これからの時代は「水上生活」が気候変動対策のカギとなる?そのワケとは

環境問題

今や国を問わず、世界中の人々の生活を脅かす存在として早急かつ具体的な対策が求められている気候変動。
その主な原因となっている温室効果ガスの排出量は今なお増加傾向にあり、現在では1990年に比べて50%以上も増えていることが分かっています。

このままのペースで気候変動が進めば世界中で氷河融解や海面膨張などが頻発し、22世紀中頃には各国の主要都市の多数が水没してしまうだろうと危惧されています。
特に日本のような島国の場合は、国ごと海の中に沈んでしまう可能性もゼロではありません。

このように深刻化する気候変動の解決策の1つとして、近年では「水上に人の居住地を増やす」という考えが注目されつつあります。
1995年に公開された「ウォーターワールド」という映画は、地球温暖化が進み大陸が沈没した世界で人々が人工浮遊島を作って生活するという内容でしたが、それがまさに現実になろうとしているということでしょう。

ところで、日本に暮らす人々にとってはあまり馴染みのない水上生活ですが、一体どういった点が気候変動の解決策として有効なのでしょうか。
そこで今回は、既に水上生活を送っている世界各国の人々の様子を知りつつ、現在進められている水上都市プロジェクトについてチェックしていきたいと思います。

水上生活を送る世界の人々

ベトナム

ベトナム南部を流れるメコン川の上流域では多くの水上生活者が生活を営んでおり、そこには居住地としてだけではなく船上でフルーツやジュースの売買を行う「水上マーケット」の文化も根付いています。
中でもカントーという町の近郊で繰り広げられるカイラン水上マーケットは、ベトナム南部の中では最大規模の市場として国内外問わず有名となっています。

また、ベトナム最大の人口数を誇る大都市ホーチミンの一部にも水上生活を営む人々がいますが、ホーチミンの水上に暮らしている人々のほとんどはフルーツや野菜を売る時のみ船上で生活し、全て売切れたらメコンデルタ周辺にある家に戻るという生活を送っているそうです。

ミャンマー

ミャンマーでは、標高1,000mを越える山々に囲まれたシャン州のインレー湖に水上生活を送っている人々がいます。
この場所で暮らす人々は、少数民族の「インダー族」と呼ばれています。

インダー族の人々は工夫を凝らした独自の生活様式を確立しており、中でも有名なのが「浮き畑農場」です。
湖の上に作られた浮き畑では様々な野菜が栽培されており、中でもトマトはミャンマー国内で最大の栽培規模を誇っています。
また、釣鐘のような形状をした網を湖底に沈めてかき回し、魚を浮き上がらせるといった独特な漁業法も名物の一つです。

マレーシア

マレーシアのペナン島中心部にあり世界遺産にも登録されているジョージ・タウンには、「クラン・ジェッティー」と呼ばれる水上生活者村があります。

19世紀に材木置き場として政府が開発を始めたところ、中国系の民族が住み着いて形成されたことから、「クラン(一族)ジェッティー(桟橋)」と名付けられたそうです。
林、周、陳などの姓によって水上集落が分かれており、中でも姓周橋(チュージェッティー)は規模も大きく、積極的に観光地化をはかっていることで有名です。

カンボジア

カンボジアに位置する東南アジア最大の湖トンレサップ湖には、世界最大規模の水上生活者が暮らしており、その人数は何と100万人以上だと言われています。
多くの人は漁獲を主な収入源としており、他の水上生活地域と同様に古くからの生活様式を守りつつも、近年ではソーラーパネルを導入するなど水上村全体のシステムの近代化が進んでいます。

オランダ

オランダの首都アステルダムにはいくつもの運河が張り巡らされており、それら岸辺には「ハウスポート」と呼ばれる水上居住地がいくつか存在しています。
他の国々の水上生活者は独自の生活様式を確立しているのに対し、オランダのハウスポートには電気や下水道が完備されているため、陸上の生活と殆ど遜色がないという特徴があります。
そして現在、オランダでは「サスティナビリティ」に特化した水上都市計画も進められているのですが、その点には後程詳しく触れていきたいと思います。

気候変動対策としての「水上都市計画」

ここまで紹介してきたように、世界には既に多くの水上居住地が存在しています。
そしてオランダを除いて、ほとんどの水上居住地では共通して自然と共存した暮らしが送られており、農業や漁業といった持続可能な産業がさかんとなっていることが分かりました。

この章ではそれらの点にも注目した上で、現在計画が進められている2つの「水上都市プロジェクト」について見ていきたいと思います。

「Oceanix City」プロジェクト

「Oceanix City」(オーシャンニクス・シティ)とは、2019年4月に開催された国連の会合において、「気候変動による海面上昇の危機に対する対策」として言及された水上都市構想のことです。

この構想には、デンマーク発の設計事務所である「オーシャンニクス/ビャルケ・インゲルス・グループ」が提案した「フローティング・シティ(海に浮かぶ街)」のイメージが反映されており、沖合に人工の島をいくつか配置することで1つの都市を形成するというものになっています。
そしてこの都市では、エネルギーも食糧も全て自給自足および地産地消でまかなうことが目指されています。
もちろん人々が生活する上で排出されるゴミの問題や島で生産できないものの調達方法についてなど、まだまだ具体的に詰めるべき点は残っていますが、近い将来訪れるかもしれない都市水没のリスクに備えるべく、「まずはニューヨークのイーストリバーにプロトタイプの島を浮かべる」という目標のもとプロジェクトが進められています。
このプロジェクトが順調に進めば、最終的には1万人が暮らす水上都市が完成すると考えられています。

「Schoonschip」プロジェクト

前章で紹介した通り、かねてより水上生活が存在していたオランダ・アステルダムでは、2019年から「Schoonschip(スクーンシップ)」というプロジェクトが進められています。

このプロジェクトは、「極限まで二酸化炭素の排出を抑えた新たな共同体を水上につくろう」という目的のもと、アステルダム市民たちによって自発的に立ち上げられたものです。

46世帯105人(2019年時点)の住民が水上に浮かぶ住宅30棟に暮らしながら、「持続可能な共同体を築き上げていく」という試みが実施されています。

プロジェクトによって建設された水上住宅では太陽光や運河の水といった再生可能エネルギーを最大限活用し、二酸化炭素の排出源となる都市ガスは一切使われないそうです。
また各住宅を「スマートグリッド」という電気供給の制御システムで連携し、互いに電力を融通し合うことによって、再エネの弱点ともいえる「供給の不安定さ」の解決も目指しています。
そして、やはり気候変動による海面上昇の影響を受けないという点が話題を集め、入居者募集時にはキャンセル待ち枠が出るほどだったそうです。

「なるべく環境に負荷をかけない生活がしたいけど、現代文明の便利さを手放したくはない…」と感じる現代人にとっては、スクーンシップのような都会での水上生活はまさに理想的な生活と言えるのかもしれませんね。

まとめ

今回は、気候変動対策の鍵となるかもしれない水上生活にフォーカスをあててチェックしていきました。

スクーンシップにはまだ始まったばかりの段階となっており、オーシャンニクス・シティに関してはまだ構想段階となっていますが、この2つのプロジェクトが成功した暁には、日本に次世代型の水上都市が誕生する日もぐっと近づくかもしれません。
どちらのプロジェクトも順調に進むことを祈りつつ、引き続き注目していきたいですね。

環境問題
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