再エネ普及の必要性が叫ばれるようになったこの10年では、世界各地で太陽光発電や風力発電などの再エネ発電システムが普及し、総設備容量も原発を上回る程に市場拡大しています。
一方で、日本では未だに「再エネは高い」というマイナスイメージが強く根付いており、今ひとつ普及が伸び悩む要因となっています。
しかし、日本におけるその認識は世界ではもはや「時代遅れ」と言っても過言ではありません。
実際、世界の3分の2を占める国と地域では、再エネは最も安い電力となっています。
一体、なぜ日本では再エネは依然として高いままなのでしょうか。
今回はその理由や他の国の傾向などもチェックしつつ、今後日本で再エネが価格低下する可能性について考えていきましょう。
日本で再エネが高い理由
値上がり続ける再エネ賦課金
再生エネ市場や低炭素技術の動向や予測などを行うブルームバーグ・ニュー・エナジーファイナンス(BNEF)の調査によると、直近10年で太陽光による発電コストは約8割、風力は約6割低下したことが分かっています。
その結果、現在アメリカ、イギリス、ブラジルなどでは風力が、インド、中国、オーストラリアなどでは太陽光が最も安いエネルギーとなっています。
一方で、日本や韓国では今なお石炭と火力が最安であり、日本で石炭と火力が再エネよりも安くなるのは、2025年以降だと予想されています。
日本の再エネが高い理由について、BNEFは「FIT法(固定価格買取制度)をはじめとした政策に主な原因がある」と指摘しています。
FIT法は再エネを利用して発電した電気を、国が定めた期間中(10~20年)は電力会社が一定価格で買い取り続けるという仕組みです。
導入された当初の2012年、太陽光の買い取り価格は34~42円/kWと、普及促進のため高額な価格設定がされていました。
その後、再エネシステムの低価格化に伴い買取価格も下がりましたが、制度施行当初の高価格で認定を受けておきながら、太陽光発電システムの導入コストが下がるのを待ってからシステムを稼働する事業者が相次ぎました。
しかし、再エネの買い取りに必要な費用は電気料金に上乗せされた「再エネ賦課金」から捻出されているため、結果的に消費者側の負担が増しているのが現状です。
実際、日本の賦課金単価は値上がりの一途を辿っており、2021年度の賦課金単価は前年度に比べて0.38円増の3.36円/kWとなっています。
再エネの普及が進めば電力コストが下がるにもかかわらず、消費者の中で「再エネは高い」というイメージが広がり続けている背景には、このような事情があるのです。
不十分な送電網
送電網が十分に整備されていないことも、日本の再エネが高いままの要因となっています。
日本では地域をまたいで送電できる電力量に制限がある上に、送電網の運用は電力会社が一括で行っているため、再エネで作られた電力よりも電力会社が運営する火力発電所や原子力発電所で作られた電力が、優先的に接続される仕組みとなっています。
この仕組みが再生エネの大量普及の足かせとなっており、コスト削減を実現しにくい一因となっています。
他国に学ぶ再エネ低価格化政策
日本の再エネが高い理由について分かったところで、日本以外の国が行っている再エネ低価格化政策について見ていきましょう。
太陽光発電がさかんな中国やインドでは、地方政府が発電所の設置場所や送電線などを定めた上で事業者に発電料金の入札をするため、結果的に価格競争が起こり低価格化しやすい構造となっています。
また洋上風力発電がさかんなヨーロッパ各国でも、同様に風車を建設する海域の調査や送電線などを国が定めた上で価格入札をしています。
一方、日本では再エネ発電による調査や地元調整は、事業者側が行わなければならない仕組みになっています。
再エネ導入のハードルを下げるためには、企業がより投資しやすくなるように国が目標値を設定し、再エネに経済的利益があることを明確に示すことが必要だと言われています。
これからはますます「国家戦略が問われる」時代に
近年では、先進国を筆頭に「温室効果ガス排出実質ゼロ」を目指す動きが活発化しており、世界は本格的な気候変動対策に向けて舵を取りつつあります。
再エネ普及は、その目標達成に向けて最も推し進めるべき取り組みだと言えます。
しかし、導入する上で多くのメリットが無ければ、中々再エネ普及を進めるのは厳しいのが実状です。
そのため各国では風力発電や太陽光発電を急激に拡大させる中で、「再エネ=安い」という新しい常識を作り上げるための政策が求められています。
再エネ普及の最たる目的はもちろん「環境のため」ですが、今後さらに市場を拡大していくためには、「経済的利益」を抜きにしては語れないと言えるでしょう。
かねてより経済成長と気候変動対策は、相反する概念のように捉えられていましたが、いまや経済は気候変動対策を加速させる重要なファクターとなっています。
そんな時代だからこそ、これからの気候変動対策には緻密に練られた国家戦略が必要です。
トランプ前政権では「パリ協定」から離脱するなど気候変動対策に背を向けていたアメリカでは、バイデン新政権以降IT企業や投資家が主導となり、再エネ普及に向けて再び動き始めています。
トランプ政権が気候変動対策から距離を取ったことで、むしろ「国民主導」による対策が加速し、今後はバイデン政権がそれを後押ししていくと考えられています。
アメリカによる再エネ普及の波は、日本にも影響を与えています。
とりわけアメリカを代表するグローバル企業のアップルやマイクロソフトなどは、自社で使用する電気に留まらず、サプライヤー(取引先)にも再エネ導入を促進しています。
サプライヤーには日本企業も多く含まれており、前述のBNEFによると、日本企業の売上高依存額は約730億ドル(約8兆円)にのぼっています。
つまり、もし対象の日本企業が使用電気の100%を再エネにできなければ、多額の損失を生む可能性があります。
さらには、金融面におけるプレッシャーも高まっています。
近年では「ESG投資(環境・社会・ガバナンスへの投資)」が拡大していることから、気候変動対策に消極的な企業は資金調達が難しくなったり株価が下落するなど、気候変動対策への積極性がそのまま企業価値に繋がるようになりつつあります。
気候変動対策はいまや、「取り組まなければ環境だけでなく経済も脅かされる」というものになっています。
環境政策と経済成長を両立させるためには、国家が目標を掲げ、取り組んだ企業に経済的利益が生まれるシステムを構築することが重要です。
これは、環境政策に取り組むどこの国においても優先すべきアジェンダ(課題)となっています。
そして、諸外国に比べて気候変動対策が遅れがちだった日本でも、2020年には「2050年までにCO2排出実質ゼロ」、2021年には「2030年までに46%削減」という宣言が出され、より大々的な再エネ普及が求められるようになっています。
消費者が負担を強いられることなく、むしろ経済的利益を生み出す「再エネ社会」を構築するにはどうすればいいのか、日本では今、具体的な国家戦略が問われています。
まとめ
今回は、日本において再エネが高い理由について掘り下げていきました。
再エネ賦課金などに対し、「地球環境は守りたいけど、それで自分の生活が苦しくなるのは困る!」と感じる人は、決して少なくありません。
誰もが快く気候変動対策に参加できる社会のためにも、日本の再エネ政策がより良い方向に行くことを期待したいですね。
太陽光発電を扱う当社も、これからの日本における再エネ普及に貢献できるよう日々成長していきたいと思います。