電力データがネット広告に活用される!?個人情報保護のための課題は?

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スマートフォンやPCで通販サイトを見た後に別のページに飛ぶと、さっきまで見ていた通販サイトのネット広告が表示されることがありますよね。
これは、サイトの閲覧履歴やSNSでの行動などからユーザーごとの趣向や関心を分析して表示される「ターゲティング広告」と呼ばれるもので、近年では珍しくない存在となっています。

そんな中、先日博報堂DYホールディングスと東京電力ホールディングスなどが、電力利用データから分析した世帯情報をネット広告配信に生かす国内初のサービスを始める予定だというニュースが報じられました。
2022年4月からは電気事業法改正により電力データ利用が規制緩和され、電力データのより社会的な利用が進められる予定です。
その流れで、個人が特定できる電力データも企業が扱えるようになるため、前述した大手企業がいち早く関連事業に乗り出したと考えられています。
今後、電力データは小売業などへの活用も検討されています。

とはいえ、ターゲティング広告に対しては「興味のない広告を見なくて済む」と好意的に捉える人もいる一方で、「個人情報が流出しているのではないかと不安」と感じる人も少なくありません。
電力データを使ったネット広告事業を実現するためには、消費者の安心と信頼を得られる個人情報保護が課題となります。

今回は、電力データをネット広告やその他の事業に活用するべく進められている、さまざまな取り組みについて見ていきましょう。

電力データ活用のカギとなる「スマートメーター」とは

取得した個人データを基に広告などで収益をあげるビジネスは、これまでは主にネット企業が担い手となってきました。
しかし、東電をはじめとした大手電力会社が新たに参入することで、今後データの活用は転換点を迎えると考えられています。

各電力会社は、「スマートメーター」を使って電力データを収集する予定です。
スマートメーターとは、無線通信機能を持つデジタル式の電力計のことです。
スマートメーターで把握できる世帯情報は、主に以下の6つです。

・在宅か不在か(消費電力の変化と量)
・空き家かどうか(消費電力の有無)
・外出時間や帰宅時間(消費電力の変化)
・単身か家族持ちかといった世帯構成(消費電力の量と変化)

・高齢者世帯か(消費電力の時間帯)
・太陽光発電システムを設置しているか(電力の流れの変化)


これまでは、検針員が1ヶ月に1回訪問して電力データを確認していましたが、スマートメーターがあれば、わざわざ検針員が行かなくても30分ごとに電力データを確認することができます。
スマートメーターのこの仕組みこそが、ネット広告事業の要となっています。

例えば、夜間に少ししか電力を利用していない場合は単身世帯、といったように推計できます。
その後より正確な抽出と照合を行い、実際に条件が合致した場合に世帯のスマートフォンなどに広告を配信する予定です。

設置対象の一般家庭とオフィスは全国に約8000万件あり、全てに設置が完了すれば、月に1回の検診でしか分からなった電力データが大規模にリアルタイムで分かるようになります。
現在、各大手電力会社は管内の各世帯にスマートメーターの設置中を進めており、東電は2021年3月までに作業をほぼ終えています。
他の電力会社も、2024年度までに順次完了する予定です。

地域の傾向抽出

今回のネット広告事業は博報堂DYホールディングス傘下のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)を主体に、東電、関西電力、中部電力、NTTデータが出資するグリッドデータバンク・ラボと組んで実施されます。

まずは、約300万件の電力契約がある東京23区を対象に、「単身」「家族」「戸建て」「集合住宅」など10以上の分類について合致する世帯が多い地域を、郵便番号と紐づけて抽出します。
それをDACが保有する1億以上の携帯電話などのデバイスのIDと掛け合わせ、対象地域に住む人のスマートフォンなどに分譲マンションやショッピングモールなどの広告を配信します。

政府は2022年4月施行の改正電気事業法で、電力会社などによる電気事業以外での個人データの活用を認める予定ですが、そのためには前提としてユーザーの事前同意を得る必要があります。
しかし現行の電気事業法の下では、スマートメーターで抽出したデータは個人を識別できないように工夫すれば、ユーザーの同意が無くても統計データとして電力会社などが利用できることになっています。
そのため今回の事業は、改正電気事業法の施行前に事業モデルを構築する狙いがあると見られています。
広告主の企業は1ヵ月あたり5万~10万円をDACに、DACは電力データ使用量を東電などにそれぞれ支払う予定です。

個人情報保護のための「情報銀行」を検討

規制緩和のタイミングを見据え、商機を伺う企業も続々登場しています。

SGホールディングス傘下の佐川急便は、2023年にも電気の使用履歴から住宅の時間帯を予測して最適な配送ルートを作る事業を始めることを目指しています。
中部電力と三菱商事は、一人暮らしの高齢者の電力の使用量を分析し、異常があったら離れて暮らす家族に連絡する「見守りサービス」を検討中です。

個人データの活用はビジネスの幅を広げる一方、利用者の個人保護の点に置いては課題が残っています。
電力会社の参入については、「電気契約の約款に電力データ利用同意を盛り込むなどの手法は、消費者の選択肢を奪う」「明確な事前同意を得ることが必要」と指摘する声もあります。

このような指摘を受け、政府や大手電力会社の間では、「情報銀行」のような機能を持つ一般社団法人の設立検討に関する議論が進められています。
情報銀行とは、認定を受けた事業者がパーソナルデータ(個人に関するさまざまな情報)を預かり、データを活用したい他の事業者に適切に提供する事業のことです。
パーソナルデータには、行動履歴や購買履歴、ヘルスケアデータなどの重要なデータが含まれます。
銀行に資産を預けるように、個人が自らのパーソナルデータを情報銀行に預け、高いセキュリティ能力のもと管理することで、企業は情報銀行を通してパーソナルデータを活用することができます。

個人が情報銀行にパーソナルデータを預ける最大のメリットは、何と言っても「安心・安全」という点です。
情報銀行を利用すれば、どこにどのようなパーソナルデータを提供するかを個人が選択することができるため、パーソナルデータを活用したい企業に直接情報を預けるよりも安心感があります。
また、データを提供すれば、提供者がポイントなどのインセンティブを受けられる制度を導入しているケースもあります。
電力データにおける情報銀行を設立する際もこの制度を導入すれば、積極的にデータを提供してくれる消費者を確保できると考えられています。

しかし企業側としては、情報銀行を導入するにはセキュリティ管理に必要なコスト面をクリアしなければなりません。
また、情報銀行からデータ提供を受ける事業者は、高いセキュリティ基準をクリアしていると証明する必要があり、そのためプライバシーマークや情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)認証の取得、更新などが求められています。
こうした基準をクリアするためには、情報銀行から提供されるパーソナルデータの管理運用を適切に行うためのシステム設計が重要になります。

まとめ

今後、電力データの利用は段階的に始まっていきますが、一方でまだまだセキュリティ面の不安は拭えません。
電力データ利用の安全性を高め、今後広く普及していくためにも、政府や電力会社にはコスト面やシステム面の課題をクリアしていくことが求められています。

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