水温上昇、赤潮、クロダイ…地球温暖化で「ノリ養殖」がピンチ!?

環境問題

おにぎり、太巻き、軍艦巻きなど、日本の定番料理に欠かすことのできない海苔(ノリ)。
美味しいのはもちろん、ミネラルや食物繊維といった栄養素が豊富に含まれていることから、健康食や美容食としても親しまれています。

そんなノリが今、生産量激減の危機に瀕していることはご存知でしょうか?
実際、全国のノリ生産量は減少の一途を辿っており、かつては100億枚を超えていた年もあったのに対し、2020年度(2020年11月~2021年5月)の生産量は過去最低水準の65億枚を下回る結果となっています。

原因としてノリ養殖業関係者の方々が口を揃えて言うのが、「地球温暖化の影響」です。
地球温暖化は海水温や海の栄養状態にさまざまなダメージを与えるだけでなく、ノリの養殖にとって「招かれざる客」である「クロダイ」を寄せ付ける原因にもなっているのではないかと考えられています。

今回は、「地球温暖化がノリ養殖に与える影響とは何か」「地球温暖化がなぜクロダイを呼ぶのか」などについて解説します。

全国のノリ生産の現状

いわゆるノリの名産地と言われるエリアは、大きく分けて有明海、瀬戸内海、伊勢・三河湾、仙台湾、東京湾の5つがあります。
この中でも全国屈指のノリ名産地である有明海では国産ノリの40%が生産されており、有明海に面している佐賀県は20年近くノリの生産量全国一位に君臨しています。
また、瀬戸内海に面する兵庫県、仙台湾を擁する宮城県、東京湾を擁する千葉県等もノリの名産地として有名です。

長年、ノリの生産量は全国的に安定していましたが、近年では生産量の減少および不安定化に悩む生産地が増えています。
たとえば兵庫県は、2020年度(2020年12月上旬~2021年5月上旬)の生産量が2012年度以来の低水準である約11億5800万枚だったことを報告しています。
また、200年以上の歴史を持つ「江戸前ノリ」を生産している千葉県も、ピーク時は5億枚以上生産していたのに対し、近年では1~3億枚前後にとどまっています。

2020年以降のノリ生産量の減少には、新型コロナウイルスも少なからず影響を与えていますが、地球温暖化はそれ以上に長期的な影響を与えていると考えられています。
地球温暖化がノリ養殖に与える具体的な影響については、次から解説していきます。

地球温暖化がノリ養殖に与える影響

水温上昇

一般的なノリ漁は、まず1~3月頃にカキ殻に糸状体を植え付け、殻胞子(タネ)が出てきたらノリ網に張り、9~10月頃になり水温が下がったらノリ網を漁場に張って3月頃まで養殖し、一枚ずつ乾燥させたら収穫する流れとなっています。

カキ殻がタネを放出するのに最適な温度は15~23℃だと言われており、この時の水温でノリの品質が左右されると言っても過言ではありません。
水温が低すぎてもノリの生長には良くないそうですが、「寒海苔」という言葉がある通り、ある程度寒い環境で育ったノリの方が美味しいとされています。

ところが、地球温暖化による海水温上昇の影響で、近年ではノリ養殖を行える期間が短くなっている傾向が指摘されています。
水産研究・教育機構が公表しているデータによると、従来であれば水温が23℃以下になる10月初旬から水温が23℃を超える春先まで養殖が行えていました。
しかし、近年では10月中旬まで水温が23℃以下にならないため、養殖期間が短くなり、結果的に生産量の減少を引き起こしていると考えられています。

赤潮

水温の上昇は、赤潮の頻発を招く原因にもなります。
基本的に、赤潮は水中の植物プランクトンが増殖しやすい春~夏の時期に発生しますが、近年では海水温の上昇によって、秋頃に発生するケースも増えているそうです。

ノリの養殖中に赤潮が発生すると、ノリの生長に必要な栄養塩が不足するため、ノリの色が薄くなる「色落ち」が起きやすくなるとされています。
白っぽく色落ちしたノリは見た目、味ともに商品としての価値が大きく損なわれるため、ほとんどの場合は売り物にならず、これもまた生産量減少の原因となっています。

赤潮問題は、現在日本のノリ生産地のほとんどで発生していることが分かっています。
中でも有明海周辺のノリ養殖場は、赤潮の影響をとりわけ大きく受けているそうです。

クロダイによる食害

東京湾沿岸では、近年「クロダイ」によるノリ養殖への被害も報告されています。
2019年に千葉県水産総合研究センターが東京湾の水中に設置したカメラには、ノリ網の下に集まった何匹ものクロダイが、大きな口を開けて養殖中のノリをパクパクと食べ尽くす映像が残されています。

ここ数年でクロダイが活発化した背景にも、やはり地球温暖化による水温上昇があると指摘されています。
また、クロダイは他のタイ類に比べて幅広い食物を好むことで知られています。
そのため、柔らかくて食べやすいノリは彼らにとって恰好のエサとなってしまっているのです。
赤潮問題同様、クロダイによる食害は東京湾沿岸だけでなく、有明海、瀬戸内海沿岸にも及んでいます。
中には食害の影響で生産量が激減し、廃業に追い込まれてしまったケースも報告されています。

クロダイによる食害を防ぐべく、千葉県富津市の新富津漁協では2020年11月末より、クロダイ対策用に改良したノリ養殖場を囲む新しいネットを段階的に導入しています。
新しいネットは、クロダイが養殖場のノリを下から突き上げるように食べるのを防ぐべく、水深約6メートルの海底にまで届く長さで作られています。
この長いネットで養殖場の周りを隙間なく覆うことで、クロダイによる食害を防ぐ仕組みになっています。

前出した千葉県水産総合研究センターによると、新しいネットで覆うことによって無事クロダイの侵入を防ぎ、それによってノリも順調に生長したことが確認されています。

現在進んでいる「高水温でも養殖可能なノリを開発するプロジェクト」とは

日本の伝統食であるノリを守ることは、国にとっても重要課題となっています。
2013~2017年には農林水産技術会議の委託プロジェクト研究として、「水温24℃以上で2週間以上生育可能なノリの開発」を目指したさまざまな研究が実施されました。
この研究では、高温状況で生き残ったノリの選抜や、ノリに共生していた細菌を利用した新品種の生育などが行われました。

一方、三重県の水産研究所は、2010年の時点で高水温に適用できる品種「みえのあかり」を開発することに成功しています。
「みえのあかり」は、漁場から集めた1000枚程度のノリ葉体を25℃以上の高水温状況で培養し、その中で生き残った細胞を選抜する方法で作り出されたそうです。
その後、さまざまな試験を繰り返し、最終的に選抜された品種に高水温にも耐えうる特性が確認されたことから、2010年に「みえのあかり」は三重県の水産植物として初めて国に品種登録されました。

開発当初、高水温に強く順調に生長する「みえのあかり」は三重県内のノリ生産者からの評価も高かったそうですが、数年経つと漁場それぞれの養殖環境の違いによって、「みえのあかり」の使用率にバラつきが生じたそうです。
こうした現状をふまえ、現在三重県は漁場ごとの特性に適した品種の開発にも取り組んでいます。

まとめ

今回は、地球温暖化がノリ養殖に与える影響、そしてノリを守るために行われているさまざまな取り組みについて紹介しました。
高水温に負けないノリの開発研究が行われていることは素晴らしいことですが、やはり根本的には、地球温暖化をこれ以上加速させないことが重要だと言えます。
日本のノリを守るために、私たちも電気の無駄遣いはやめる、太陽光発電システムや蓄電池を導入するなど、できる範囲で取り組んでいけたら良いですね。

参考URL:漁業者悩ませる赤潮 ノリの色落ちをもたらす天敵を調査【佐賀県】
参考URL:地球温暖化で日本のノリ養殖がピンチ!謎の多い生態にメス、高水温耐性のある種を開発
参考URL:海水温24℃に耐える黒ノリ品種「みえのあかり」
参考URL:「農林水産分野における気候変動対応のための研究開発」最終年度報告書
参考URL:20年度の兵庫県産ノリ不作 プランクトン増殖し色落ち
参考URL:不漁続く江戸前海苔 クロダイからネットで守れ

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