暗くてジメジメした場所にひっそりと生息しているイメージのあるコケ(苔)。
しかし、実はその存在が地球温暖化の解決に大きく貢献していることはご存知でしょうか。
それだけではなく、コケは私たちが自然環境の状況を理解する上でも大変有用な生物となっています。
近年では専門家や研究家のみならず、多くの企業もコケの力に注目しており、様々な場所でコケの生育が取り入れられ始めています。
今回は、コケが持つ「地球温暖化を救う力」そして「コケが私たちに教えてくれること」とは一体どのようなものなのか、様々な角度から紐解いていきたいと思います。
コケが環境問題の解決に有用な理由
CO2の吸収力が高い
地球温暖化を進行させる最も大きな要因であるCO2ですが、CO2自体は元々ある程度自然界にも存在しており、それらのCO2は植物が光合成を行うための材料として吸収されていました。
しかし、人間社会の経済が発展するにつれてCO2の排出量も急激に増加し、そのスピードに植物の光合成が追い付けなくなった結果、地球規模の温暖化を招いてしまいました。
これに対し、「森林を増やしてCO2を吸収してもらおう」と考える人も少なくありませんが、寿命を終えた樹木などのいわゆる「植物遺体」からは吸収量を上回るCO2が排出される場合もあるため、「森林を増やせば地球温暖化は解決する!」と簡単には言い切れないのが現状です。
一方で、主にミズゴケなどのコケで構築されている湿原は、何千年という非常に長い歳月単位でCO2を吸収し、その内部に貯めこんでいます。
実際、ミズゴケの仲間が多数生息している湿原地帯には、なんと約6000ギガトンもの炭素が溜め込まれていることが分かっています。
これは、大気中に存在しているCO2の炭素量とほぼ同じ量です。
中でも北方域に位置する湿地帯の泥炭地のほとんどはミズゴケから作られており、炭素を固定するための重要な地帯となっています。
ミズゴケの炭素蓄積能力が異常なまでに高い理由としては、「分解の遅さ」が挙げられます。
通常、寿命を終えた植物は土壌の微生物によって速やかに分解され、そこに含まれていた炭素はCO2として大気に還っていきます。
ところが、水浸しかつ温度が低い湿地では酸素が得にくく、そのような環境では微生物も活性しにくくなります。
その上ミズゴケは保水力が極めて高いため、炭素は分解されないまま長期間とどまり、結果大地に蓄積されていくことになります。
そして、その過程で少しずつ変質したミズゴケの繊維は、やがてペースト状の泥炭になります。
この泥炭こそが、何千年分もの炭素を貯め込む役目を果たしているのです。
断熱効果がある
コケに覆われた土壌には適度な水分と程よい隙間が生まれ、それによって外気温を侵入させない「断熱効果」を生み出しています。
コケが生い茂る亜寒帯では、夏には気温が30℃にまで達することも珍しくありませんが、そんな時でもコケに覆われた土壌は凍るほどに冷たく、中には実際に永久凍土となっている場所もあります。
土壌が冷たい状態で維持され続ければ、そこに閉じ込められた膨大な量のCO2も抑え込み続けることができるため、断熱効果もまたCO2の削減に一役買っていると言えるでしょう。
環境評価指標にもコケが有用な理由
自然生物は都市の環境評価指標となる
自動車や工場から排出される有害物質による大気汚染、農業における化学肥料の使用で生じた窒素汚染、大々的な都市開発により生じるヒートアイランド現象など、人間活動がさかんな都市部では、日々多くの環境問題が発生しています。
これらの問題を早急に解決へ導くためには、まず都市環境の現状を正しく把握し、その上で適切な評価を下す必要があります。
従来の環境評価方法といえば、専用の計測機器を用いる方法が一般的ですが、実はその計測機器と同じように、あるいはそれ以上に的確に環境を評価できる存在があります。
それこそが、様々な「自然生物」です。
自然生物は周辺環境と深い関わりを持ちながら、それぞれの場所に適応して棲息しています。
そのため、その行動や分布状況を環境の変化と照らし合わせることで、各自然生物を指標として環境状態を評価することができるのです。
このように、環境変化に対する自然生物のあらゆる反応から導き出す環境評価を「生物指標」、指標として活用される自然生物を「指標生物」といいます。
生物を環境評価の指標にすることは、広範囲の地域をなるべく低コストで評価できるだけでなく、長期に渡って観察できるなどの利点があります。
コケは指標生物の中でもとりわけ優秀!
一口に自然生物と言っても様々な種類がありますが、その中でも特に指標生物として優れているのが、まさに今回のテーマでもあるコケです。
コケが指標生物として優れている理由はずばり、その「シンプルな形状」です。
コケの葉は非常に単純な構造となっており、その大部分は他の生物の一細胞の厚さしかありません。
そのため、葉細胞一つ一つが周囲の環境と接しやすくなっています。
また、コケの葉は非常に薄い構造となっており、光を通しやすい点も特徴です。
さらには、多くの植物が水や養分を運ぶための内部組織として持っている「維管束」がコケには無く、代わりに葉細胞が直接、雨や大気などから水や養分を吸収しています。
こうしたコケの極めてシンプルな構造や生態は、周辺環境の影響を大いに受けることが分かっています。
前述したように、都市部における環境問題は年々深刻化していますが、一口に「都市部の環境問題」と言っても、工場、農地、商業地、居住地などが混在する都市部の環境問題は単純ではありません。
さらに、その環境は広範囲でじわじわと変化する場合もあれば、ごく一部の範囲で急激に変化することもあるため、環境評価を下すのは容易ではありません。
観測機器を都市の至る所に設置するという方法で環境分析を行うこともできますが、そのためには多額の費用が必要となるため、現実的には難しいと言えます。
そんな中で注目を集めているのが、「コケを活用した環境評価」です。
環境の細かな変化にも敏感に反応するコケの変化を観察することで、「この地域は現在どのような環境問題を抱えているのか」「どのような危険が差し迫っているのか」などについて正確な評価を下すことができると考えられています。
そのため近年では、コケを活用して行う「低コストかつ汎用性の高い都市の環境評価方法」の研究が進められています。
コケを活用した温暖化対策
冒頭でも触れたように、近年では様々な分野からコケの力に注目が寄せられており、手軽な温暖化対策として導入されるケースが広がりつつあります。
様々な対策方法の中で現在最もポピュラーなものは、「コケマット」を活用した屋上緑化活動です。
コケマットとは、その名の通り育成シートを用いてコケを養生したマットのことです。
土壌がなくても育成できる点や、保湿性が高く水やりなどの手間が省ける手軽さから、「オフィスの屋上」や「自宅敷地内の庭」などに導入する企業や家庭が増えています。
また、ソーラーシェアリングでコケ栽培が行われるケースもあります。
ソーラーパネルの下は程よく日陰が生まれるため、コケを生育するにはまさにうってつけの環境だと言えるでしょう。
何より、再生エネルギーである太陽光を用いた発電とコケ栽培の両立は、まさに温暖化対策の最たる形と言えるのかもしれません。
まとめ
今回は、コケの知られざる様々な特性について紹介していきましたが、身近な存在であるコケにここまで多くの可能性が秘められていたことに驚いた人も多いのではないでしょうか?
環境負荷を減らすための対策として、今後さらにコケが幅広く有用されることに期待したいですね!
参考URL:コケのお話(webナショジオ)
参考URL:コケで都市の大気環境を評価する – “コケ”にはできないコケのちから(academist Journal)