「天然資源の宝庫」グリーンランドの経済事情や現在抱える環境問題

環境問題

北極海と北大西洋の間に位置し、日本の約6倍の面積を有する世界最大の島、グリーンランド。
デンマークの領土でありながら独自の自治政府が置かれているこの島では、近年地球温暖化による氷河融解がいまだかつてないスピードで進む一方で、溶けた氷河の下から様々な天然資源が採掘されることから、「地球最後の天然資源のフロンティア(開拓地)」として注目を集めています。
地球温暖化の進行によって予期せぬ利益を享受することになったグリーンランドですが、この流れが世界に及ぼす影響には、一体どんなものがあるのでしょうか。
それを知るためにも、今回はグリーンランドの歴史、現在島全体で進んでいる資源開発、それらに対する各国の反応などについて見ていきましょう。

グリーンランドの歴史

まず、人類が初めてグリーンランドに足を踏み入れたのは、約4000年以上も前のことだと言われています。
当初はシベリアから移住してきたエスキモーのみでしたが、その後アメリカ先住民のインディアンなどの民族も次々と入植を始めていったと考えられています。
そして982年、当時のノルウェーおよびアイスランドの首相兼探検家だった「赤毛のエイ―リク」ことエイリーク・ソルヴァルズソンがヨーロッパ人としては初めてグリーンランドに入植し、その際に「グリーンランド」と命名したとされています。

アイスランドのヴァイキング(イメージ)

グリーンランドは長らくアイスランドのヴァイキングによって支配されていましたが、ヴァイキングは14世紀頃には衰退し始め、15世紀には全滅してしまいました。
それからしばらくの間は「カラーリット」と呼ばれる先住民だけが生活し、西洋史からは姿を消していたグリーンランドですが、16世紀半ばにデンマークに再発見され、18世紀に島全体が同国の植民地となったことで、その後200年以上グリーンランドはデンマークの植民地支配下に置かれることになります。

グリーンランドに暮らす島民たちは長年独立を切望し、1979年には自治政府が発足したものの、今なお外交や安全保障などに関する重要な権限はデンマークにあります。
グリーンランドがデンマークから完全に独立するためには、「デンマークの補助金に頼らずとも経済的な自立を果たせること」が最大のポイントとなっています。

グリーンランドで進む氷河融解がもたらした「恩恵」

国土のほとんどが氷と雪で覆われており、島の至る所に美しい自然が残っているグリーンランドですが、年々深刻化する地球温暖化の影響により、今やグリーンランドの氷河融解は完新世(人類が文明を発展させ現在に至るまでの約1万2000年間)が始まって以来、かつてないスピードで進んでいると言われています。
今後このままのペースで氷河融解が進めば、グリーンランドの豊かな自然が失われるだけでなく、島周辺に生息する野生動物の生態系にも影響を及ぼすのではないかと危惧されています。

しかし冒頭でも述べたように、温暖化の影響を受け氷河が後退したことによって、ここ数年でグリーンランドでは急速に天然資源(主に鉱物)の開発が進められるようになっています。
氷が薄くなった地下から掘り出される資源には、水晶、金属、亜鉛など様々なものがあり、今や鉱物資源の開発はグリーンランドにおける主要産業となっています。
現在はさらなる経済発展を目指し、レアメタルやレアアースといった希少価値の高い鉱物を採掘するプロジェクトを行う資源開発会社も増えています。

鉱石(イメージ)

温暖化によって急成長を遂げているのは、資源開発分野だけではありません。
海が暖かくなることによって起こる海面上昇の影響で魚が捕りやすくなり、年々グリーンランドにおける漁獲量は確実に上がっています。
実際、2013年から2017年までの4年間で、グリーンランドのタラ漁獲高は2倍以上にもなっていることが分かっています。
グリーンランドに古くから伝わる、犬が引くそりに乗って海氷上を移動しながらアザラシなどを狩る「犬ぞり漁」は氷河融解によって衰退しつつありますが、水産業全体としては上り調子が続いていると言えるでしょう。

また、観光業や農業も成長が続いています。
世界遺産の氷山を有するイルサリットという街では、遊覧船の航路となるディスコ湾が冬でも凍らなくなったため、季節を問わず氷河観光に訪れる人々が増えたそうです。
なお新型コロナウイルスの影響により、2021年4月現在は条件付きでの観光のみ可能となっています。

資源開発が進むグリーンランドに対する各国の反応

アメリカ

グリーンランドの劇的な経済成長には世界各国から注目が集まっていますが、中でも強い興味を示しているのがアメリカと中国です。
アメリカでは2019年8月に、トランプ前大統領が「大きな経済戦略となる」としてグリーンランドの購入構想を示しましたが、この提案に対しデンマークのメッテ・フレデリクセン首相およびグリーンランドの島民は、「グリーンランドは売り物ではない」と不快感を示しています。

その反応にトランプ前大統領は憤慨し、一時は既に決まっていたデンマークへの訪問を取りやめるなど険悪な状態となっていました。
しかし2020年4月、アメリカは「教育分野やエネルギー分野の活性化を後押しする」という名目でデンマークに対し1210万ドル(日本円で約13億円)の支援を行う発表をし、デンマーク側もこれを受け入れたことが分かっています。

バイデン新政権となった今、バイデン大領領にもトランプ前大統領のようなグリーンランド購入意欲があるかはまだ定かではありません。
しかし地球温暖化懐疑派のトランプ前大統領に対し、バイデン大統領は環境問題の解決に意欲的なため、地球温暖化により資源開発が進むグリーンランドに対しどのような反応を見せるかという点については、今後も注目しておく必要があるでしょう。

中国

グリーンランドにおける資源開発の可能性に、どこよりも早く注目していたのは中国だったと言われています。
中国は、2009年にグリーンランドの自治権が拡大し、鉱業権がデンマークからグリーンランドに移った直後から、グリーンランドの鉱物調査を開始しています。
その後も数多の中国企業がグリーンランドの鉱物資源開発に次々と参入していき、現在では前述したレアメタルやレアアースの採掘プロジェクトにも中国企業が関与するまでになっています。

経済成長が示すグリーンランド独立の可能性

前述したように、グリーンランドに暮らす多くの島民はデンマークのからの独立を長年切望していましたが、経済的な自立が困難だったために中々実現には至りませんでした。
しかし、ここ数年における資源開発分野をはじめとした経済面の急成長によって、いまやグリーンランドの独立は、数年後には現実となることが予想されています。

実際、約10年前には自治政府予算の半分以上はデンマークからの補助金によって成り立っていましたが、着実に財源が増えてきた2019年頃には補助金が占める割合は半分以下にまで減っています。

とはいえ、独立までの道のりはまだまだ容易ではありません。
その理由の1つは、以前に推し進められていた石油資源開発の頓挫です。
一時は鉱物資源開発と同じような成長が期待されていた石油資源開発でしたが、石油の価格変動によって頓挫してしまったことにより、グリーンランドにおける経済的見通し力がまだまだ脆弱であることを浮き彫りにしました。
また、現在は上り調子である地下資源開発も波が大きいだけではなく、地球温暖化によって開発が進むというある種のいびつさを抱えているため、この先も永続的に主要財源として確立し続けられるかについては、まだまだ未知数であるというのが実情です。

まとめ

今回は、グリーンランドの経済成長の要となっている資源開発を中心に、グリーンランドの現状について見ていきました。
経済成長によって、グリーンランドの「デンマークから独立する」という悲願が実現に近づくのは喜ばしいことですが、それと引き換えにかけがえのない自然が失われていくこともまた事実です。
「どうすれば環境保全と経済成長の2つを両立させることができるのか」という点については、これからも私たち一人一人が考えていく必要があるでしょう。

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