ファッション産業は、かねてより製造にかかるエネルギー使用量やライフサイクルの短さなどから「環境負荷が非常に大きい産業」と指摘されており、今や国際的な課題となっています。
そんな中、近年では製造、販売、着用、廃棄といった全ての過程において環境に配慮した、「サステナブルファッション」への取り組みが急速に拡がっています。
今回は、サステナブルファッションが注目される理由から、オススメのサステナブルなアパレルブランドまでチェックしていきましょう。
ファッションと環境の現状
生産時の環境負荷
環境省が行った調査によると、国内で衣類の原料調達から製造段階までに排出されるCO2量は、年間約90,000キロトンにものぼることが分かっています。
さらに、水消費量は約83億m3、端材等排出量は45,000トンとなっており、加えて化学物質による水質汚染なども発生しています。
CO2排出量と水消費量を服一着あたりに換算すると、次のようになります。
・CO2排出量…約25.5kg(500mlペットボトル約255本分)
・水消費量…約2,300ℓ(バスタブ約11杯分)
※2019年時点における衣類の国内供給量約35.3着をもとに算出
このように、たった一着の服を作るだけでもこれだけ多くの資源が消費され、同時に大きな環境負荷が発生するのです。
動物の犠牲
人間は昔から、さまざまな動物の毛や皮をファーコートやレザーバッグづくりなどに利用していました。
しかし、それらの素材はすべて動物たちの犠牲の上に成り立っており、近年では「倫理的ではない」という声が多くなっています。
2020年には、ペルーの牧場でアルパカが乱暴に毛を狩られている様子を隠し撮りした映像が某動物愛護団体によって公開され、大きな波紋を呼びました。
この映像はあまりに過激だったため、公開したことに対する批判の声も多数寄せられましたが、その後イタリアの老舗ブランド「ヴァレンティノ」がアルパカウールを使用した衣類の生産を中止することを発表するなど、ファッション業界における動物の搾取に大きな影響を及ぼしました。
過酷な労働環境
大量生産の拡大以降は、低価格なファストファッションが市場の主流となりました。
そんなファストブランドの工場は、主にカンボジア、インドネシア、バングラディシュなどの途上国に点在しています。
しかし、工場の労働環境はとても良好とは言い難く、多くの労働者は長時間低賃金で働かされるという劣悪な環境下に置かれています。
2013年のラナプラザ崩壊事故以降、各アパレルブランドでは労働環境の改善や持続可能な生産方法の確立に向けた取り組みが行われていますが、それでもまだまだ十分とは言えないのが現状です。
(ラナプラザの崩壊事故については『「環境正義」と「環境レイシズム」とは?世界における実例と取り組み』でも取り上げています)
大量の衣類ロス
ファストファッションの流行による大量生産は、まだ着られる服もしくは新品同然の衣類の大量廃棄も招いています。
日本における衣服ロスの量は先進国のなかでも多く、年間約15億着の衣類が売れ残り、廃棄されているとも言われています。
サステナブルファッションを広げるための企業の取り組み
環境負荷の少ない原材料の調達
サステナブルファッションの原材料の調達においては、原材料が抱える環境負荷をなるべく下げることが求められます。
環境負荷を低減する原材料には、従来よりも環境に優しい方法で栽培された綿花や、もしくはリサイクルされた材料などが挙げられます。
また、動物の毛皮や体の一部などを一切使用しないことも重要です。
リサイクルを見越した製造やデザイン
製造過程においては、長年使用できるか、廃棄後にリサイクルできる素材か、劣悪な労働環境で製造されていないかなどが重視されます。
ラナプラザの事故以降は、特にサプライチェーンの透明性が叫ばれるようになっています。
また、売れ残りを減らすために大量生産および大量廃棄を見直し、少量生産もしくは受注生産スタイルに移行するアパレルブランドも増えています。
デザインにおいては、現在は素材が循環することを前提とした「サーキュラーデザイン」が注目されています。
その他、製造や開発の過程で動物実験を一切行わない「クルエルティフリー」と呼ばれる取り組みも注目されています。
適正価格での販売
サステナブルファッションにおいて販売過程は、最も重要な過程と言っても過言ではないパートです。
そんな販売過程において最も重要なことは、「極力セールを行わず、適正価格で販売すること」です。
消費者側にとってセールは嬉しいことですが、あまりにもセールが高頻度に行われてしまうと、製造側は次第にセール価格を前提とした生産方法を考えるようになり、そうなると結局人件費は削られ、環境配慮を無視した安価な原料の大量調達や大量生産に繋がってしまいます。
そのため、サステナブルファッションを確立するためには、むやみにセールを行わないことも1つの取り組みなのです。
サステナブルファッションを広げるための消費者の取り組み
衝動買いをしない
消費者のうち64%は、すでに所有している服の量を把握せずにまた服を購入してしまうことが分かっています。
無駄な消費を増やさないためにも日ごろからクローゼットの中を把握しておき、もしネットサーフィンやウィンドウショッピング中に見かけた服を衝動的に欲しくなっても、「本当に今必要かどうか」を一度冷静に考える癖をつけておくと良いでしょう。
「安さ」よりも「長く着られるか」を重視して服を買う
例えば3000円のコートを10年間毎年買い替えるのではなく、3万円のコートを10年間着続けた方が、支出は同じでも衣類ロスを大幅に減らすことができます。
買い物をする際はついつい安い方に目が行きがちですが、多少値が張ったとしても長く着られる方を選んだ方が、よりサステナブルな選択だと言えるでしょう。
素材や生産ルートをチェックしてみる
衣類を購入する際は商品タグやブランドサイトをチェックして、「環境負荷の少ない原材料を使っているか」「クリーンな労働環境で生産されているか」などについて調べてみてはいかがでしょうか。
このように私たち一人一人が関心を持つことで、ファッション業界全体にサステナブルな動きを促すことができるかもしれません。
サステナブルなアパレルブランド4選
Stella McCartney(ステラマッカートニー)
ステラマッカートニーは、「サステナブルでラグジュアリーなファッション」を提案するイギリス発のブランドです。 創業者のステラマッカートニー自身がヴィーガンであることから、2001年の設立当初よりレザー、ファー、スキン(皮革)、フェザー(羽毛)、動物由来の接着剤(ニカワ)を一切使用しない商品づくりを徹底しています。
Patagonia(パタゴニア)
アウトドアウェアが人気のパタゴニアも、持続可能性に考慮したブランドです。
オーガニックコットンを使用し、サプライチェーンにおけるフェアトレードを徹底するなど、環境と社会の両方に貢献した製造を行っています。
また、元々質の良い商品を取り揃えているため長く着用できますが、さらに長く着続けるための修繕プログラムも行っています。
ECOALF(エコアルフ)
エコアルフは、再生素材はもちろん、他にも環境負荷の少ない天然素材にこだわっているブランドです。
「地球を守るために服を売る」をモットーに掲げ、ペットボトル、漁網、タイヤなど、主に海底に眠っている素材を使った商品づくりを行っています。
RYE TENDER(ライテンダー)
ライテンダーは、日本生まれのアパレルブランドです。
大量生産の過程で余ってしまった布や糸などをリサイクルした洋服を製造し、販売しています。 また、適正な循環を生み出すために、素材選びから販売までの全ての工程を確認するという徹底した仕組みを取り入れています。
まとめ
衣類の大量生産には大きな環境負荷がかかること、また環境負荷の軽減以外にも労働環境の改善や動物保護など、さまざまな課題をクリアしなければならないことが分かりました。
そんな中で私たちにできることは、今クローゼットにある服を大切に着続け、着なくなった服は古着屋に売ったりリサイクルに回したりするなど、一着一着を無駄なく有効活用することだと言えるでしょう。