2020年度に起きた一大事と言えば「新型コロナウイルス感染症による世界規模のパンデミック」であることは言うまでもなく、エネルギー分野においても2020年度は新型コロナウイルスの影響による様々な変化がありました。
また、コロナとは直接関係のない部分でも、エネルギー問題を取り巻く状況はこの一年でめまぐるしく変化しました。
もうじき訪れる新年度を迎える前に、今回は「2020年度に話題となったエネルギー分野における6つの出来事」を振り返っていきましょう。
原油需要の減少
新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として、世界中でロックダウンや外出自粛要請などの措置が取られた2020年春には、原油需要が大幅に減少しました。
車の利用数や飛行機の運航数が激減して燃料のガソリンが使用されなくなったことが、需要減少の主な原因だと考えられています。 そのため原油だけではなく、ガソリンに混合するエタノールの需要も大幅に減少しました。
ロシアとサウジアラビアの協力体制決裂による原油価格の暴落
前述したコロナ禍における原油需要の低迷を受け、2020年3月6日に開かれた「OPEC+1(※)」の会議では、石油大国であるサウジアラビアから「下落する原油価格を安定させるための生産数削減」が提案されました。
しかし、これに対し同じく石油大国のロシアは「生産数の維持」を主張し、双方ともに意見を曲げないまま、両国の協力体制は決裂。
この決裂が市場に与えた影響は大きく、会議から3日後の3月9日にはわずか一日で原油価格が30%も急落し、NY株式市場の一時的な大暴落を引き起こす原因となりました。
その後もさらに原油価格の下落は続き、新型コロナウイルスの感染拡大も相まって状況は悪化の一途を辿りました。
それから約2ヶ月後の5月には、ロシアとサウジアラビアによる共同声明が出され、「両国はOPEC+1のリーダー国として原油市場の安定化を目指し、目標達成に向け共に動いていく」といった旨を表明していますが、2021年3月現在、原油の増産に慎重なサウジアラビアと増産に意欲的なロシアの両国は、再び対立の色を見せています。
※OPEC+1(石油輸出国機構)加盟国とその他の非加盟国で構成される協調体制の枠組み
天然ガスの大幅な価格低下
国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年の天然ガス需要は新型コロナウイルスと北半球における暖冬の影響で前年から4%減少し、史上最大の需要下落となったことが分かっています。
その減少量は1500億m3と推測されており、これは2008年のリーマンショック後の減少量の2倍だと言われています。
今後、天然ガス需要は主にインドや中国等の大国で増加すると考えられていますが、それが実現するには輸入・輸出市場の回復が不可欠であり、新型コロナウイルスの影響を考えると2025年頃までは需要の減少傾向は続くと予想されています。
また、原油同様天然ガスは需要減少に伴い、価格も大幅に低下しています。
以前の記録的な低価格を記録したのは2016年となっており、当時の天然ガス価格は1MMBtu(※)あたり平均2.52ドルでした。
これに対し、2020年はさらなる低価格化を記録し、年初めから12月15日までの天然ガスの平均価格は1MMBtuあたり2ドルでした。
※MMBtu…英国熱量単位(British thermal unit)の略。
メートル法によらない熱量の単位で、主に米国(英国ではなく)で用いられている。
アメリカの「パリ協定」復帰
世界中の注目を集めた2020年11月の大統領選挙では、激戦の末、民主党のジョー・バイデン氏が当選となりました。
温暖化懐疑派のトランプ前大統領とは反対に環境・エネルギー政策に意欲的なバイデン氏は、大統領就任の初仕事として、トランプ前政権により一度は離脱した「パリ協定」への復帰を2021年2月19日に果たしています。
バイデン新政権では、石油や石炭などの化石燃料の使用抑制対策、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用促進などが積極的に行われることが期待されています。
バイデン新政権における環境政策については、当コラムページに掲載している「バイデン新大統領誕生!政権交代がもたらすアメリカの環境・エネルギー政策の変化とは」というコラムにて詳しく触れているため、気になる方は是非こちらもチェックしてみてくださいね。
EVの普及拡大と「脱炭素化」へ向けた各国の動き
ガソリンの代わりに電気を燃料にして走る電気自動車(以下、EV)は、ここ10年で価格面、性能面において飛躍的な進化を遂げ、年々確実にシェア数を拡大しています。
2010年には世界中合わせてわずか2万台に届かなかったEVの生産台数は、2019年には約720万台にまで増加しています。
新型コロナウイルス拡大の影響により、2020年のEV販売台数は全世界で18%減(前年比)とはなったものの、EV普及に対する長期的な影響は無いものと見られており、今後もEV業界の成長は加速していくことが期待されています。
その背景には、世界的に活発となっている「脱炭素化」へ向けた動きがあります。
イギリスでは2020年11月に「2030年までにガソリン車およびディーゼル車の新車販売を禁止する」という目標が設定され、その後アメリカ・カリフォルニア州でも2035年までの達成を目指した同様の目標が設定されています。
さらに、イギリスやカルフォルニア州に比べて市場規模が小さいノルウェーでは、「同様の目標を2025年までに達成する」という野心的な目標が掲げられています。
また日本でも、2020年12月に同様の目標達成を目指すことが発表されました。
自動車産業もこうした各国の動きに呼応し、ドイツの大手自動車メーカーであるフォルクスワーゲンは、今後5年間で環境に配慮した自動車の製造に860億ドル(日本円で約9兆円)を投じることを発表しました。
また、アメリカの大手自動車メーカーであるゼネラルモーターズも、EV製造に数十億ドルを投じることを発表しています。
そして、長年ハイブリッドカー業界をけん引してきた日本のトヨタも、EVの製造拡大には意欲的な姿勢を示しています。
その他、大手企業のアマゾンが2030年までに配達用EV10万台を配備することを発表するなど、EV普及に向けた動きは自動車業界以外にも拡がりつつあります。
ガソリン車の販売終了については当コラムページに掲載している「2030年代にはガソリン車が販売されなくなるってホント?今後を徹底予想!」で、脱炭素化については「ゼロカーボンシティとは?その定義や取り組んでいる地方公共団体をチェック!」でも詳しく触れているので、こちらも気になった方は是非チェックしてみてください。
世界的に高まった水素エネルギーへの関心
2020年は、化石燃料に変わるエネルギーの1つとして、「水素」に注目が集まった年でもありました。
かねてより「未来の燃料」として度々話題に上がることはあった水素ですが、太陽光や風力に比べると、まだまだ十分に普及したとは言えない状況が続いていました。
しかし、再生可能エネルギーの低価格化、前述した原油や天然ガスを取り巻く環境の激しい変化、そして水素を燃料として走る燃料電池自動車(FCV)の開発が飛躍的に進んだことなどにより、2020年は改めて水素の将来性に目が向けられるようになりました。
日本においても、首都圏を中心に走行する燃料電池バス(FCバス)の数や、FCVやFCバスにとってのガソリンスタンドである「水素ステーション」の数は着々と増えています。
まとめ
今回紹介したもの以外でも、リモートワークやステイホームによる電気やガスといったライフラインの消費パターンの多様化、宅配需要の増加に伴う段ボール需要の増加など、2020年度は私たちの知らないところでも大きな変化があった一年でした。
2021年度には、一体どのような出来事が起こるのでしょうか。
何が起こるにせよ、日本そして世界の状況が少しでもより良い方向に向かうことを信じたいですね。