ドラマ、アイドル、食べ物、美容、ファッションなど、いまや幅広いカルチャーの発信地として、日本をはじめ世界中の若者から支持を集めている韓国。
特に日本とは物理的に距離が近く、飛行機で約1時間半~2時間半程度しかかからないため、コロナ前はよく旅行に行っていたという人も多いのではないでしょうか。
現代はSNSなどを通して、ほとんど毎日のように韓国発のトレンドに触れることできますが、一方でエネルギー事情について日本で知る機会はあまり多くありません。
そこで今回は、意外と知らない韓国のエネルギー事情について解説していきます。
韓国のエネルギー構成
韓国におけるエネルギー構成のうち、約70%はガスや石炭を利用した火力、約30%は原子力が占めており、再生可能エネルギーは1~2%程度に留まっています。
原子力利用の割合に関しては、国内発電の約80%を原子力で賄っているフランスに次いで2位となっています。
韓国には石油、水力、天然ガス、無煙炭などのエネルギー資源がありますが、いずれも保有量は極めて少なく、エネルギー供給量の約80%を輸入に依存しています。
このうち石炭・石油・天然ガスに関しては、ほぼ100%が輸入物となっています。
国内のエネルギー資源に恵まれておらず海外からの輸入に頼らざるを得ない点は、同じ東アジアに位置する日本に類似しています。
一方で日本の原子力利用比率は約2%となっているため、この点は大きな違いだと言えるでしょう。
韓国の電量消費傾向
日本では、約38km²の国土に約1億2000万人の人々が暮らしています。
一方、韓国では約10km²の国土に約5000万人の人々が暮らしているため、日本よりやや人口密度が高くなっています。
電力需要は日本の半分程度ですが、1人あたりの電気消費量は日本よりも約1.3倍高いことが分かっています。
さらに電力需要は年々高まっており、2000年~2012年までの間には約2倍に上がっています。
韓国では、この電力需要のほとんどを前述した輸入資源による火力発電で賄っているのが現状です。
ヨーロッパのとあるコンサルティング会社の調べによると、2000年~2017年までの韓国の電気消費量の増加率は約4%超と、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で2番目に高いことが分かっています。
この電力消費量全体のうち、約5割は産業用が占めています。
産業用需要が全体の約3分の1に留まっている日本と比べると、これはかなりの高水準だと言えます。
産業用需要が高い理由としては、韓国では石油化学、鉄鋼、半導体など、電気を多く使う産業がさかんなことや、韓国の政策として電気料金がかなり安く設定されていることが挙げられています。
特に夜間の電気料金は日中のピーク時よりも格段に安いため、一部企業では必要以上に無駄遣いする傾向があると指摘されています。 これに対し韓国国内では、「電気消費量の多い企業を対象に需要管理を徹底すべきである」といった声も挙がっています。
韓国の電気料金事情
韓国では、電気料金が世界的に見てもかなり低水準に設定されています。
韓国の電気料金が安い理由の一つに、発電単価が比較的低い原子力が多く用いられている点があります。
しかし、韓国以上に原発利用の割合が高いフランスの家庭用電気料金は韓国より高く設定されているため、これだけでは明確な理由とは言えません。
韓国電力は電気料金が安いもう一つの理由として、「国土の狭さによって実現した送配電設備の運営効率の高さ」を挙げています。
顧客が密集しているため送配電設備費用が低く、発電源から電気受け入れ先までの間に消滅する送配電損率も最低限に抑えられるとしています。
何より韓国の電気料金が安い理由は、「電気に課せられる税金と負担金の安さ」です。
2017年時点で、日本の家庭用電気料金に含まれていた税金と負担金は料金のうち約30%を占める約5.5円/kWhだったのに対し、韓国では料金の約10%程度の約15ウォン(約1.5円)/kWhに過ぎませんでした。
一方で、韓国の家庭用電気料金には「累進税」が課せられています。
簡単に説明すると、累進税とは「使えば使うだけ税率が上がる制度」です。
累進税は高ければ10倍以上に跳ね上がることもあり、電気をあまり使わない月の電気料金は数千円なのに対し、沢山使った月は数万円になるといった場合があります。
電気料金が基本的に安いのは喜ばしいことですが、真夏など思うようにエアコンが使えないとなると辛いものがありますね。
ちなみに前述した産業用電気料金には累進税は課せられておらず、これも反感を買う理由となっています。
そして2022年4月現在、国民に電気を安く供給し続けたことや、ウクライナ侵攻による燃料高騰などによって、韓国電力の損失はなんと16兆ウォン(約1兆6000億円)にも達していることが判明しています。
この損失を埋め合わせるためには、今後電気料金の見直しは避けられないと予想されています。
韓国のエネルギー政策
韓国の前大統領である文在寅(ムン・ジェイン)氏は、2017年の大統領選挙時、「脱原発」を公約として掲げました。
当選後は原発政策を全面的に見直し、原子力発電頼りの発電政策を取りやめ、LNG(液化天然ガス)や再生可能エネルギーによる発電を主力とする方針を発表しました。
それに加えて新規原発の建設計画を白紙化するとともに、環境汚染の一因となっている石炭火力発電所の新規建設も全面中止しました。
また、2017年に策定された「第8次電力需給基本計画」は、原子力や石炭火力による発電を段階的に停止していく一方、太陽光や風力などの再エネ発電設備を大幅に拡大するなど、エネルギー転換を推し進める内容となっています。
しかし任期終了を目前に控えた2022年2月末、文氏は今までの脱原発政策から一転して「原発は今後60年間主要エネルギーとして活用すべき」と述べました。
これは、2022年2月24日に開始したロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機を懸念しての発言だと考えられていますが、今までの主張との差に韓国国内からは戸惑いの声が挙がりました。
そして2022年3月9日に行われた大統領選で当選した尹錫悦(ユン・ソクヨル)現大統領は、文氏が唱えてきた「脱原発政策」にかねてより反対の姿勢を取っていました。
そのため大統領就任後は、文氏が白紙化した新規原発の建設計画の再開や、原子力技術の輸出などに取り組むことが予想されています。
原発推進に取り組む理由として、尹大統領は「エネルギー資源の輸入依存からの脱却と脱炭素化の促進」を挙げています。
福島第一原発事故以降、いまだに稼働を停止している原発をいくつも抱える日本から見ると、「脱炭素化のための原発推進」というのは矛盾しているようにも感じてしまいます。
とにかく韓国の原発政策に関しては、今後も引き続き注視していきたいところです。
【おまけ】韓国特有の電気機器・設備
最後に、日本ではなかなか見かけない韓国特有の電気機器や電気設備について見てみましょう。
キムチ冷蔵庫
韓国の飲食店や家庭には、韓国人の国民食・キムチの保存に特化した冷蔵庫があるのが一般的です。
通常の冷蔵庫にキムチを保存すると、一週間足らずで味が変わってしまったり、他の食材に匂いがついてしまったりします。
一方、キムチ冷蔵庫はキムチの味を落とすことなく長期間保存することができるうえに、匂いも発しにくい構造となっています。
キムチ冷蔵庫を使った場合、新鮮なキムチであれば4~5ヶ月保存することも可能です。
近年では、日本でもキムチ冷蔵庫を購入する人が増えているようです。
オンドル
オンドルは、朝鮮半島で古くから親しまれている床暖房設備です。
地理的に近いとはいえ、冬は日本の比でない寒気に見舞われる韓国では欠かせない存在です。
本来はかまどを熱した際に出る煙を、床下を通して煙突から出すのが伝統的な形式ですが、現代ではガス式や電気式のオンドルが多く普及しています。
まとめ
日本に似ている点が多々ありながら、全く異なる点もある韓国のエネルギー事情について見ていきました。
隣り合う国同士、今後もエネルギー分野に限らず良い影響を与え合える存在でありたいですね。
参考URL:韓国のエネルギー事情とエネルギー政策(日本電子力研究開発機構)
参考URL:世界の電力事情 日本への教訓【韓国編】(電力中央研究所 社会経済研究所)
参考URL:韓国電力「電気料金値上げしなければ巨額の追加損失」(韓国経済新聞国際版)
参考URL:文大統領、原発は「主力電源」、突然の変心に業界あぜん(韓国経済新聞国際版)
参考URL:韓国大統領選の最大野党候補「世界一の原発大国目指す」仏も脱原発撤回(聯合ニュース)