日本最大級の卸売市場が2018年に築地から豊洲に移転して、早くも3年目になろうとしています。
当時、築地から豊洲まで市場で使われる運搬車の「ターレ」が大移動する姿は、SNSやメディアでも大きな話題となりました。
そんなターレですが、昔から変わらず市場内で頼もしい運搬車として活躍する一方で、市場中を縦横無尽に移動するその姿に「排気ガスの量凄そうだな…」と心配に思う方もいるのではないでしょうか。
しかし、実はターレは25年以上前から電動化が始まっており、現在豊洲市場で使われているターレはなんと1800台全てが電動式となっています。
乗用車の脱ガソリンエンジンがまだまだこれからだというのに比べると、いかにターレがいち早く電動化に取り組んだかが分かりますね。
今回は、そんなターレが豊洲市場での完全電動化に至るまでの背景などについてチェックしていきましょう。
ターレのキホン情報
ターレとは?
ターレとは、「円筒状の動力部が前方に付いた3輪の運搬車」のことです。
小回りが利くため卸売市場に限らず、工場、倉庫、鉄道駅の構内などにも幅広く利用されています。
また近年では、福祉施設(入居者の食事運搬)やサッカースタジアム(ゴミ回収)などにも使われるようになっています。
元々アメリカで開発されたターレが日本で初めて製品化されたのは、1951年のことです。
この時にターレを製造したのは富士自動車で、その時に「ターレットトラック」の名で売り出されたのが、日本におけるターレの歴史の始まりだとされています。
それから11年後、富士自動車は製造会社の朝霞製作所にターレに関する全ての権利を譲り、朝霞製作所によって「ターレットトラック」の名が商標登録されましたが、現在では他社製品も同様の名称で呼ばれるようになっています(なお朝霞製作所は2012年に自己破産し商標登録も取り消し)。
日本の法令上においては、「ターレット式構内運搬自動車」と名付けられています。
ターレット、もしくはタレット(turret)には「旋回するもの」という意味があり、その名の通り「軍艦や戦車に付いている、クルクルと旋回する砲塔」に似ていることが由来しています。
一般には「ターレ」や「ターレー」と略して呼ばれることが多いですが、市場関係者の中では「ぱたぱた」や「ばたばた」などと呼ばれる場合もあるそうです。
これは一説によると、ターレのエンジン音が「パタパタパタ…」と聞こえたからだと言われています。
どんな性能がある?
ターレでは、動力源、操舵装置、駆動輪の全てが車台前方の円筒状の動力部に納められています。
そのすぐ後ろに運転台があり、運転者はそこでターレの操縦を行います。
ターレの定員は基本1人となっており、操縦は立った姿勢で行いますが、近年では運転台に簡素な椅子が設置されている車種もあります。
ターレの操縦用ハンドルは円筒状の動力部上部に取り付けられており、これで前方の駆動輪を360度回転させることができます。
駆動輪は最小回転半径が小さくなっているため、狭い場所での運用にも適しています。
またターレは名前の由来通り、前輪を90度横に向けることで、内側の後輪を軸とした旋回が可能となっています。
重量のあるユニットごと回して操縦するため、他の乗り物に比べると取り回しが重く、時速は最高でも15km程度しか出すことはできませんが、市場や工場などの限られた構内においては十分の速度だと言えるでしょう。
ちなみにターレは「小型特殊自動車」に分類されており、普通免許を取得していれば運転することは可能です。
そのため、日本ではナンバープレートとバックミラーが付いていればターレで公道を走ることもできますが、その場合は法規制により積載量は500キロが限度となっています。
築地から豊洲へ…卸売市場とターレの歴史
初めて築地で使われたのは65年前
初めて築地市場にターレが導入されたのは、今から65年前の1956年のことです。
当時、生鮮品の運搬には主に手押し車が使われていたため、市場の人々はターレの登場を歓迎するかと思われましたが、実際は「エンジン音がうるさい」「市場内を運転するのは危険」などの理由から敬遠され、大々的な普及には至らなかったそうです。
その後20年近くの間、築地市場におけるターレの評価は今ひとつでしたが、長い時間をかけながらも着実に活躍の場を増やした結果、1990年代頃にはターレが築地市場における運搬の主力を担うようになりました。
進む電動化と豊洲への市場移転
ターレの普及が安定した一方で、今度は「騒音面」や「安全面」ではなく「環境面」が不安視されるようになりました。
長年ターレの燃料に使われていたガソリンに対し、「生鮮品を扱う市場で多量の排ガスやチリが発生するのは良くないのでは」という懸念の声が上がるようになったのです。
その影響を受け、2000年以降築地市場には電動ターレが本格的に導入されるようになりますが、「充電に時間がかかる」「充電スタンド用のスペース確保が難しい」「坂を登る性能が弱い」などの理由から、またしても市場関係者からの評価は今一つでした。
しかし、その後様々なメーカーが電動ターレの開発に参入し、徐々に性能も向上していきます。
そして2018年に築地の場内市場が豊洲に移転する際、豊洲は築地と異なり充電スペースを広く確保することが出来たため、なんと2100台もの電動ターレが持ち込まれました(ちなみに2021年時点のターレ数は1800台)。
こうして豊洲市場は、移転と共に「市場内の完全電動化」を実現させることができたのです。
電動ターレだけじゃない!エコな運搬車を開発するメーカー
三菱ロジスネクスト
三菱ロジスネクスト製ターレの「エレトラック」は、従来の電動ターレに使用されていた鉛蓄電池ではなく、リチウムイオン電池を搭載しています。
バッテリーを、鉛蓄電池よりパワーの放出能力が高く、また急速充電が可能なリチウムイオン電池に替えたことによって、力強い登坂能力、安心して降坂できる機能、充電時間の大幅な削減に伴う電気料金の削減などを実現させています。
関東機械センター
関東機械センター製ターレの「マイテーカー」シリーズには、電動式の他に天然ガスを燃料とした製品も開発されています。
天然ガスは化石燃料でありながらも、ガソリンや石油などに比べて有害物質をほとんど排出しないことで知られています。
また地層から採掘された時点では含まれているCO2やH2S(硫化水素)などの不純物も、液化天然ガスに加工する際に除去されるため、たとえターレの排ガスとなっても地球環境に与える負荷は極めて低いと言えます。
ちなみに豊洲市場は完全電動化となっているため、天然ガス車のマイテーカーは使われていませんが、札幌や仙台の中央卸売市場では主力運搬車となっており、現在では2つの市場を合わせて850台以上が稼働しています。
イケヤフォーミュラ
栃木県鹿沼市の自動車部品メーカーであるイケヤフォーミュラは、電動ターレならぬ電動3輪スクーターの「トライク」を製造・販売しています。
トライクは積載量こそターレに敵わないものの、時速はなんとターレの約4倍となっており、高い走行能力を備えている点やターレよりも小回りが効く点などが卸売業者から人気を博しています。
ターレに比べると豊洲市場への導入数はまだまだ多くありませんが、増産を望む声も多いため、今後はターレに並ぶ運搬の主力になると予想されています。
まとめ
今回は、現在豊洲市場で活躍する電動ターレの歴史、そして今後の活躍が期待されるターレ以外のエコな運搬車などについて紹介していきました。
普段の生活では中々見ることのないターレですが、私たちの知らない間にここまで電動化が進んでいたとは驚きですね。
豊洲市場の完全電動化が進む一方で、乗用車の電動化は一体どのように進められていくのでしょうか。
脱炭素化へ向けた国や社会の動きには、今後もしっかり注目していきたいですね。