昨年、「先月の電気料金が8万円だなんて!」といった悲痛の声が某SNSに投稿され、瞬く間にインターネット上で注目を集めました。
投稿者によると、その月の電気使用量が大きく増えたわけではないにもかかわらず、いつもの5倍近くの電気料金が請求されたそうです。
この他にも、各SNSには同様の声が次々と投稿されました。
調査を進めていくと、電気料金の急激な高騰のあおりを受けた消費者たちは共通して新電力会社を利用しており、電気の供給元となっている新電力会社の電気の仕入価格が跳ね上がったことが、今回の電気料金高騰の理由であることが判明しました。
2016年に制定され、今年で5年目を迎える電力小売り自由化ですが、今回の件により制度面においてまだまだ不備があることが明るみになったと言えます。
そこで今回は新電力の電気料金が高騰した詳しい理由や、大手電力会社から新電力会社に移行する場合の注意点等について見ていきます。
まずは新電力についておさらいしよう
新電力とは、2016年の電力小売り自由化以降に登場した電力小売会社(または電力小売事業者)のことを指します。
元々は、東京電力や関西電力といった大手電力会社しか電力販売は行うことができませんでした。
しかし小売り自由化以降はその制限がなくなったため、多くの企業が電力販売に参入し、それらがいつしか総括して「新電力」と呼ばれるようになりました。
小売り自由化から現在まで新電力には様々な分野の企業が参入していますが、中でも多いのが「エネルギー分野・再エネ分野」の企業です。
元々ガスや石油等を扱っていたエネルギー分野の企業は電気販売にもいち早く参入し、積極的に事業を拡大しています。
また再エネ分野では、太陽光や風力などの自然エネルギーを用いて発電した電気を供給することで、電気使用に「省エネ」や「環境負荷の低減」という新たな視点を作り、他企業との差別化をはかっています。
その他にも、通信、鉄道、建設業など、様々な分野が電力販売事業に乗り出しており、2021年3月時点における新電力の参入数は700社以上あることが分かっています。
新電力についてより詳しく知りたい場合は、以前当コラムページに掲載した「新電力会社って何?従来の電力会社から乗り換えるメリット・デメリットとは?」を是非チェックしてみてくださいね。
新電力の電気料金が高騰した理由
大手電力会社から新電力に乗り換える理由は、大きく分けて2つあります。
1つは前述した「環境への配慮」、そしてもう1つは、「新電力の方が大手電力会社に比べて月々の電気料金がお得」というものです。
確かに多くの新電力は、小売り自由化以降競争が激化している電力販売分野において少しでも多くの利用者を増やすべく、独自のお得な料金プランを設定している場合が多くなっています。
では、なぜ冒頭で触れたような電気料金の急激な高騰が起きたのでしょうか。
理由として考えられるのは、「火力発電の燃料に必要な液化天然ガス(LNG)の価格上昇」です。
資源エネルギー庁によると、LNGの価格上昇は昨年末から起こっていたことが分かっています。
生産地でのトラブル、輸入航路の渋滞、そして中国や韓国で発生した寒波の影響を受け、日本への輸入が困難になったことが原因でした。
このような状況の中、日本もまた日本海側を中心に強烈な寒波に襲われたことで暖房の使用量が全国的に急増し、市場価格の高騰を引き起こしたと考えられています。
また、コロナ禍におけるリモートワークの普及や、緊急事態宣言の発令による外出自粛などにより各家庭の電気使用量が増えたことも、無関係ではないと言えるでしょう。
再エネ発電システムなどを有している場合は別ですが、多くの新電力は自前の発電所を持たず、主に日本卸電力取引所(JEPX)などから電力を調達し、消費者に供給しています。
新電力が大手電力会社よりもお得な料金プランを提示できるのは、卸価格が低位に安定していればその分使用電気料金も安く抑えられるためです。
しかし、このいわゆる「市場連動型料金プラン」では異例の市場価格上昇が起きた場合、消費者の電気料金にも直接影響を与えます。
実際、2021年1月前後の電力卸価格は通常時の8~10円/kwhよりも約25倍近い251円/kwhまで高騰しており、これにより一部の消費者は高額な電気料金を支払う事態となりました。
そのため市場連動型プランを選ぶ場合は、ある時突然「電気料金がいつもより何倍も高い!」といった事態に見舞われることも覚悟しておくべきでしょう。
電気料金高騰に対する国の動き
経済産業省は1月29日の時点で、卸市場における電力の急激な価格上昇を踏まえ、電力消費者側の電気料金負担が大きく変わらないよう、電力小売り事業者に対し「柔軟な対応をとるように」との要請を発表しています。
また、2月には河野太郎規制改革担当相率いる複数の省庁における規制を点検する特別チームが、経済産業省に対し電力市場の再設計を要求しています。
今回、結果的には消費者に大きな電気料金負担が発生した形となったため、国に対する新電力の抜本的な見直しを求める声は今度より高まっていくものと考えられています。
新電力の普及は再エネ普及の大きな足掛かりにもなるため、そこにブレーキをかけないためにも、新電力を取り巻く環境の改善は必要不可欠だと言えるでしょう。
新電力を選ぶ際に気を付けたいポイント
今回の電気料金の高騰を受け、新電力の中には値上げ分の補填や他のプランへの移行などの対応をとる企業もあったようです。
今後またこのような事態が発生した場合も同じような措置が取られる可能性はありますが、できればなるべく事前に回避しておきたいものですよね。
ここでは、新電力へ乗り換える前に気を付けておくべきポイントについて見ていきましょう。
➀長期的な目でプラン選びをする
新電力によっては、前述した市場連動型料金プランを「イチオシのお得プラン」として勧めてくる場合があります。
確かにお得な面があることも事実ですが、契約する場合は「市場の状況によっては大きく価格変動する」ということをしっかり把握し、了承しておくことが大切です。
その時その時の安さではなく、長い目で見て「本当にこのプランで良いのか否か」を判断するべきだと言えるでしょう。
②市場状況に価格が左右されないプランを選ぶ
新電力が提示しているプランの中には、市場価格変動の影響を受けないプランもあります。
例えば自社の再エネ発電システムで発電した電気を100%使用するプランであれば、市場の影響を直接受けることはほぼないと言えるでしょう。
③プラン変更は後から可能なのかチェックする
契約当初は市場連動型料金プランで契約したものの、後から「価格変動が心配になってきたからプランを替えたい…」と気持ちが変わる可能性はゼロではありません。
しかし、新電力によっては「一度決めたプランは変更不可」、または「プラン変更には違約金が発生する」という場合もあります。
そのため、もし契約段階では「プランを替えることは無い」と思っていても、念のため事前に確認しておくことをお勧めします。
まとめ
今回は新電力における電気料金が高騰する理由とその市場背景、そして電気料金の高騰を回避するためのポイントについて見ていきました。
コロナ禍における「おうち時間」では、電気はいつも以上になくてはならない存在です。
そんな電気をなるべくお得に使用するためにも、電力プラン選びは慎重に行いたいものですね。
新電力への乗り換えを検討していない場合でも、この機会に今一度ご家庭の電力プランを見直してみてはいかがでしょうか。