皆さんは「竹」と聞くと何を思い浮かべますか?
多くの人は風光明媚な竹林、春の味覚であるタケノコ、「竹取物語」などを思い浮かべるのではないでしょうか。
また、しなやかで折れにくく空に向かって真っすぐと伸びる竹は、生命力を象徴する縁起の良い植物として、お正月に飾る門松にも使われています。
このように、竹は日本に暮らす人々にとって非常に馴染み深い存在です。
そんな竹ですが、近年では放置竹林による「竹害」が深刻化し、環境に大きな影響を及ぼすとして懸念されています。
一体なぜ竹害が起こるのか、今回はその背景と解決法について見ていきましょう。
放置竹林とは
日本では古くから日用品や家具、建築物の資源として竹が重宝されていたこと、また戦後はタケノコ栽培が盛んになったことから、1950年代には多くの竹林が作られ、管理されていました。
しかし、経済成長とともに輸入品のタケノコやプラスチック資源が出回るようになり、竹林の需要が減少すると、全国各地の竹林は次第に放置されるようになりました。
これが、今問題となっている放置竹林です。
「植物である竹を放置しても、環境には問題ないのでは?」と思うかもしれませんが、竹はその生命力の強さゆえに思わぬ被害を生むことがあるのです。
竹の特性
放置竹林による竹害について知る上で、「竹は一体どのように生え、成長するのか」を知っておくことはとても重要です。
ここでは、竹の特性について解説していきます。
繁殖の母体は地下に広がる茎
竹は地中に伸びる「地下茎」を母体として繁殖しており、この地下茎こそが竹の本体とも言われています。
地下茎には約5㎝間隔で芽子が付いており、これがタケノコや新たな地下茎として成長します。
竹と共に成長し、平均では年間3~5m程度、より生命力が強い場合は年間8㎝程度伸びる場合もあります。
地下茎は地面と水平方向に波打ちながら根を広げ、力強く生息域を拡大しますが、近年ではその成長が林内でとどまらず、林外にまで及ぶケースが増えています。
たとえ林外に生えたすべての竹を伐採したとしても、地下茎がある限りはまたすぐに芽子が生えてきてしまうのです。
驚異的な成長力と競争力
地下茎にタケノコの芽子が付くのは8~9月頃ですが、地中ではタケノコの生長は非常に遅く、約半年後の翌年3月頃になってようやく地上に姿を現します。
地上に出たタケノコは一転して驚異的なスピードで成長し、わずか10日後には1m近く成長します。
さらに最盛期である夏場には、1日で1m以上成長することもあります。
竹の成長が早い理由としては、細胞分裂などによって成長を促す「成長点」が他の樹木よりも多くあることなどが挙げられています。
なお、地上に出てから2~3ヶ月後には成長スピードが緩やかになり、2年後にはほとんど全く成長しなくなります。
また、竹はその成長スピードの速さ、そして常緑であることから、非常に競争力の高い植物としても知られています。
そのため、スギやヒノキといった成長スピードが遅い樹木の林に竹が侵入した場合、竹の枝葉が日光を遮断してスギやヒノキの成長を妨げるだけでなく、元々そこにあった樹木よりも200倍近くの密度で竹が繁殖してしまうおそれがあります。
放置竹林が引き起こす竹害
竹が持つ驚異の生命力について分かったところで、「放置竹林がもたらす被害=竹害」について知っていきましょう。
まず最も懸念される竹害としては、「大規模な土砂災害」があります。
前述したように、竹は地下茎を母体としてどんどん繁殖するという特性を持っています。
しかし実は繫殖力の高さに対して根は浅く、地下茎は約10~30㎝の深さにしか分布しないことが分かっています。
浅い所に根を張り、絡み合って繁茂する地下茎は水による浸食を防ぐとされ、古くから川沿いの地域では「水防竹林」が植えられてきました。
高知県と徳島県を流れる吉野川の沿川部に植えられた水防竹林が、その代表例です。
一方、沿川部ではなく山などの斜面部に竹林がある場合、かえって災害を招く危険性があることが近年指摘されています。
たとえばスギやヒノキなどの樹木は根を深く張るため、たとえ雨が降って土壌が緩んだとしても、土をしっかり支え、土砂崩れが起こるのを防いでくれます。
しかし竹の場合、地表近くの土しか支えることができないため、土壌が緩んだ際には竹林ごと斜面を滑り落ち、大規模な土砂災害を引き起こす可能性があるのです。
放置竹林の生息域が拡大すればするほど、そのリスクは高まるとされています。
この他にも、前述した成長力と競争力の高さによる生物多様性の崩壊、里山の景観損失、民家への侵入など、竹害による影響は非常に広範囲に及んでいます。
放置竹林を減らすための「サステナブルな解決法」
放置竹林対策として、根を掘る、農薬を撒くなどの取り組みが行われているのはもちろんですが、近年ではよりエコでサステナブルな解決法も提案されるようになっています。
ここでは、そのうちのいくつかについて紹介していきます。
竹パウダーにして肥料やぬか床などに活用
竹は粉砕機を使ってパウダー状にすることで、元々含まれている乳酸菌がさらに増殖することが分かっています。
乳酸菌が豊富に含まれた竹パウダーは、土壌改良材、家畜の飼料、お部屋の消臭剤、ぬか床など、幅広い場面で活用することができます。
竹パウダーはネット通販などで購入することもできますが、「自宅の庭に生えている竹をどうにかしたい」という場合は、専門業者に伐採から粉砕までを依頼することも可能です。
バイオマス発電に活用
竹には発電設備に悪影響を及ぼすカリウムや塩素が多量に含まれていることから、長年バイオマス燃料の資源には向かないと考えられてきました。
しかし2017年3月、日立が「竹からカリウムと塩素を取り除く技術」を開発したことをきっかけに、竹バイオマスエネルギーを利用する動きは着実に広まりつつあります。
2017年10月には、世界初となる竹専焼バイオマス発電所が山口県に開設され、2022年現在も稼働が続いています。
このように、日本は今や竹バイオマスエネルギー利用の先駆者的存在となっています。
家具や日用品づくりに活用
前述したように、プラスチック資源の普及以降は需要低下が続いていた竹ですが、近年ではその高い耐久性と安定性が再び注目を集め、家具や日用品の原材料として使われることが増えています。
テーブルやまな板、カゴバックやザルといった定番品はもちろん、一風変わった竹製品も増えています。
たとえば、料理用の竹串製造で国内トップシェア数を誇る「ひろせプロダクト」は、2019年に「竹ストロー」を開発し、特許を取得しています。
この他にも、ひろせプロダクトは竹歯ブラシ、竹カトラリー、竹ナプキン(竹の繊維を使用)などを開発し、脱プラスチックの流れをけん引しています。
これらの竹製品は、現在イオンや帝国ホテルなどにも導入されています。
紙にして活用
タケノコの名産地である鹿児島県薩摩川内市では、地域住民と地元工場が連携し、伐採した竹を使って「竹紙」を生産する取り組みが行われています。
竹紙はノートや折り紙などに使用され、地域に年間数億円の利益をもたらしています。
また、長野県富士見町に拠点を置く「おかえり株式会社」は、竹で作ったトイレットペーパーの定期便サービス「BombooRoll(バンブーロール)」を行っています。 原材料が竹というだけでなく、水力発電100%の工場での製造や無漂白にこだわるなど、すみずみまで環境配慮が行き届いたトイレットペーパーとなっています。
メンマにして美味しく削減
宮崎県延岡市に拠点を置く「LOCAL BAMBOO(ローカルバンブー)株式会社」は、2020年より地元の放置竹林から伐採した幼竹を使用した「延岡メンマ」の販売を行っています。 また同じ年、静岡県の漬物販売メーカー「季咲亭」も地元の放置竹林を使用した「静岡メンマ」の販売を開始しています。
2021年には、放置竹林の削減を目的に国産メンマを生産している8件の企業や団体による「純国産メンマサミット」が発足し、販路拡大の動きが活発化しています。
まとめ
放置竹林問題は、私たちが思っている以上に深刻化していることが分かりました。
一方で、放置竹林対策には竹の特性を活かしたユニークなものが多いことに驚きますね。
皆さんも竹歯ブラシを使ってみたり、国産メンマを食べたりしながら、楽しく放置竹林対策に協力してみてはいかがでしょうか。
参考URL:放置竹林問題(竹害)って、何が問題なの?(知っトク東北)
参考URL:九州における放置竹林問題と求められる対応方策(地方自治ふくおか68号)
参考URL:山口県 竹バイオマス発電所へ燃料供給(三輝トラスト株式会社)
参考URL:BambooRoll公式サイト
参考URL:株式会社ひろせプロダクト公式サイト
参考URL:放置竹林をメンマにして延岡の森を救う!森を育てる「延岡メンマ」販売開始(PRTIMES)