先日、日本の衣料品通販大手ZOZO(ゾゾ)創業者の前澤友作氏が国際宇宙ステーション(ISS)へと出発し、日本人としては初の民間宇宙旅行を実現したことが話題になりました。
「民間」「旅行」と言っても、前澤氏はただ単に旅行代金を払って宇宙船に乗ったわけではなく、宇宙飛行士と同じように過酷な訓練を乗り越え、その結果見事宇宙空間に到達しています。
ところで、「とにかく過酷」だと耳にすることの多い宇宙飛行士訓練ですが、一体どれだけ厳しいものなのでしょうか。
また、実際に宇宙飛行士となった際に行う業務にはどのようなものがあるのでしょうか。
今回は歴代の日本人宇宙飛行士たちを振り返りながら、宇宙飛行士になるための条件等についてチェックしていきたいと思います。
宇宙飛行士になるための条件とは
前回JAXAが行った平成20年度の宇宙飛行士候補者の募集要項には、次のような条件が記されています(一部省略あり)。
・日本国籍を有していること
・大学において理学部、工学部、医学部、歯学部、薬学部、農学部いずれかの課程を修了していること
・自然科学系分野における研究開発等に3年以上の実務経験があること
(修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の実務経験ありとみなしてOK)
・宇宙飛行士としての業務に対応できる幅広い分野の科学知識、技術等を取得していること
・訓練に耐えうる泳力があること
・高い英語力があること
・身長は158cm以上190cm以下、体重は50kg以上95kg以下であること
・視力は両眼とも矯正視力1.0以上(裸眼視力の条件はないが屈折度等の基準はあり)であること
・色覚・聴覚ともに正常であること
・国際的なチームで長期間活動できる協調性や安定した情緒性等を有していること
・日本文化に造詣が深く、また美しい日本語を身につけていること
・長期間の海外勤務が可能であること
・日本の普通自動車免許を取得していること
ここに記したのは大まかな内容となっていますが、JAXAの公式ホームページにはさらに詳しく記されているため、気になる方は是非そちらもチェックしてみることをお勧めします。
宇宙飛行士に選ばれた後は何をするの?
選抜から訓練を経て宇宙へ行くまで
前章で紹介した基準をクリアすることはあくまでもスタート地点に過ぎず、最初の書類選抜から筆記試験や宇宙への長期滞在適性試験を含んだ一次選抜~三次選抜までは、約一年の期間をかけて行われます。
長く厳しい選抜試験の結果、最終的には数百人いた志願者のうち毎年1~3人だけが宇宙飛行士候補者として採用されています。
とはいえ採用されてすぐに宇宙に行けるというわけではなく、その後にも長い訓練期間が
待ち受けています。
その具体的なプロセスは、次のようになります。
➀基礎訓練(約2年)
科学面や技術面における知識や技量、そしてISSシステムに関する基礎知識を習得します。
また、チーム行動やメディア対応力などの基本行動面や、英語やロシア語等の語学面においても訓練を行います。
この訓練を経て初めて、正式に宇宙飛行士と名乗ることができるようになります。
②維持・向上訓練(不定期)
基礎訓練で習得したスキルに磨きをかけながら、搭乗割当を待機する時期です。
いわゆる、来るべき次の宇宙飛行に備えた「待ち時間」です。
早ければ1~5年程度で初飛行の時が訪れますが、タイミングが合わないと10年以上待つことになる場合もあります。
③ISS(国際宇宙ステーション)搭乗訓練(約1年~2年半)
宇宙飛行ミッションが決まったら、搭乗期間や運用スケジュールに合わせた操縦方法などを習得するための訓練を行います。
また、基礎訓練や維持・工場訓練で習得した知識や技量の最終的なブラッシュアップも行います。
④ついに宇宙船搭乗&ISS滞在!(約半年)
長い訓練期間を経ていよいよ有人ロケット(以下、ロケット)に搭乗し、ISSに到着した後は、ISSのシステム維持及び運用に携わりつつ、宇宙開発に関する業務をこなします。
宇宙飛行士には4種類の役割がある!
ISSでは異なる4つの役割が各宇宙飛行士に割り当てられ、それぞれが自分の役割をこなしながら協力して宇宙での生活を送ります。
ここでは、その4種類の役割について紹介していきます。
➀コマンダー
ロケット全体の責任及び権限を持つ、いわゆる「船長」としての役割を担います。
主に他の宇宙飛行士たちへの指示や、ロケットの操縦を行います。
コマンダーに任命されるには、ロケットパイロットとしての経験を2回程度積んでいる必要があります。
②パイロット
コマンダーの操縦を補佐する右腕的な役割を担います。
コマンダーの指示に従いつつ、安全に飛行するための作業を行います。
③ミッションスペシャリスト
日本語では「搭乗運用技術者」と呼ばれ、略称はMSとなっています。
MSはロケット内すべてのシステムに関する知識を持っており、システム運用、船外活動、ロボットアームの操縦、実験運用などマルチな活動を行います。
ロケットに搭乗するMSは1人ではなく、必ず何人かが同乗するようになっています。
④ペイロードスペシャリスト
日本語では「搭乗科学技術者」と呼ばれ、略称はPSとなっています。
MSとは違い、ロケット内の全システムに関する知識を習得しているわけではありませんが、飛行に関する知識を大変豊富に持っているため、主に細かな実験操作を担う役割となっています。
そのためPSは、主に研究者もしくは科学者から選ばれます。
日本における宇宙飛行士の平均給与はどれくらい?
前述した平成20年度の募集時点では、JAXAにおける宇宙飛行士の給与は、原則としてJAXAの職員と同様のルールに沿って支払いが行われます。
「JAXA職員給与規定」によると、もし30歳の時に宇宙飛行士候補者として選出された場合は、本給は約30万円、35歳の時に選出された場合は約35万円となっています。
ただ宇宙飛行士の場合は、本給とは別に「宇宙飛行士手当」というものが支給されます。
宇宙飛行士として必要な事柄(語学や科学知識など)を習得する訓練を行う場合は本給の半分程度、ロケットやISSの搭乗に関わる業務を行う場合には本給とほぼ同額程度、そして宇宙飛行士としての資格を維持及び向上するために必要な訓練業務を行う場合は、本給の2割程度が支給されることになっています。
これまでに選出された日本人宇宙飛行士たち
日本では、これまでに11名が宇宙飛行士として選出され、実際に宇宙空間飛行ミッションへ参加しています。
この章では、その11名を紹介していきます。
元宇宙飛行士
・毛利衛氏
(宇宙飛行士以前の)経歴:科学者
1992年に「エンデバーSTS-47」搭乗。
記念すべき日本人初の宇宙飛行士。
・向井千秋氏
経歴:医学博士
1994年に「コロンビアSTS-65」、1998年に「ディスカバリーSTS-95」搭乗。
日本人女性初の宇宙飛行士。
・土井隆雄氏
経歴:NASA研究員 1997年に「STS-87」、2007年に「エンデバーSTS-123」搭乗。
日本人初の船外活動を行った。
・山崎直子氏
経歴:宇宙開発事業団(NASDA)
2010年に「ディスカバリーSTS-131(19A)」搭乗。
2011年に退役したスペースシャトルの日本人最後の搭乗者となった。
現役宇宙飛行士
・若田光一氏
経歴:JAL整備士
1996年に「エンデバーSTS-72」搭乗、長期滞在。
その後2000年、2009年、2013年にも宇宙飛行ミッションへ参加(合計4回)。
現時点では日本時最多のミッション参加数。
・古川聡氏
経歴:外科医
2011年に「露ソユーズTMA-02M(27S)」搭乗、ISS長期滞在。
・野口聡一氏
経歴:エンジニア
2005年に「ディスカバリーSTS-114(LF1)」、2010年に「露ソユーズTMA-17(21S)」に搭乗。
2020年11月頃には「米クルードラゴン初号機 (Crew-1)」へ搭乗予定。
・星出彰彦氏
経歴:宇宙開発事業団(現JAXA)
2008年に「ディスカバリーSTS-124(1J)」、2012年に「露ソユーズTMA-05M(31S)」へ搭乗。2021年3月頃には「米クルードラゴン2号機 (Crew-2)」へ搭乗予定。
・油井亀美也氏
経歴:航空自衛隊パイロット
2015年に「露ソユーズTMA-17M(43S)」搭乗、ISS長期滞在。
・大西卓哉氏
経歴:ANAパイロット
2016年に「露ソユーズMS-01(47S)」搭乗、ISS長期滞在。
・金井宣茂氏
経歴:自衛隊医師
2017年に「露ソユーズMS-07(53S)」搭乗、ISS長期滞在。
こうして見ると、異なる分野で活躍していた人たちが「宇宙へ行く」という同じ志を持って宇宙飛行士になったのだということが分かり、感慨深くなりますね。
まとめ
今回の記事を読んだ人の中には、「宇宙飛行士になるのって相当大変なんだなあ…」と思った人が圧倒的に多いかもしれません。
しかし一方で、「記事を読んでやっぱり難しいのは分かったけど、それでも昔からの夢だった宇宙飛行士に挑戦したい!」という気持ちが芽生えた方も僅かながらいるかもしれません。
当記事がそのような人の背中を押すことに、少しでも役立っていたなら幸いです。
一度きりの人生ですから、少しでも気になったら迷うよりもチャレンジしてみた方が良いかもしれませんよ!
新たな宇宙飛行士の募集要項等については、JAXAからの続報を待ちたいところですね。