※はじめに※
当コラムではリアルな食用虫の画像は使用していないため、リアルな虫の見た目が苦手な方でも安心してご覧いただけます(かわいい虫のイラストはあり)。
環境保全や動物愛護を目的としてベジタリアンになる人が増えている、という点については以前のコラムでも触れていますが、近年では環境問題や食糧危機を救う1つの方法として、なんと昆虫食にも注目が集まっています。
そのきっかけとなったのは、2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が「昆虫食の普及および昆虫を家畜の飼料にすることを推し進め、世界の環境問題と食糧危機を解決へ近づけていく」という旨の報告書を公表したことだと考えられています。
とはいえこの昆虫食、日本ではあまり馴染みがないような気がしますが、実は一部地域では古くから続く食文化として根付いていることをご存知でしょうか?
また日本に限らず、世界には何十年も何百年も前から昆虫食文化が根付いている国も多くあります。
今回は少しでも昆虫食についての理解を深めるべく、昆虫食の知られざる歴史から、「なぜ昆虫食が世界の様々な危機を救うと考えられているのか」などについて、詳しく見ていきましょう。
昆虫食の歴史
人が昆虫を食べるようになった明確な起源は明らかになってはいないものの、おそらく地球上に人が誕生して間もない頃には、既に昆虫食は重要な栄養源として重宝されていたと考えられています。
それはどこの国においても同様で、中国の古い書物にはシロアリの卵の塩辛で客をもてなしたことが記されている他に、古代ギリシャや古代ローマにおいてもセミなどを食べたという記録が発見されています。
また、アフリカ諸国、南米アマゾン、メキシコなどの熱帯および亜熱帯地域では、今でも日常的な食事として昆虫が食べられています。
特に、度々大発生するサクトビバッタによって農作物を食い荒らされるなどの蝗害(こうがい)を受けることの多いアフリカ北部では、荒らされた農作物の代わりにサバクトビバッタを非常食として食べることで飢饉を防ぐ対策をとっています。
ちなみにアジアでは前述した中国の他に、タイ、ベトナム、ラオスなどの一部地域において、今なおタガメなどを日常的に食べる文化が残っています。
このように、現代にも昆虫食が浸透している地域や民族は残っているものの、それ以外の国や地域では日常的に昆虫を食べることはあまり一般的ではありません。
理由としては、文明が発展するにつれて昆虫以外の食材が豊富になったことが考えられています。
むしろ現代社会においては、「日常的に昆虫を食すこと=物好き・時代錯誤な風習・貧困の象徴」などと捉える人も少なくないのが現状です。
また、特定の宗教や宗派によっては、昆虫食そのものがタブーと見なされている場合もあります。
日本における昆虫食の歴史
日本でも他の国と同様に、縄文時代には既に昆虫食を生活に取り入れていたと考えられています。
中でも「イナゴ」はソウルフード的に親しまれており、特に群馬県や長野県といった海のない山間部では、たんぱく質が豊富なイナゴは貴重な栄養源として頻繁に食されていました。
現在でもこれらの地域では、古くから伝わる郷土料理としてイナゴの佃煮などが親しまれています。
しかし上記以外の地域においては、日本人にとって昆虫食にはあまり馴染みがないだけでなく、「気持ち悪い」「美味しいわけがない」といったように、あまり良いイメージを持たれていないのが実情です。
それでも近年では都内に昆虫食専門レストランがオープンしたり、昆虫食への理解を深めるためのワークショップが開催されたりと、少しずつ昆虫食を国内に普及する動きが拡がっています。
昆虫に含まれる栄養とは
前述したように、イナゴをはじめとする昆虫には豊富なたんぱく質が含まれています。
ただ豊富なだけでなく、昆虫の血液に含まれるタンパク質を構成するアミノ酸は、牛や豚などの哺乳動物に含まれているたんぱく質のアミノ酸によく似ていることが分かっています。
その他にも、昆虫の血糖はトレハロースで構成されており栄養価が高いこと、昆虫の脂肪は現代人が日常的に摂取する油に近いこと、昆虫にはビタミン・ミネラルが豊富に含まれていることなどが判明しています。
「栄養価が高いのは分かったけど、昆虫って雑菌とかは大丈夫なの?」と心配な方もいるかもしれませんが、基本的には昆虫も肉や魚と同じように、加熱すれば雑菌なども消滅させることができます。
そのため昆虫を食品として摂取することに関しては、何ら問題はないと言えるでしょう。
昆虫食が環境問題・食糧危機を救うと考えられている理由
2021年現在、世界人口は約77億人にものぼっており、さらに2050年には95億人以上にまで増加することが予想されています。
この急速な人口増加の背景には、長年発展途上にあったアフリカ諸国やアジアの目覚ましい経済発展があると考えられています。
しかし、その一方で急激な経済成長に食糧生産が追い付けなくなり、今や世界各地では深刻な食糧危機が起こりつつあります。
また、当コラムシリーズでも以前に取り上げていますが、地球温暖化を進行させている重大な要素の一つとして近年特に問題視されているのが、牛や豚などといった家畜の飼育です。
中でも牛はオナラやゲップの排出時や反芻行為(一度胃に入れた食物を吐き出してまた咀嚼する消化行為)の際に大量のメタンガスを発生させることや、飼育のためには莫大な量の餌が必要となることなどが問題視されています。
さらに出荷時に排出される排気ガスなども、環境破壊を深刻化させる一因だと考えられています。
国際連合食糧農業機関(FAO)は、地球上における温室効果ガス排出量の18%は畜産によるものであり、途上国の発展に伴い今後もその値はさらに増加していくと推測しています。
これらの世界的な危機を救うために白羽の矢が立てられたのが、まさに今回のテーマである昆虫食です。
栄養価が高い上に個体数が多い、かつ収穫に日数がかからない昆虫は、環境負荷を最低限に抑えながら食糧危機も救うとして、冒頭でも触れたように近年では世界中から大きな期待が寄せられています。
今後昆虫食が普及していくための課題
「昆虫は栄養が豊富で環境負荷が少ないことは分かったけど、それでも虫を食べるのはどうしても抵抗が…」という人も多いのではないでしょうか。
前述した一部地域を除き、やはり日本で過ごしていると昆虫食に触れる機会は中々ないため、すぐに受け入れられないのは致し方ないと言えるでしょう。
また世界的に見ても、「昆虫食はゲテモノ」「罰ゲームで食べるもの」という印象が根付いている地域はまだまだ多くあります。
ここでは、そのようなマイナスイメージを払拭し、今後昆虫食が普及していくためにクリアすべき課題について見ていきましょう。
見た目への抵抗
昆虫には姿形が苦手という人、そもそも見ることすら不快という人も多いため、ここをクリアしないことには昆虫食の普及は中々難しいと言えます。
しかし、近年では昆虫をそのまま食すのではなく、粉末状にしてクッキーなどのお菓子に混ぜて提供する企業も増えています。
今後このような商品がさらに増え、昆虫が苦手な人でも手軽に昆虫食を試せるようになることを期待したいですね。
味への不信
食事をする上では、やはり「美味しさ」というのが重要なポイントになりますよね。
日本では特に「昆虫は食べ物ではない」というイメージが強いあまり、味に対してもあまり期待されていないのが実情です。
しかし、昆虫食の専門家や愛好家の間では、「オオスズメバチは白子のよう」「セミはナッツ風味」などと言われており、基本的にほとんどの昆虫は美味しく食べられるそうです。
このように、昆虫ごとの味のイメージが今後さらに広まれば、昆虫食に挑戦してみたいと思う人も増えてくるかもしれません。
まとめ
今回は、年々注目度が高まっている昆虫食について詳しく紹介していきました。
新型コロナウイルスの影響により、現在国内におけるワークショップや試食会が開催される機会は少なくなっていますが、近年では通販や自販機で昆虫食を購入することもできるため、気になった方は是非一度試してみてはいかがでしょうか?