「外来種問題」から学ぶ、自然環境と生き物どちらも守る方法とは

環境問題

地球温暖化や海洋汚染などと並び、長年深刻な環境問題として議論が続けられている外来種問題。
人に危害を加えたり、在来の生態系を脅かしたりするおそれのある外来種の存在は、しばしば「悪」として見られがちですが、大半の外来種は自分の意思で来ているわけではなく、私たち人間の手によって連れ込まれています。
つまり、外来種問題を食い止めるためには、私たち人間がこの問題を真摯に受け止め、今よりもっと理解を深める必要があるのです。

今回は、「外来種とは何か」「なぜ外来種問題は生まれたのか」「解決のために私たちが取り組むべきことは何か」などについて考えていきましょう。

外来種とは

特定外来生物に指定されている「「タイワンリス」

外来種とは、「元々その地域に存在していないにもかかわらず、人間の手によって他の国や地域から持ち込まれた生物」のことです。
この生物の中には動物だけでなく、昆虫や植物なども含まれます。

環境省が定めた「外来生物法」では、明治時代以降に他国から持ち込まれた種を主に外来種として定めています。
しかし明治時代以前にも、日本には他国からさまざまな生物が持ち込まれています。
にもかかわらず、なぜ明治時代以降のみ対応となっているのでしょうか?
これは、人間の文明が明治以降飛躍的に進化したことが関係しています。

昔は、人間をはじめとした生物はすべて歩行で移動していたため、たとえ外来種が連れ込まれたとしても、生態系に影響を及ぼすほどの個体数ではありませんでした。
また、その当時は持ち込まれる土地側の自然も今よりずっと豊かだったため、外来種が元々ある生態系に立ち入る余地はありませんでした。

しかし、明治時代以降人々が化石燃料を船や自動車の動力源に使うようになってからは、移動や運搬にかかる速度が劇的に短縮され、これまで以上に広範囲な移動が可能になりました。
これによって多くの外来種が次々と日本に移入しましたが、在来種はその急激な変化に適応できず、また自然破壊も進んだことによって生態系のバランスが崩れ、外来種の多くはそのまま定着してしまったのです。

外来種が及ぼす悪影響

特定外来生物に指定されている「マングース」

外来種が及ぼす悪影響には、主に以下の3つがあります。

➀生態系への影響
生態系は、長い時間をかけて構築した「食う・食われる」の絶妙なバランスの上に成り立っています。
しかしそこに外来種が侵入した場合、彼らもまた生き残るために在来種を捕食し、生活空間の確保を行おうとします。
それらの行為は在来種の生息地やエサを奪うことになるため、結果的に在来種の生態系は崩れてしまうのです。
また、在来種と交雑することで雑種を生み出してしまい、在来種の独自遺伝子を減少させてしまうおそれもあります。

②人の生命・身体への影響
タイワンハブやクロゴケグモのように毒を持っている外来種の場合、噛まれたり刺されたりすると、ケガするだけでなく命の危険にさらされる可能性があります。
平成26年(2014年)には都内で初めて毒性の強い外来種である「セアカゴケグモ」が発見され、これ以降東京都はより一層有害な外来種に対する対策を強化しました。

③農林水産業への影響
アライグマやマングースのように、外来種の中には田畑や漁場に侵入し、農林水産物を食い荒らすといった危害を加える生物もあります。
このような被害を受けた農家や漁業場は、収穫量の減少などに悩まされてしまいます。

外来種問題の要因は「人間の都合」

80年代のブームによって持ち込まれたことで繁殖した「アライグマ」

冒頭でも述べたように、外来種問題の要因が人間にあることは疑いようがありません。
例えばアライグマは、1970年代に放映された某アニメの影響によって人気が爆発し、ペット用としてアメリカから大量に連れ込まれました。
しかし、アライグマは元来気性が荒く、成長するとともに狂暴性が増すことから、当時多くの人が飼い切れずに遺棄し、また動物園からも脱走した結果、多くの個体が野生化しました。

また、現在は有害な外来種とされているウシガエルやアメリカザリガニですが、元々は戦前食用や養殖用の餌として日本に持ち込まれたもので、戦中・戦後には貴重な食糧となっていました。
しかしその後、経済が回復し人々の食生活が豊かになると養殖所は閉鎖されたものの、残っていた個体は放置され、その結果在来の生態系を崩すおそれのある危険な存在となってしまいました。

「ただの悪者」と言い切れない外来種事情

長年在来種だと思われてきた「クサガメ」

ここまでの内容を見た上で、「外来種=すべて有害」というイメージを持った方もいるかもしれません。
たしかに、前述したセアカゴケグモやマングースなどのように、人、農林水産物、生態系などに危害を加える外来種は多く、それらの生物は外来生物法における「特定外来生物」に指定されています。
しかし、だからと言ってすべての外来種が有害とは一概に言い切れないのが実状です。

たとえば、クローバー(シロツメクサ)はハイキングコースや住宅街、空き地、公園など、さまざまな場所で見かける馴染み深い存在です。
「四葉のクローバーを見つければ幸福が訪れる」という言い伝えがあるように、ポジティブなイメージの強いクローバーですが、実は牧草としてヨーロッパから持ち込まれた外来種なのです。
しかし、だからと言ってこの馴染み深い植物に対し、「外来種だから駆除しなくちゃ!」と思う人はあまりいないのではないでしょうか。

また、長年日本の在来種だと思われておりペットとしても人気なクサガメも、近年では江戸時代後期に中国もしくは朝鮮半島から移入した外来種である可能性が高いと言われています。
明治以前に移入されているため前述の外来生物法には該当しませんが、日本固有種であるニホンイシガメの生態系に少なからず影響を及ぼしていることが分かっています。
そのため現在クサガメに関しては、「ニホンイシガメを保全するためにクサガメは防除すべき」という意見と、「現時点でそこまでする必要はない」という意見とで議論が続いています。

しかし、クサガメが外来種だと判明しなければこのような議論も生まれなかったと考えると、どこまで行っても外来種問題は人間の都合によって左右されるのだと思わされますね。

外来種問題解決に向けて私たちにできること

道端や空き地に咲く「ナガミヒナゲシ」も外来植物の一つ

「外来種被害予防三原則」を徹底する

環境省は「外来種被害予防三原則」を掲げ、これに沿った行動を市民、事業者、行政に呼びかけています。
三原則の内容は、以下の通りです。

➀入れない
人や生態系に有害なおそれのある特定外来生物の持ち込みは、既に法律によって規制されていますが、たとえ特定外来生物に指定されていない外来種であってもむやみに入れないことが大切です。

②捨てない
飼育しているペットを「面倒見切れない」などの身勝手な理由で捨てる行為は、外来種問題だけでなく動物虐待問題も招きます。
生き物を飼うと決めたのであれば、絶対に途中で投げ出したりせず、最後まで責任をもって世話をしましょう。
これは、植物の栽培に対しても同じことが言えます。

③拡げない
既に他地域から入り込み、繁殖してしまった外来種は、今生息している地域以外に繁殖を拡げないことが最優先事項です。
これは外来種でなくとも当然のことですが、もし旅先で珍しい野生生物を見つけたとしても、決してむやみに自宅に連れて帰ったりしないようにしましょう。

地域の自然環境改善に関心を持つ

外来種問題を解決するためには、自分が暮らしている地域に関心を持ち、「この場所にとって理想的な自然環境や生態系とは何か」について考えることも大切です。
このように地域住民一人一人が自分たちの暮らす場所の環境改善について真剣に向き合うことができれば、結果的に地域の活性化が進み、理想的な自然環境を実現することにつながります。

そもそも地方における外来種の侵入、過疎化、高齢化などは、それぞれ異なる問題のようで、実は大きな一つの問題である場合がほとんどです。
地域に暮らす人が少なくなり、元々人の手によって管理されていた土地が放置されるようになることで、外来生物が侵入しやすい環境になり、その結果地域の生物多様性が失われることもあるのです。

自然環境を守るためには、地域住民の自発的努力(ローカリズム)によってまずは地域の土地をしっかり管理し、農業や林業などといった第一次産業の基盤を確立することが大切です。
そうして地域が活性化すれば、人にとっても野生生物や植物にとっても暮らしやすい環境となるはずです。

まとめ

外来種問題に限らず、多くの環境問題は私たち人間の選択や行動が招いたものです。
それらを解決するためには、まずは私たち人間が環境問題を「他人事」ではなく「自分事」として受け止めることが大切だと言えるでしょう。

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