先日、経済産業省の資源エネルギー庁に置かれている調達価格等算定委員会が、「2022年(令和4年)以降の調達価格等に関する意見」を公表しました。
今年度の委員会では、電力部門の脱炭素化に向けて、国民負担の抑制と地域社会との共生を図りながら再生可能エネルギーの主電力化を徹底させるための意見が取りまとめられました。
その中から、今回は太陽光発電に関する取りまとめをピックアップし、簡単に解説していきます。
FIP制度の対象拡大
昨年度の調達価格等算定委員会(以下、委員会)では、太陽光発電を取り巻く状況や事業環境を鑑み、2022年度にはFIP制度のみ認められる対象を1,000kW以上とした上で、50~1,000kWの設備については徐々にFIP対象を拡大し、早期の自立を促すことを目指しました。
現在、日本の太陽光発電コストは世界と比べて高い水準にありますが、それでも年々コスト低減は進んでいます。
また、FIP制度の導入を見据えたアグリゲーション(集約)・ビジネスの活性化に向けた環境整備の進展が見られること等から、FIP制度のみ認められる対象については2023年以降拡大することとなりました。
具体的な対象範囲としては、日本において最も件数の多い区分が250~500kWであることをふまえ、2023年度には500kW以上、2024年度には250kW以上といったように、段階的にその対象範囲を拡大していく予定です。
なお、沖縄地域や離島等の供給エリアにおいては、2023年度、2024年度もFIT制度を適用できることになっています。
事業用太陽光発電の場合
コスト動向と2023年の調達価格の想定
事業用太陽光発電においては、2013年から2021年までの8年間でパネル費用は低減しているものの、工事費は若干上昇傾向にあります。
設備費用全体としては低減傾向にあり、2021年に新たに設置された10kW以上の設備の平均値は前年より0.5万円/kW低い25.0万円/kWという結果になりました。
このうち50kW以上の事業用太陽光発電の設備費用については、2023年度の想定値として、2020年度の14.2万円/kWより2.5万円/kW低い11.7万円/kWが採用されました。
また、10~50kWの小規模事業用設備については、2020年度より自家消費を含む「地域活用案件」が設定されています。
対象の設備には、以下の2つが求められています。
①再エネ発電設備の設置場所で少なくとも30%の自家消費等を実施すること
②災害時に自立運転を行い、給電用コンセントを一般用に提供すること
この地域活用案件が設定されたばかりの2020年度当時は、小規模事業用太陽光発電システム費用に関するコストデータがまだ存在しなかったことから、事業者へのヒアリング結果に基づき、②の災害時の活用のために必要となる費用として0.3万円/kWをその都度加味する形で設定されていました。
今回は、初めて対象案件に関するコストデータが一定数収集されたことから、2023年度の想定値については当該コストデータをふまえ、2020年度の想定値21.2万円/kWから3.4円/kW低い17.8万円/kWへと設定が変更されました。
なお10~20kWの集合住宅の屋根設置に関しては、配線図等から自家消費を行う構造が確認できれば、少なくとも30%の自家消費を実施しているものとして取り扱うこととなりました。
2023年度の廃棄等費用の想定額
昨年度の委員会では、2012~2022年度に認定を受けた設備の解体等積立基準額に対し、各年度の調達価格・基準価格・入札上限価格における想定値(廃棄等費用、設備利用率等)に基づき、「想定設備利用率で電気供給した時に、調達期間の終了前10年間で想定の廃棄等費用を積み立てられる「kWh当たりの単価」が設定されました。
今年度の委員会でも同様に、2023年度認定の解体等積立基準額は前述の調達価格・基準価格における想定値に基づき設定されることとなりました。
委員会が発表した資料によると、2023年度の解体等積立基準額は10~50kWが1.33円/kWh、10~50kW以外が0.64/kWhとなっており、廃棄等費用の想定額は全規模共通で1万円/kWとなっています。
住宅用太陽光発電の場合
システム費用
住宅用太陽光発電のシステム費用は、新規案件、既存案件ともに低減傾向にあります。
新規案件に関しては、2021年設置の平均値は28.0万円/kWとなっており、2020年設置より0.4万円/kW低減しています。
これらの結果をふまえ、2023年度のシステム費用の想定値は、2022年度の想定値(25.9万円/kW)を据え置くこととなりました。
運転維持費
5kWの設備の運転維持を想定した場合、3~4年ごとに行う定期点検の1回あたりの費用相場が約2.9万円程度であること、パワコンは20年間で一度は交換され、その平均相場は22.4万円程度であること等が分かっています。
これらを年間運転維持費に換算すると約3,690円/kW/年となり、2022年度の想定値である3,000円/kW/年と、概ね同程度の水準であることが分かりました。
このため2023年度も、引き続き3,000円/kW/年を想定値として据え置くこととなりました。
住宅用太陽光発電の調達期間終了後の売電価格
2023年度の想定値には、各小売電気事業者が公表している買取メニューにおける2021年11月末時点の売電価格の中央値である9.5円/kWhが採用されました。
再エネ特措法上、調達価格の設定は「再エネ電気の供給が効率的に実施される場合に通常要する費用」等を基礎とすることとなっているため、中央値より高い水準を想定することもあり得ます。
しかし10円/kWh以上のメニューの場合、小売電気事業者による電気供給代が含まれていたり、蓄電池とのセット販売等の条件付きであったりすることが少なくないため、状況を注視することが重要だと委員会は述べています。
住宅用太陽光発電(地上設置)の取扱い
10~50kWの太陽光発電システムの申請件数は、2020年度に地域活用要件が設けられて以降大幅に減少している一方、10kW未満の地上設置案件の申請が急増しています。
その中には地域活用要件を逃れるため意図的に設備を分割し、複数の10kW未満の設備で認定を取得している疑いのある案件も見られます。
こうした状況に対し委員会は調査を行っているものの、依然として設備を意図的に分割していると疑われる案件は存在し、また地元とトラブルになるケースも生じています。
10kW未満の余剰買取方式は、ほとんどの場合住宅用太陽光に分類され、自宅の屋根に設置したパネルで発電した電気を自家消費した上で、余った電気を売ることが念頭に置かれています。
そのため屋根へのパネル設置の申請を行う場合は、自家消費を行う建物の登記等の提出が求められます。
一方で地上設置の場合、現在は設置場所の土地登記簿謄本のみを求めているため、近年設備の分割や地域とのトラブルが顕在化していると考えられています。
この実態をふまえ、委員会は余剰買取の趣旨を明確化する観点から、地上設置として申請があった案件についても、実際に電気を消費する建物を確認するため、建物登記等の提出を求めることとしました。
システム稼働年数について
稼働年数については、これまでは20年間と想定されていましたが、近年国内出荷量の多いパネルメーカーの出力保証は25年であることが多く、中には30年のものも出てきています。
こうした動きをふまえ、委員会は想定する運転年数を20年間から25年間に変更することとしました。
この場合、FIT期間終了後の売電価格は、電力自由化が開始した2016年以降の年度ごとのシステム費用平均値の9.4円/kWhが想定されます。
なお自家消費型地域活用案件については、主に屋根設置であり塗り替え等を行う可能性もあることから、2023年度も引き続き20年間を稼働年数とし、今後の利用実態次第で稼働年数の変更を検討することとしています。
まとめ
今回は、太陽光発電の調達価格等に関する情報のみいくつか紹介しましたが、より詳しく内容を知りたいという方は、経済産業省が公表しているこちらのページもチェックすると良いでしょう。
その他、太陽光発電に関して気になることがある場合は、どうぞお気軽に当社までお問い合わせくださいませ。
参考URL:経済産業省「2022年2月4日 令和4年度以降の調達価格等に関する意見」