日本の食卓のお供として古くから親しまれている納豆。
白米と食べるのはもちろん、トーストに乗せたりパスタに混ぜたりしても美味しいですよね。
また納豆は美味しいだけではなく、ダイエット、美肌づくり、腸内環境の改善、免疫力アップなど、健康面にも多くの良い効果をもたらしてくれます。
そんな納豆ですが、近年では「環境問題から地球を救う力を秘めているかもしれない」として環境分野から注目を集めています。
その理由は、納豆特有の「ネバネバ」にあります。
今回は納豆の歴史を紐解きながら、納豆に秘められた驚くべきパワー、そのパワーを利用して進められている様々な研究について紹介してきます。
まずは納豆の歴史を知ろう
「日本人はいつ納豆を食べるようになったのか」については諸説ありますが、一説によると縄文時代頃には中国大陸から米や大豆の作り方が伝わり、弥生時代には既に納豆のような食べ物があったと言われています。
弥生時代の人々が住む竪穴式住居の床には、稲ワラが敷いてあったそうです。
納豆を作る上で必要不可欠な納豆菌は枯草菌の一種で、空気中や枯れ草、稲ワラなど、身近なところにたくさん存在しています。
納豆菌には暖かくて湿った場所を好む性質があるため、保温保湿性に優れた稲ワラは納豆菌にとって絶好の住処となります。
当時の竪穴式住居は中に炉があり丁度良い暖かさとなっていたため、図らずも納豆菌の発酵に適した環境となっていました。
さらに大豆はそのまま食べるには硬いため、弥生時代の人々は現代の私たちと同じく、大豆を食べる時はまずは煮ていたと考えられています。
もしこの時に煮た豆が床に敷いた稲ワラの上にこぼれるようなことがあれば、大豆に納豆菌が付着して納豆ができあがります。
このようにして煮豆が納豆菌と出会って発酵して納豆が誕生したことは、十分考えられます。
最初はほんの偶然で生まれたものが、次第に食品として親しまれ、積極的に作られるようになっていったというこの説は、あくまでも推測の域を出ないことではありますが、信ぴょう性は高いと言えるでしょう。
また別の説では、「源義家(みなものとよしいえ)が納豆発祥に関わっていたのではないか」とも言われています。
平安時代後期の武将だった源義家は、前九年の役、後三年の役の際に奥州(現在の東北地方)へ遠征に赴き戦に身を投じました。
そのため東北地方においては、「納豆発祥のきっかけは源義家説」が有力となっています。
当時の戦をする上で馬は欠かせない存在となっており。その馬の主な飼料となっていたのが大豆でした。
馬で移動する際は、煮て乾燥させた大豆を俵に詰めて運んでいたそうです。
ある時、戦が長引いたことで馬の飼料が不足したため、義家は農民たちに飼料となる大豆を差し出すように命じました。
急な命令だったことから、農民たちは煮たばかりの熱い大豆を冷ます間もなく俵に詰めて差し出したそうです。
すると数日後、大豆は糸を引くようになっていました。
これを試しに食べてみたところ美味しかったため、大豆は兵士たちの食料になったそうです。 この食べ物はやがて農民たちにも広まり、農民たちも自作して食べるようになりました。
弥生時代発祥説と同様に、ここでも煮豆と藁の偶然の出会いが納豆誕生のきっかけになっているのです。
なぜ「納豆」と呼ばれるようになったの?
ところで、納豆はいつから「納豆」と呼ばれるようになったのでしょうか。
「納豆」という文字が最初に文献に出てくるのは、平安時代のことです。
当時の大衆芸能や庶民の生活などを描いた、藤原明衝作の『新猿楽記(しんさるがくき)』の中に登場しています。
もっとも、この中に登場する納豆は塩辛納豆だったと言われています。
塩辛納豆というのは、煮た大豆を麹(こうじ)菌で発酵させ、塩や香料などを加えて乾燥させたもので、糸を引かない納豆のことです。
塩辛納豆は別名「寺納豆」とも呼ばれるように、元々奈良時代に唐(現在の中国)に留学したお坊さんによって日本に伝えられ、寺院で作られることが多かったそうです。
そのため寺の納所(台所)で作られたので「納豆」と呼ばれるようになったと、江戸時代の『本朝食鑑(ほんちょうしょくかがみ)』には書かれてあります。
ほかにも、「桶や壺に納めて貯蔵していたから「神様に納めた豆だから」など様々な説がありますが、
前述した「納所で作られた豆」で「納豆」という説が有力になっています。
環境改善に役立つかもしれない「納豆樹脂」とは
長い歴史の中で日本の食文化に浸透した納豆ですが、近年では食べ物としてだけでなく「地球環境を改善するかもしれない存在」として注目され、あらゆる機関で研究が進められています。
そんな中、日本の大学で開発されたのが、納豆のネバネバした糸から作る「納豆樹脂」です。
まず、納豆の糸の主成分は「ポリグルタミン酸」と呼ばれる物質でできています。
そのポリグルタミン酸は、旨味成分であるグルタミン酸を主成分としてできています。
納豆を混ぜるとより美味しくなるのは、混ぜることでポリグルタミン酸内のグルタミン酸が増すからだそうです。
このポリグルタミン酸に放射線(ガンマ線)を当てると寒天のようなゲル状の物質になり、それを凍結乾燥させてできる白い粉末が納豆樹脂です。
この納豆樹脂の最大の特徴は「吸水力に優れている」という点です。
粉末状の納豆樹脂に水を加えるとたちまち元のゲル状の物質に戻り、徐々に分解されるのですが、粉末状の納豆樹脂はなんと1グラムで2リットル以上もの水を吸収することがすることができるのです。
また、元々自然由来の物質から作られているので微生物による分解も可能となっており、たとえ地面にばら撒いたとしても、ゴミが排出されることはありません。
吸水性が高く環境負荷の少ない納豆樹脂は、現在様々な分野に取り入れられつつあります。
納豆樹脂の性質を生かした取り組み
ここでは、納豆樹脂の性質を生かした取り組みについて見ていきましょう。
一つは、その吸水性の高さを利用した化粧品や紙おむつの開発です。
化粧品の方は既に実用化されており、主に保湿性の高いスキンケア化粧品などが商品化されています。
また、納豆樹脂を利用した堆肥づくりも進められています。
牧場では飼育している牛の排泄物を堆肥にすることが多いですが、北海道などの寒冷地では冬場は排泄物に含まれる水分が凍結するため、微生物が育ちにくいといわれています。
そこで誕生したのが、納豆樹脂を使った「プロスポリマー」という堆肥化促進剤です。
これを投入して水分調整すれば、微生物が活性化するため、堆肥化のスピードを格段に上げることができます。
また、納豆樹脂を原料としたプラスチック代用容器の開発も進められています。
もし納豆樹脂製の容器ができれば、食べ物から作られているため容器ごと食べることができ、さらに生分解性があるため。使用後は土に埋めるといった廃棄も可能となります。
これが実現すれば、ゴミ問題を解決に導くことができると考えられています。
その他、納豆樹脂を使ったバイオ素材、人工臓器、人工皮膚などといった医療分野での活躍も期待されています。
そして現在、納豆樹脂の力を利用した大きなプロジェクトとして、「砂漠の緑化」計画が進められています。
方法としては、納豆樹脂に泥と水、そして植物の種子を混ぜて砂漠に埋めます。
極めて高い保水能力を持つ納豆樹脂を投入することで、砂漠に泥の養分と水分がすぐに吸収されず徐々に溶け出すため、種子が発芽し植物が育つという仕組みです。
温帯乾燥地を想定し実際に行われた実験では、80%以上という高い発芽率が確認されています。
このプロジェクトの実現にはもう少し時間がかかりそうではありますが、もし納豆樹脂を使った砂漠緑化が実現すれば、地球上を豊かな緑で満たすことも夢ではなくなるでしょう。
まとめ
今回は、納豆の歴史や納豆に秘められた様々な可能性について紹介していきました。
私たちが日々食べている納豆が、食べる以外にこんなにも役立つ可能性があるとは驚きですよね。
もしかしたら納豆だけでなく、知らないうちに社会の役に立っている身近な食べ物は沢山あるのかもしれませんね。
参考URL:ミツカン「納豆の歴史」(2021年8月9日)
参考URL:九州大学農学部附属遺伝子資源開発研究センター「納豆の糸から吸水性樹脂の合成」(2021年8月9日)