畜産業が地球環境に悪影響を与えるって本当?気になる点を徹底検証!

環境問題

日本では多くの人が豚肉、牛肉、鶏肉などを外食や家庭の食卓で口にしますが、実はそれらの肉類を生産する畜産業が、深刻化する環境問題の一因となっているのではという考えが近年浮上しています。
とはいえ、畜産業が地球環境に対してどのような影響を及ぼすのかという点については、いまいちピンとこないのが正直なところですよね。
そこで今回は、科学的な観点から畜産業と環境問題の関係について掘り下げつつ、
どのような対策が取られているかについても見ていきたいと思います。

食肉消費の現状

1950年から2020年までの約70年の間に世界人口はそれ以前の約3倍以上となり、それに伴い世界における食肉消費量も年々増加していきました。
その後も、食肉消費スピードは人口増加のスピードをも上回っていることが分かっています。
とはいえ消費量自体は先進国と発展途上国では大きく差があり、前者では1日1人あたりの動物性たんぱく質摂取量が平均50~60gであるのに対し、後者では10gにも満たないと言われています。

発展途上国におけるたんぱく質の摂取不足は、栄養失調によるあらゆる体調不良を引き起こす要因となりますが、先進国におけるたんぱく質の過剰消費も、脂肪過多によるまた別の健康被害を引き起こす危険性があります。
これを受けWHOからは、1日1人あたりが摂取する全カロリー中、脂肪の摂取率は30%以内に収めるよう先進国に対し勧告しています。

このように、世界では今日も大量の食肉が生産および消費されている一方で、そのほとんどのシェアは先進国が占めているアンバランスな状態が続いています。

穀物飼育の現状

日本に限らず、主に養豚に使われる餌は小麦やトウモロコシなどの穀物になります。
しかし、例えばその餌を栽培し他国に輸送するだけでも、結果的に大量のCO2を排出することに繋がります。
宇都宮大の菱沼竜男准教授が2015年に調査したデータによると、豚肉1kgが市場に出荷されるまでには、なんと8kg近くのCO2が排出されていることが分かっています。
また大量の餌を安価で栽培し、養豚に一気に食べさせて早く育て、そして出荷することで、結果的に需要を上回る量の食肉が市場に出回り大量の食肉ロスを生んでいます。

ふん尿処理の現状

家畜のふん尿処理においても、「地球に悪影響を及ぼす物質が排出される」と懸念されています。
基本的にふんはコンポスト(堆肥化)という方法で処理されますが、この処理を行う際にはメタンガスという有害物質が発生します。
また尿は川に流して処理されますが、川に流す前に窒素を取り除く処理を施す必要があり、この際にも亜酸化窒素という物質が発生します。
このまま経済とスピード重視の食肉生産が続けば、地球環境は深刻化していく一方かもしれません。

畜産業が環境に与えるとされている主な影響とは

過度な放牧による土壌劣化・森林減少

現在、家畜の放牧地は世界の陸地の半分近くを占めるとも言われていますが、近年では家畜の頭数の増加により土壌劣化が進んでいる点が懸念されています。

国際土壌評価センター(ISRIC)によると、過去50~60年にわたる過放牧の影響により、世界では20億ha近くの土地が土壌劣化しているそうです。

そして土壌劣化が進むと植生物に養分が行き渡らなくなるため、巡り巡って森林減少にも影響を及ぼしています。
森林減少のほとんどは熱帯地域で起こっていることが分かっていますが、その原因は畜産業拡大のための放牧地や草地への転換などが要因の1つとなっています。
森林減少はそこに住まう多くの自然生物の生態系にも影響を及ぼすため、一刻も早く進行を食い止める必要があります。

酪農拡大による水質汚濁

主に先進国においてですが、1990年代ごろから急速に乳用牛の飼養頭数が増加したことにより、家畜排せつ物の中に含まれるリンや窒素などの有害物質が河川へ流出し、水質汚濁を招いていることが分かっています。
水質汚濁は藻の大量発生、地下水汚染、さらには水中生物の生態系を破壊するおそれがあります。
中でも地下水の汚染は、その地下水を飲料水や生活用水として使用する人間へ健康被害を及ぼす危険性もあります。

牛のゲップによるメタンの排出

国連食糧農業機関(FAO)が2013年に発表したデータによると、世界における温室効果ガスの総排出量のうち、畜産業による排出は15%近くを占めていることが分かっています。
そして畜産業の中でも最も多く温室効果ガスを排出すると言われているのが、牛肉の生産時です。
その排出量は、なんと同量の豚肉生産時の4倍近くにもなるそうです。
気になる牛肉生産時における温室効果ガスを排出する主な原因ですが、それはなんと「牛のゲップ」と「牛のオナラ」です。
「そんなのが原因なの!?」と驚く人もいるかもしれませんが、これは中々侮ってはいけない事実です。

専門機関の研究によると、1頭の牛がゲップまたはオナラとして放出するメタンガスは、1日あたりなんと200リットル前後にものぼるというデータが出ています。
近年では、メタンガスはCO2よりも30倍近くの温室効果があることも分かっているため、これ以上牛による多量な排出が続けば、地球環境は非常に深刻な事態に陥る可能性があります。

そのような事態を回避するため、現在では研究家たちによって様々な角度から対策が練られています。
そのうちの1つが、「牛に与える餌を工夫する」というものです。
基本的に牛が口にする餌は、牧草、小麦、トウモロコシなどですが、オーストラリアのジェームズクック大学やアメリカのカルフォルニア大学で行われた研究結果によると、それらの餌に「カゲキノリ」という海藻を1%ほど混ぜ込み毎日牛に与えるだけで、牛のゲップやオナラによるメタンガスの排出量を半分以上削減できるということが判明しています。

とはいえ、「カゲキノリのメタンガス削減効果に長期的な持続性があるのか」という点についてはまだ不明な部分が多く、また「世界中の畜産現場にいる牛に食べさせられるだけのカゲキノリをどう確保するのか」という点においても、まだまだ課題が残っています。

どんな対策が取られているの?

ここまで畜産業が地球環境へ与える影響を見た上で、「じゃあ、もう肉類は食べない方が良いってこと?」と思った人もいるのではないでしょうか。

確かに世の中には畜産業そのものに反対し、菜食主義を貫く人も多くいますが、だからと言って今日明日で世界中から食肉を無くすというのは現実的に考えて厳しいと言えるでしょう。
そういった事情を踏まえた上で、近年では先進国を中心に様々な対策が練られています。
この章では、主な2つの対策法を紹介していきます。

食肉税導入の検討

この案は、先進国の中でも特に年々肉を食べることへの非難が高まっているドイツ、デンマーク、スウェーデンなどのヨーロッパ各国で1,2年ほど前から検討されています。
畜産業による環境破壊だけでなく、動物保護の観点から食肉税導入に賛成する人も多いようですが、「実現したとして本当に効果があるのか」「低所得者にとっての負担が増えるだけではないのか」などの疑問の声もまだまだ多く挙がっているのが現状です。

持続可能な畜産業への取り組み

食肉税に比べてより具体的かつ現実的な対策として挙げられるのは、「持続性の高い畜産業の普及」です。
これは主に低中所得国で取り組まれている対策で、先進国で行われる大量生産とは違い、地域の農作物から出た残渣(余った部分のこと)を家畜の餌に回すなどして、地域農場の全体的な活性化および経済成長を後押しする動きなどを指します。

むやみに質の高い食肉を必要な分だけ生産し、それにより貧困層の経済資本を活性化するという取り組みは、先進国における大量生産が主流となっていた畜産業界の状況を今後大きく変えていくかもしれません。

まとめ

畜産業と環境問題の関係については、倫理観や思想によっても捉え方が全く異なるため、多くの国や個人が納得できる解決策が出るのはまだまだ先になるかもしれません。
それでも「今まで無駄に食肉を消費し過ぎていなかったか」「これからも肉を食べるか、それとも菜食のみにしてみるか」など、この機会に一度「自分はどのスタンスで取り組むか」という点について考えてみると良いかもしれませんね。

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