国連に加盟している193ヶ国が、2016年から2030年までの15年間で達成を目指すSDGs(持続可能な開発目標)。
2022年に突入し2030年まで残すところあと8年となった今、SDGsが掲げる17の目標をすべて達成できるかどうかの正念場に差し掛かったと言えるでしょう。
そんな中、先日大和証券が「2022年のSDGsで進展が期待できる10の注目トピック」を発表しました。
今回はこの発表を参考に、注目されると考えられている10のトピックについて細かく見ていきたいと思います。
参考URL:大和証券「2022年のSDGsで進展が期待できる10の注目トピック」(2022年1月8日)
脱炭素
昨年に引き続き、今年も脱炭素化に向けた動きは世界的に加速していくと見られています。
2021年10月31日から11月13日にかけてイギリス・グラスゴーで開催された「第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)」では、地球の気温上昇は人間の経済活動が主な原因であるという科学的認識のもと、「グラスゴー気候合意」が採択されました。
同合意では、世界平均気温の上昇を産業革命前と比較して1.5度以内に抑える努力を追求することが盛り込まれました。
今回最も注目されていた石炭火力発電の今後の利用については、合意文書案の「段階的廃止(phase-out)」の表現に対しインドと中国が反対したため、やや表現を弱めた「段階的に削減(phasedown)」といった形での合意となりました。
なお、化石燃料への補助金は「段階的に廃止(phase-out)」となりました。
この合意のもと、日本、アメリカ、ヨーロッパ等は「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量ネットゼロ)」の実現に向けたコミットメント(具体的な仕組み)を掲げています。
なお2022年のCOP27は、エジプトでの開催が予定されています。
参考URL:UNIC「COP26、気候に関する「妥協」協定とともに閉幕するも、国連事務総長は「不十分」と指摘」(2022年1月8日)
再生可能エネルギー
再生可能エネルギーもまた、脱炭素に並んで今年も大きく注目されるトピックになりそうです。
日本では2021年10月に「第6次エネルギー基本計画」が発表され、国内総発電量に占める再エネの比率を2030年度には36~38%まで引き上げる目標を掲げました。
再エネの中でも特に今後の規模拡大が注目されているのが、太陽光と風力です。
太陽光発電業界では、電力会社が固定価格で買い取るFIT法が順次終了し、2022年4月からは「FIP(フィード・イン・プレミアム)制度」が導入されます。
この制度の導入以降は、再エネ発電事業者が発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で売電をした場合に、基準価格(FIP価格)と市場価格の差額がプレミアム額(補助額)として交付されます。
FITでは市場取引は免除されているのに対し、FIPでは市場取引が基本となります。
今後は既存の事業者に加え、IoTやAI技術を有する企業等の新規参入も期待されています。
参考URL:資源エネルギー庁「再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート」(2022年1月8日)
スマートシティの社会実装化
スマートシティとは、2020年代の導入を目標に、デジタル技術を活用して都市インフラや運営業務等を最適化し、企業や市民の利便性・快適性の向上を目指す日本の都市計画です。
2021年1月、内閣府等は「スマートシティ・ガイドブック」を公開し、政府をあげてスマートシティの社会実装化に向けた取り組みを進めていくことを発表しています。
2022年は、デジタル技術の街への導入が一気に進み、市民生活や都市活動の質や効率性等がより一層向上することが期待されています。
参考URL:内閣府「スマートシティ・ガイドブック」(2022年1月8日)
生物多様性
生物多様性の保全、すなわち地球上の森や海、そして野生生物を守ることは、世界中の人々の持続可能な経済や生活の創生、将来のパンデミックの予防、気候変動対策にも繋がります。
2020年、2021年と2年連続で新型コロナウイルスによるパンデミックに見舞われた後の2022年は、今まで以上に生物多様性を守る取り組みが重要視されると考えられています。
2021年10月には国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の第一部が開催され、4月には第二部が開催される予定となっています。
第二部では、「2030年までに各国が陸域と海域の30%を生物保護区にする」という新たな世界目標の合意が期待されています。
参考URL:WWF「国連生物多様性条約(CBD)の第15回締約国会議(COP15)が開始」(2022年1月8日)
女性活動・男性育休の推進
日本は世界の中でも多様性の遅れが指摘されており、世界経済フォーラムが発表した2021年のジェンダー・ギャップ(男女格差)指数順位では、156カ国中120位という先進国としては最低レベルの結果を出しています。
それでも女性が活躍する場や男性が育休を取得する機会は年々増えているものの、いまだ十分とは言えないのが現状です。
この現状を変える足掛かりとして、日本では2022年4月より「改正育児・介護休業法」が順次施行される予定です。
具体的な施行内容は、以下の通りです。
➀育児の周知・意向確認義務(2022年4月より施行予定)
②出生時育休制度(2022年10月頃より施行予定)
③大企業の育休取得率義務化(2023年4月より施行予定)
また政府は女性活動推進の一策として、2020年には12.6%だった男性の育休取得率を、2025年には30%まで引き上げる目標を掲げています。
参考URL:世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2021」(2022年1月8日)
参考URL:厚生労働省「育児・介護休業法について」(2022年1月8日)
DX実現に向けた動き
ここで言うDXとは、「デジタルトランスフォーメーション」の略称です。
デジタルトランスフォーメーションとは、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。
このDXの実現に向け、2020年に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では「2030年までに10億人のリスキル(学び直し)革命」が提唱され、日本ではAI戦略や、全国の児童・生徒1人1人にコンピューターと高速ネットワークを整備する「GIGAスクール構想」等の取り組みが進められてきました。
2022年はデジタル時代を勝ち抜くための人材開発戦略として、DXの実現に向けたリスキリングがより一層進むと考えられています。
参考URL:総務省「(2)デジタルトランスフォーメーション」(2022年1月8日)
高年齢者の副業・兼業
高齢化が進む日本では、2022年以降も高年齢者の雇用が拡大する見込みとなっています。
厚生労働省によると、高年齢者の主な就労理由は「経済上の理由」が大半を占めていますが、近年では「社会参加」や「生きがいづくり」という理由も増えているそうです。
この流れを受け、2021年4月に施行開始した「高年齢者雇用安定法」では、65~70歳の雇用が努力義務化となりました。
さらに2022年1月の雇用法改正では、複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者に対して雇用保険の適用範囲が拡大されることが決まりました。
これにより60~65歳で定年を高年齢者が副業・兼業する上でのセーフティーネットが生まれ、就労促進に繋がると考えられています。
しかし一方で、経済上の理由で就労を余儀なくされている高年齢者を救済するための取り組みの必要性も指摘されています。
参考URL:厚生労働省「高年齢者雇用安定法 改正の概要」(2022年1月8日)
参考URL:厚生労働省「高齢者の就業理由」(2022年1月8日)
ソーシャルボンド(SDGs債)
ソーシャルボンドとは、社会的課題の解決に貢献するプロジェクトに必要な資金を調達するために発行される債券のことです。
対象となるプロジェクトには、福祉、教育、地方創生、ジェンダー平等、インフラ整備等が挙げられます。
ソーシャルボンドは「SDGs債」という大枠に含まれており、SDGs債にはこの他にグリーンボンド、サスティナビリティボンド、サスティナビリティ・リンク・ボンド、トランジションボンドなどが含まれています。
2020年の世界のSDGs債発行額は約63兆円となっており、そのうちソーシャルボンドは世界で約17.5兆円を占めています。
日本では、2021年10月に金融庁が「ソーシャルボンドガイドライン」を発表し、これを足掛かりに国内におけるSDGs債市場の拡大を目指しています。
参考URL:金融庁「ソーシャルボンドガイドライン」(2022年1月8日)
株式市場の再編
東京証券取引所は2022年4月より、現在4つある市場を「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3つに再編することを発表しました。
最上位であるプライム市場は上場基準を厳格化し、上場企業にはTCFDに基づいた情報開示を求めることが定められます。
TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略称で、日本語では「気候関連財務情報開示タスクフォース」となります。
つまり上場企業は今後、「企業としてどう気候変動に取り組むのか」を開示する必要があるということです。
これは、地球温暖化はいまや企業経営においても深刻な問題であり、今後はより一層SDGsへの取り組みが企業価値にもつながる時代になることを意味しています。
参考URL:日本取引所グループ「市場区分見直しの概要」(2022年1月8日)
コーポレートガバナンス・コードの改訂
「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」とは、企業が株主、顧客、従業員、地域社会等と築くべき関係性や、企業を監視する取締役会等のあるべき姿について記述した文章のことです。
2015年に金融庁と東京証券取引所が共同で原案をまとめ、2021年6月に一部改訂されました。
改訂の主なポイントは、以下の通りです。
・取締役会の機能発揮…取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)の公表等
・企業の中核人材における多様性の確保…女性、外国人、中途採用者の管理職への登用等
・サステナビリティを巡る課題への取組み…サステナビリティに対する取り組みを開示する等
上記のポイントが追加されたコーポレートガバナンス・コードは、2022年4月より施行される予定です。
参考URL:日本の人事部「コーポレート・ガバナンスコードとは」(2022年1月8日)
まとめ
2022年は、あらゆる分野において2030年のSDGs達成に向けた取り組みが活発化する1年になりそうですね。
今年こそ新型コロナウイルスが収束し、気候変動も解決へ向かい、世界中の人々や生物が幸せに暮らせる世の中になることを願うばかりです。