ナウシカ、もののけ姫…環境問題を題材にしたジブリ作品

カルチャー&ライフ

今や日本国内に留まらず、世界中で支持を集めているスタジオジブリ作品(以下ジブリ作品)。
その魅力は美しい映像や音楽であることはもちろん、特筆すべきはやはり作品ごとに展開される深いストーリーではないでしょうか。
誰もが親しみを感じられる内容でありながら、その奥で人間が抱える普遍的な業や課題を提示しているストーリーは、世代や国境を越えて長年多くの人々に感銘を与えています。

本音を言えばすべての作品をご紹介したいところですが、そこをぐっと堪え、今回は環境問題をストーリーに盛り込んだ4作品に焦点を当て、公開年順に紹介していきたいと思います。
「今更紹介してもらわなくても、もう全作品知ってるよ!」という方も多いかもしれませんが、それぞれの作品世界と現実に起こっている環境問題を照らし合わせることで、新しく発見できることもあるかもしれませんよ。
それでは、1作品ずつ見ていきましょう。

※当コラムには、紹介する全4作品すべての核心に触れた記述(いわゆる「ネタバレ」)が含まれています。
以上の点をご了承の上でお読みください。

風の谷のナウシカ(1984年)

出典:スタジオジブリ

ジブリが初の劇場用長編アニメーションとして製作した今作は、1984年に公開されて以来テレビでも度々放映されているため、一度は観たことのある方が多いのではないでしょうか。

物語の舞台は、「火の七日間」と呼ばれる最終戦争から1000年後の世界です。
巨神兵を初めとした最新のテクノロジーを駆使した激しい戦争の結果、巨大な産業文明は崩壊し、その結果荒廃した世界は、やがて「腐海(ふかい)」と呼ばれる瘴気を発する菌類の森に覆われます。

そんな世界の中で主人公のナウシカが暮らす「風の谷」は、酸の海から吹く風の力によって瘴気から守られていたのどかな地でしたが、そこもやがて軍事国家トルメキアの侵略により、環境バランスを崩していきます。

また、腐海には王蟲(オウム)をはじめとする蟲(ムシ)たちが生息しており、その恐ろしい見た目から人間たちの生活を脅かすと忌み嫌われていましたが、ナウシカただ一人だけは全ての生物を慈しみ、共存の道を探します。
やがて腐海には世界を崩壊させる力ではなく、人類によって汚染された大地を浄化し、再生させる力があるということが分かります。

出典:スタジオジブリ

この作品内に出てくる腐海や蟲などはあくまでも架空の存在ですが、かといって「完全なるファンタジー」として割り切れるかというと、決してそんなことはありません。
ナウシカの世界における瘴気は、土地だけではなく人々の身体を内側から蝕むため、比較的のどかに思える風の谷の人々でさえも、その影響を受けていることが劇中で示唆されています。
この点は、チェルノブイリや福島の原発事故による放射能汚染を彷彿とさせます。

出典:スタジオジブリ

また、現実世界でも人類は急速な経済成長と引き換えに大気汚染を招いたり、人間以外の生物を粗末に扱ってきたりと、ナウシカの世界を彷彿とさせる歴史は確かに存在します。
そして今なお、戦争を続けている国や地域があることも事実です。

そういった人類の歴史を省みた上でナウシカを観ると、一部の人類の利益優先で進化する文明の危険性、境遇の異なる民族とも対話することの重要性、そして人間だけではなく他生物の命も慈しみ、共存することの大切さを教えてくれます。

平成狸合戦ぽんぽこ(1994年)

出典:スタジオジブリ

平成狸合戦ぽんぽこは、高畑勲監督による劇場用長編アニメーション作品です。

舞台は昭和40年頃の日本。
開発が進む多摩ニュータウン化計画を阻止するべく、自然豊かな多摩丘陵に暮らす狸たちが様々なものに化けて人間と抗争を繰り広げるこの作品は、可愛らしい狸たちの見た目もあり、一見賑やかで楽しいお話のように思えます。

出典:スタジオジブリ

しかし物語が進むにつれ、人間たちの利己的な判断により進む環境破壊や、それにより住む場所を奪われていく狸たちの絶望感や怒りが描かれていきます。

結局物語の最後には人間たちが勝利し、多摩ニュータウンは完成します。
そして抗争の中で多くの狸は命を落とし、生き残った狸のうち変化術を使える狸は人間として生き、変化できない狸はわずかに残された自然の中で生きていきます。

出典:スタジオジブリ

この作品に出てくる人間は、自分たちの暮らしのために散々森林を伐採してきたにも関わらず、いざニュータウンができてからは「自然を取り戻そう」と言い出したりと、観ている側は「なんて身勝手なんだ!」と感じるのではないでしょうか。
しかしこれは、現代に生きる私たちの姿をリアルに映し出しているとも考えられます。

一度伐採した森林を再生させるためには、気の遠くなるような歳月が必要ですし、一度住む場所を追われた動物たちがまた同じ場所に戻ってくる保証もありません。
もちろん失った自然を取り戻そうとすることも大切ですが、「今ある自然をどうすれば守り続けられるか」という点を考えることも非常に重要だと言えるでしょう。

平成狸合戦ぽんぽこは、そんな風に私たち一人一人に「もう失ってしまった自然/これから失うかもしれない自然」について考えることの大切さを、真っ直ぐに問いかけてくるような作品です。

もののけ姫(1997年)

出典:スタジオジブリ

ジブリ作品において、「自然と人間の共存」というテーマがこれほどまで真摯に描かれた作品は、もののけ姫以外にないと言っても過言ではないでしょう。

東と北の間に位置するエミシの村で暮らす青年アシタカは、村を襲ってきたタタリ神を退治しようとした際に右腕に呪いを受けてしまい、その呪いを解くため旅に出ます。

旅の果てで、アシタカはタタラ場で支え合って暮らす人々と、そこの長であるエボシ御前に出会います。
しかしエボシはタララ場の繁栄のために森林を破壊していること、
そしてその森林には「もののけ」と呼ばれる神々と、山犬に育てられたサンという少女が住んでいることを知ります。

出典:スタジオジブリ

森林とそこに住まう神々を守ろうとするサン、タタラ場とそこに住まう人々のためには神殺しも厭わないエボシ、そして「森とタタラ場が共存する方法はないのか」と問うアシタカ三者を軸に、物語は壮大に展開されていきます。

もののけ姫を語る上で外せない点といえば、「作品中に絶対的な悪者はいない」ということではないでしょうか。
劇中の序盤では一見エボシが悪者のように感じられますが、物語が進むにつれタタラ場の人々はエボシを心から尊敬し、慕っていることが分かってきます。
自然を壊すという行為は決して許されることではありませんが、懸命に生きる人々を守ろうとする主導者としてのエボシの姿は、作品の公開から20年以上が経過しても圧倒的な支持を得続けています。

出典:スタジオジブリ

その上でこの作品は、終盤にアシタカがサンに向けて放った「共に生きよう」という言葉通り、人間と自然が共存することの重要性を教えてくれます。
平成狸合戦ぽんぽこを紹介する時も述べましたが、文明が発展しきった現代社会では、一度壊れた自然を元通りにすることは難しいかもしれません。
しかしこれ以上自然を脅かすことなく、美しい森林やそこに住まう生物たちと共存していくためには私たちに一体何ができるのか、もののけ姫をきっかけに考えてみるのも良いかもしれませんね。

On Your Mark(1995年)

出典:スタジオジブリ

「On Your Mark」は、CHAGE&ASKAが1994年に発表した同名の楽曲のプロモーション・フィルムとして製作された短編作品です。
これまで紹介した3作品に比べて知名度は低いものの、一部ジブリファンからは熱狂的な人気を誇る名作として知られています。

物語の舞台は、原子力事故などの環境破壊によって人々が地上に住めなくなった未来の都市。
とあるカルト教団の施設に突入した警官2人は、そこで翼の生えた少女が囚われているのを発見します。
少女を救出した彼らは、何度も失敗しそうになりながらも少女を空に帰そうと奮闘します。

出典:スタジオジブリ

終盤、少女を連れた警官2人が地上を目指して車を走らせるトンネル内には、「注意阳光!(日光に気を付けろ!)」「不保障生命(命の保証はない))」などの看板が掲げられており、外の世界がもはや安全ではないことが示唆されています。
そして地上に出た彼らの背景には、チョルノービリ(チェルノブイリ)原発の石棺を思わせる巨大な建造物がそびえ立っています。

命の保証のない世界(地上)に来てしまったにも関わらず、空へ羽ばたこうとする少女を見送る警官2人の表情は明るく、観た後は胸の中に不思議な爽やかさと切なさが残ります。

出典:スタジオジブリ

わずか6分40秒という短い作品ではありますが、その中には「放射能や疫病が蔓延した世界で生きることの悲哀と希望」が詰まっています。
新型コロナウイルスの感染拡大、そしてロシアのウクライナ侵攻によって核の脅威が懸念される今、改めて観たい作品です。

まとめ

出典:スタジオジブリ

環境問題を題材にしたジブリ作品を3本紹介させていただきましたが、どの作品も非常に有名であるため、もしかしたら「一度も観たことがない」という方はほとんどいないかもしれません。
しかし、子どもの頃は深く考えずに楽しく観ていたアニメ作品が、大人になって観返してみると「こんなに深い内容だったのか!」と驚くことはよくある話だと思います。

もし、当コラムをご覧になっている方の中に、「昔はよくジブリ作品を観ていたけど、ここ十数年は全然観ていないなあ…」という方がいましたら、この機会に是非久しぶりに観返してみてはいかがでしょうか?
もしお子様がいる場合は一緒に観た上で、環境問題について親子で話してみるのも良いかもしれません。

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