経済産業省が「エネルギー白書2022」を発表!注目すべきポイントは?

エネルギー(再エネ・化石燃料etc.)

2022年6月7日、「令和3年度エネルギーに関する年次報告」、通称「エネルギー白書2022」が経済産業省より発表されました。
エネルギー白書は、エネルギーをめぐる国内外の取り組みや日本の政策方針などを知るうえで欠かせない資料です。
そこで今回は、エネルギー白書2022の中の特に注目すべきポイントについて見ていきましょう。

福島復興の進み具合

2011年3月11日に東日本大震災および福島原発事故が発生してから、11年が経ちました。
一進一退を繰り返すように思えた復興作業ですが、2020年には帰還困難区域以外の地域の避難指示が全て解除され、特定復興再生拠点の整備が進められるなど、少しずつでも着実に再生への道を歩んでいます。
これを踏まえ、政府は2023年春頃までに帰還困難区域の避難指示も解除することを目指すとしています。

また、2019年12月に策定された「福島イノベーション・コースト構想」に基づき、復興後を見据えた沿岸地域等の自立的かつ持続的な産業発展の実現に向けた取り組みも進めています。
2020年3月には、南相馬市に「福島ロボットテストフィールド(RTF)」を開設し、安全なドローン運用の実証試験や人材育成に取り組んでいます。
このように新たな産業を創出することは、地域に根付いた産業をも再生し、福島を帰還しやすい環境に整える効果があると考えられています。
今後はこのような取り組みに加え、地域出身者の帰還にとどまらず、他県からの移住にも繋げるための裾野拡大に向けた取り組みも進めています。

RTFが開設された2020年3月には、双葉軍浪江町に「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」も開設されました。
これは、福島を新しいエネルギー社会のモデルにするという「福島新エネ社会構想」の一環となっています。
現在FH2Rでは、世界最大級の1万kWの水電解システムを活用した、再生可能エネルギーからCO2フリー水素を製造する実証プロジェクトを進めています。

カーボンニュートラル実現に向けた取り組み

ここ数年で、カーボンニュートラルに向けた動きは世界的に加速しています。
2021年10月31日~11月12日に開催されたCOP26 では、154カ国と1地域が2050年までにカーボンニュートラルを実現すると表明しました。

COP26の開催に伴い、日本では2021年10月にエネルギーの政策の方針を示す「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。
第6エネルギー基本計画では、

①「2050年カーボンニュートラル」や2021年4月に表明された温室効果ガス排出削減目標の達成に向けたエネルギー政策の道筋を示すこと
②気候変動対策を進めながら、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服に向け、安全性の確保を大前提に安定供給の確保やエネルギーコストの低減に向けた取組を示すこと


の2つが特に重要なテーマとして策定されています。
また、この一環として、日本は温暖化対策を経済成長に繋げることを目指す「クリーンエネルギー戦略」の策定に向けた議論も進めています。

日本が「2050年カーボンニュートラル」を実現するには、日本のエネルギー消費量の約62%を占める産業部門の省エネ化を進める必要があります。
産業部門のうち約42%を占める製造部門では、その特質上大量の電気と熱が利用されているのが現状です。
これを改善するためには、石炭火力発電よりも比較的CO2排出量の少ないガス火力発電、またはバイオマス、水素、アンモニアを利用するなど、代替エネルギーの検討を深める必要があるとしています。

新型コロナウイルスがエネルギー動向に与えた影響

新型コロナウイルスの感染拡大は、 経済活動や人々の暮らしに多大な影響を及ぼしました。
日本では2020年1月に初めて感染者が報告され、4月7日に緊急事態宣言が発令されると、リモートワークやオンライン授業等、外出しない生活様式が広まりました。
これにより、観光や外食産業では需要面が著しく落ち込み、経済全体が甚大なダメージを受けました。

エネルギー分野においても、それは例外ではありません。
世界的な行動規制および出入国制限は、航空機燃料やガソリン等の需要を急激に低下させました。
2020年後半、世界各地で徐々に行動規制が緩和されてからは、経済活動の再開によってエネルギー需要は回復したものの、今度は急激な需要の高まりに供給が追い付かず、天然ガスや石炭等の価格が高騰するなど、エネルギー分野は大きな混乱に陥りました。

このように、新型コロナウイルスの感染拡大は家庭内におけるエネルギー消費を促進させた一方、運輸分野や製造分野においてはエネルギー消費を減少させる等、エネルギー消費のバランスを従来から大きく変えてしまいました。
2022年現在、エネルギー消費はコロナ前の水準とほぼ同程度まで戻りつつありますが、一方でリモートワークやオンライン授業を継続している企業や学校もあるため、全く元通りにはならないと考えられています。
新型コロナウイルスがエネルギー動向に与えた影響の全貌を明らかにするためには、今後も引き続き分析を行う必要があるとしています。

ロシアのウクライナ侵攻がエネルギー動向に与えた影響

2022年2月24日、エネルギー大国であるロシアがウクライナに侵略したことにより、エネルギーの国際情勢は更に混迷を極めています。
ロシアが民間人の虐殺を始めとする国際法違反を繰り返したことを受け、2022年5月8日に発表されたG7首脳声明には、「ロシア産石油の輸入の規制又は禁止を通じ、ロシア産エネルギーへの依存状態を脱却する」といった内容が記されました。

エネルギー資源の90%近くを輸入に頼っている日本にとって、これは非常に厳しい決断でした。
しかし、G7の結束が何よりも最優先すべきであることを踏まえ、日本もまたロシア産石油を原則禁輸とする方針を示しています。
しかし、 現実としてロシア産石油を即時禁輸することは厳しいため、今は代替エネルギーを模索しつつ、徐々にロシアへのエネルギー依存を脱却していくことを目指しています。
また、日本の政府や企業が権益を有するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン1」「サハリン2」からの石油輸入については、国民生活や経済活動への悪影響を最小限にとどめる方法で、時間をかけてフェーズアウトしていくこととしています。

日本としてはG7首脳声明に則り、再生エネ利用をはじめとしたエネルギー源の多様化、 ロシア以外での供給源の確保、生産国への増産働きかけ等を通じて、ロシアへのエネルギー依存の低減に取り組んでいく方針です。

エネルギー価格の高騰

2021年、世界各地では電力需給がひっ迫しました。
原因としては、

①2015年から続く原油価格下落によって化石投資が停滞し、脱炭素の流れも重なって深刻な供給力不足状態に陥った
②新型コロナウイルスからの経済回復でエネルギー需要が急激に増大する中、悪天候や災害が重なって太陽光や風力等の再エネが期待通り得られなかった


等が考えられています。
加えて、新型コロナウイルスからの経済回復によって、世界のガス火力依存度は一層高まったことも分かっています。

こうした中、2021年初頭にはヨーロッパに記録的な大寒波が襲来。
急激に高まった暖房需要に耐えるべく、ヨーロッパ諸国が世界中の石炭、原油、天然ガスを買い求めたことも価格上昇に拍車をかけました。
さらにロシアによるウクライナ侵略が始まったことで、価格上昇はますます加速しています。

日本では、2022年3月16日に福島県沖で発生した最大震度6強の地震と寒波の影響を受け、2022年3月22日には東京電力管内に「電力需要ひっ迫警報」が出されました。
幸い大規模な停電等は発生しなかったものの、政府は今後も電力がひっ迫する可能性は十分にあるとして、特に電力需要が高まる夏の間、企業や家庭に対し「節電要請」を呼びかけることを発表しています。

これらの状況を踏まえ、今後日本は、エネルギー源や調達先の多様化等を通じてエネルギー輸入価格を抑えつつ、エネルギー自給率の向上も実現することで乗り切る方針を示しています。
それでもカバーしきれない場合は、企業や消費者の間でエネルギー価格の上昇をどのように負担していくのか、議論を深めていくことが重要だとしています。

まとめ

日本にとどまらず、世界中がエネルギー政策の大きな転換期を迎えている今。
価格高騰や電力需給のひっ迫など、不安になるニュースも多く耳にしますが、エネルギー白書2022によって固められた方針が、少しでも多く実現することを願いたいですね。

参考:令和3年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2022)(経済産業省)

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