界の海水温は同誌が2014年に発表した予想していた速度を遥かに上回るスピードで上がっていることが分かっています。
海水温が上昇すると生態系に影響を及ぼすのはもちろん、温度が高くなった海水が蒸発して大気中に溶け込むことによって、大雨や台風などの自然災害の発生を招くおそれもあります。
また、暖かくなった水が膨張することによって起きる海面上昇で海全体の体積が増加すると、海抜の低い国では陸地が浸食され、作物が腐るなどの甚大な被害が発生する場合もあります。
乱獲
人の手による乱獲も、海の環境破壊の大きな原因の一つとなっています。
人気のある寿司ネタだからと言って必要以上に特定の魚や貝を乱獲することは、その種の個体数を減少させるだけに留まらず、海洋全体の生態系バランスを崩す危険性も含んでいます。
今後無くなるかもしれない寿司ネタ
マグロ
日本で最も流通数が多く寿司ネタとしても人気の高い太平洋クロマグロですが、そのあまりの人気ゆえに多くの海域で乱獲が行われ、その結果2014年には「絶滅危惧種Ⅱ類」に指定されています。
また太平洋クロマグロの他にも、大西洋クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロも絶滅危惧種としてレッドリスト入りしています。
サケ・イクラ
低めの水温が成長に適しているシロザケは、海水温度が上昇することで分布域が北へと追いやられ、100年以内には日本周辺への回遊が困難になると考えられています。
これにより、国産サケやイクラといった寿司ネタは消滅する危険性があります。
ヒラメ・真鯛
サケと同様に海水温度の上昇によって生息地が北へと追いやられている影響で、100年以内に瀬戸内海、東京湾におけるヒラメや真鯛の生育は困難になることが予想されています。
ウニ
寿司ネタに使われることの多いキタムラサキウニは生育する上での限界水温が25℃となっており、海水温の上昇に弱いという特徴があります。
また、キタムラサキウニの生育に必要な海藻類も同様の水温帯が適水温となっているため、このまま海水温の上昇が進むと生息地そのものが消滅するおそれもあります。
さらに海洋酸性化の影響により、幼生における殻の形成が困難になる可能性も高まっています。
イカナゴ
イカナゴは、エサが不足する夏季に砂の中で眠って夏を越えるという特徴を持っています(夏眠)。
しかし海水温度の上昇により夏眠の開始が早まり、またその期間も延びてしまうと、十分なエサが確保できず冬期の産卵ができなくなるおそれがあります。
また、比較的粗い砂泥の中でないと生息できないため、水温変化が発生した際に移動できる場所が限られてしまうという点も懸念されています。
シャコ
東京湾に生息するシャコは、「水温が高く、北風が強く、河川流量が多いほど減少する」という特徴があります。
また、幼生期のシャコは塩分濃度の低い海水環境に弱いため、地球温暖化の影響により降雨量が増えると、海水塩分の低下を招き生息数が減少する可能性があるとされています。
ホタテ
ホタテは、23℃を越えると生理機能に致命的な障害が起こることが分かっています。
また海水が高温になると、貝同士がぶつかった際に負った傷が治りにくいことも確認されています。
さらに前述した海洋酸性化が進むと、幼生期に貝殻の形成を行うことが困難となり、結果的に生息数の減少に繋がるのではないかと予想されています。
アワビ
クロアワビやエゾアワビの成貝の場合、高水温期(8月ごろ)の限界水温は28℃、稚貝の場合は24~25℃となっており、海水温の上昇に弱いという特徴があります。
また、アワビの生育に必要な海藻類も同程度の水温帯が適温となっているため、海水温上昇が進むと生息地そのものが消滅する可能性があるとされています。
さらにホタテと同様に、海洋酸性化の影響で幼生期の貝殻の形成が困難になるおそれもあります。
ズワイガニ
ズワイガニは海底深くを生息地とするため、水温変化の影響は大きくはないと考えられる場合もあります。
しかし海水温上昇が海中の酸素濃度にまで影響を及ぼした場合には、生息地がかなり狭まるおそれがあります。
また海洋酸性化の影響により、殻を形成するエネルギーが現在よりも多く必要となる可能性も懸念されています。
寿司ネタ以外にも!?絶滅の危機にある海洋生物
クリオネ
「流氷の天使」として水族館などで人気を博しているクリオネ(ハダカカメガイ)も、海の環境変化によって絶滅の危機に瀕している生物の一種です。
野生のクリオネは主に北太平洋(北海道を含む)に生息しており、「ミジンウキマイマイ」という小さな巻貝を主食としています。
しかし、海洋酸性化の影響で近い将来ミジンウキマイマイは絶滅する可能性があり、そうなった場合にはエサを失ったクリオネも姿を消すおそれがあります。
サンゴ
北の海でクリオネが絶滅の危機にさらされている一方で、南の海ではサンゴが絶滅へのカウントダウンを迫られています。
貝類や甲殻類と同じくサンゴも炭酸カルシウムを利用して骨格を形成するため、今のペースのまま海洋酸性化が進むと生育がより困難になると予想されています。
「環境」も「おいしい」も守るべく生まれた「サステナブル寿司」とは
海洋環境も寿司も両方守っていくために、近年では「サステナブル寿司」(サステナブル・シーフード)という新しい寿司の在り方が提唱されています。
サステナブル寿司とは「環境や生態系に極力リスクを与えない、持続可能な方法によって捕獲・収穫された魚介類および農産物を用いた寿司」のことです。
サステナブル寿司を目指すためのシンプルな指針として提唱されている「4-Sルール」の内容は、次のようになります。
・Small(小さい)…成長力、繁殖力ともに高い小さな魚を捕獲すること(イワシ、アジなど)
・Seasonal(季節性)…できるだけ季節性を意識し、旬の魚介類を提供すること
・Silver(銀)…銀色の皮を残したまま調理する所謂「ひかりもの」を多く食べること
・Shellfish(貝類)…アサリ、カキなどの海洋資源に依存せず養殖できる貝類を選ぶこと
サステナブル寿司は元々アメリカから始まったものですが、近年では日本でも少しずつこの意識を取り入れたレストランや寿司屋が増えつつあります。
まとめ
今回は絶滅の危機にある寿司ネタとその原因、そして寿司ネタを守るために広まりつつある取り組みについて見ていきました。
今度寿司を食べる時には、寿司ネタの存続や地球環境の未来に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
そんな風に少し意識を向けるだけでも、環境改善への大きな一歩となるかもしれませんよ。
参考URL:海洋環境にやさしく、おいしい!サステナブル寿司の世界
参考URL:人気の寿司ダネ、食べられなくなる? 危機をもたらす「海の酸性化」とは
参考URL:すきやばし次郎の店主、魚の乱獲に警鐘「5年後には寿司の食材が変わってしまう」
参考URL:寿司が消える日 久兵衛×euglena