歴史認識、経済、領土問題など、近いからこそ昔から何かと摩擦や衝突が起きがちな日本、中国、韓国の三カ国。
しかし決して対立ばかりではなく、時にはその近さゆえの団結力で様々な国際問題の解決に力を合わせて取り組んでいます。
特に環境問題を解決するためには、北東アジアの中核である日中韓の協力は必要不可欠です。
そのため日中韓三カ国の環境大臣は、北東アジア地域、そして地球全体の環境問題に関する意見交換を行う「日中韓三カ国環境大臣会合」、通称「TEMM(the Tripartite Environment Ministers Meeting among China. Japan and Korea)」を1999年以来毎年開催しています(2020年は新型コロナウイルスの影響により延期)。
この会合では各国の大臣が率直に意見を交わすことで、協力関係を強化することを目的としています。
また会合の中では対話が行われるだけでなく、環境問題解決のための具体的なプロジェクトもいくつか推進されています。
今回は、そんなTEMMの歩みを第1回から辿っていきましょう。
第1回(1999年)
記念すべき第1回目の会合は、1999年1月に韓国のソウルで開催されました。
当時の三カ国の環境大臣である真鍋大臣(日本)、解大臣(中国)、崔大臣(韓国)が一堂に会し、北東アジア地域の環境問題解決のために優先して取り組むべき分野を決定しました。
その分野は、以下の通りです。
・「環境共同体」としての意識向上
・活発な情報交換
・環境研究における協力強化
・環境産業分野および環境技術向上への協力
・大気汚染防止および海洋環境保全のための対策の探求
・気候変動や生物多様性などを含む地球環境問題への対応
第一回で定められたこれらの取り組み内容は、発足当初から現在に至るまでTEMMの活動における重要な礎となっています。
第2回~第10回
ここからは、第2回目から直近の第21回目までを掻い摘んで振り返っていきましょう。
第2回(2000年)
第1回で決定した優先取り組み分野をさらに具体化し、「TEMMプロジェクト」として実施することを決定しました。
プロジェクト内容には、「湖沼の汚染防止」「海洋汚染の防止」「生態系の修復(主に中国北西部)」などが含まれました。
第6回(2004年)
循環型社会に向けアジア全体で協力関係を築いていくことを目指し、日中韓によるセミナー等を積極的に開催することを決定しました。
また、北東アジア地域の環境管理について継続して議論するための作業部会を設置することが決定しました。
第9回(2007年)
黄砂問題に関する共同研究の開始や、有害物質(光化学オキシダントなど)による汚染メカニズムの解明などに向けた研究を協力して進めていくことについて合意しました。
また、生物多様性に関する情報および意見交換、電子機器廃棄物に関する協力の強化、化学物質管理における協力の強化などについて合意しました。
第10回(2008年)
第9回で合意した有害物質の汚染メカニズムの解明や黄砂問題に関する共同研究のさらなる強化の他、アジア全体の循環型社会構築実現に向けた協力を強化することが決定しました。
また、過去10年におけるTEMMの取組みを振り返り、北東アジアにおける環境協力の一層の拡大および拡充について合意しました。
第11回~第16回
第11回(2009年)
第11回では、過去のTMMの取り組みを総括した上で、今後5年間(2009-2014年)における「10大優先強力分野」が決定しました。
具体的な内容は、以下の通りです。
・環境分野における教育の推進および環境意識の向上
・コベネフィット・アプローチ(気候変動対策を促進するための概念)
・低炭素もしくは脱炭素社会の実現
・生態系保護
・黄砂対策
・大気汚染や海洋汚染の解消
・循環型社会の実現
・化学汚染物質による汚染の防止
など
この第11回目以降、TEMMは首脳会議からの指示を受け環境分野で協力を実施していくなど、「日中韓サミットの重要な構成要素の一つ」としての役目を一層果たすようになり、さらに期待を向けられる会合となりました。
第12回(2010年)
「環境協力に関する三カ国共同行動計画」を共同で策定し、この計画のうち10の分野を今後5年間(2010-2014年)の優先協力分野とすることを合意しました。
また今後の活動に向けて、「透明性」「開放性」「互いへの信頼」「多様な文化の尊重」という原則に基づき、三カ国は以下の3事項を共有し、実施することも決定しました。
・アジア全体における「環境上適切な発展」の推進
・日中韓三カ国の首脳に「環境協力に関する日中韓共同声明」に対する各国大臣の提案を提出
・北東アジア地域における環境協力をさらに強化し、グリーン経済を実現するための努力を行う
第16回(2014年)
第16回では、当時深刻化していたPM2.5などの大気汚染問題が最も重要な議題として取り上げられました。
その結果、今後5年間(2014-2019年)は大気汚染の改善を三カ国の優先協力分野の一つに含めるとともに、具体的な協力内容を記したコミュニケ(声明書)を採択しました。 また、日中韓の学生、そして環境産業界の代表者による「TEMMユースフォーラム」および「TEMMビジネスフォーラム」が開催されました。
第17回~第21回
第17回(2015年)
今後5年間(2015年-2019年)における「環境協力に係る日中韓三カ国共同行動計画」およびコミュニケが採択されました。
また、前年に続き「TEMMユースフォーラム」、そして環境産業界の代表者による「日中韓環境ビジネス円卓会議」が開催されました。
第18回(2016年)
昨年採択された行動計画に基づき、各分野の活動および協調的な取り組みを、今後も継続・拡大していくことが確認されました。
また、「持続可能な2030アジェンダ」および「パリ協定」について、この年(2016年)のうちに対策を実施することを合意しました。
加えて、大地震などの災害時に発生した廃棄物対策などにおける経験や政策の共有を三カ国間で図ることにも合意しました。
また、日中と日韓のそれぞれ二国間において環境大臣会談が行われ、環境協力の一層の促進に向けた議論が交わされました。
特に日中間では、両大臣によりコベネフィット・アプローチに関する協力覚書への署名が行われました。
第20回(2018年)
脱炭素都市の構築のための共同研究、ヒアリ等を含む外来種対策、海洋ごみ対策、大気汚染、SDGsなどについて率直な意見交換が行われた後に、共同コミュニケが採択されました。
また、前年に続き日中および日韓の環境大臣による会談が行われ、環境協力の一層の促進に向けた議論が交わされました。
日中間の環境大臣会談の場においては、両大臣による「大気環境改善協力に関する覚書」への署名が行われました。
第21回(2019年)
今後5年間(2020-2024)に向けた「次期共同行動計画」における新たな優先分野(大気汚染の改善、化学物質管理および緊急時の対応など)を決定し、それに基づいた共同コミュニケを採択しました。
また、前年同様二国間(日中、日韓)における環境大臣同士の会談が行われました。
なお、2020年に開催予定となっていた第22回は新型コロナウイルスの影響により開催が見送られていますが、事務レベルの準備会合などはオンライン形式で開催されており、引き続き環境問題の解決に向けた協力意識を絶やさないための取り組みが行われています。
TEMMが推進する主要プロジェクト
TEMMの発足を契機として、日中韓の三カ国間では環境問題の共同解決に向けた様々なプロジェクトが立ち上がりました。
中でもTEMMが推進している主要プロジェクトの一部は、以下の通りです。
・TEMMウェブサイトプロジェクト(英語版TEMMウェブサイトの立ち上げおよび実績の公表)
・合同環境研修(環境行政官向けの研修プログラム)
・日中韓環境教育ネットワーク(環境教育の専門家や教育者による意見交換プロジェクト)
・日中韓環境ユースフォーラム(日中韓三カ国の若者による意見交換プロジェクト)
これらのプロジェクトは、日中韓に暮らす人々の環境意識を向上させ、環境改善に向けて協力するネットワークを形成する一助となっています。
まとめ
今回は、日中韓による環境問題解決に向けた会合TEMMについて解説しました。
地球全体の課題である環境問題を解決へ導くためには、国境を越えた協力が必要不可欠だということが分かりましたね。
次の会合がいつ開催されるかについてはコロナの状況次第ですが、引き続きその活動には注目していきたいと思います。
参考URL:TEMM 日本オフィシャルサイト