途上国では食糧難に苦しむ人々がいる一方で、先進国では食品ロス問題が懸念されるなど、今世界では食糧問題が複雑化しています。 そんな中、あらゆる食糧問題を解決する方法として今広まっているのが「フードテック」です。
今回は、フードテックが注目されている理由や、具体的な取り組み例などについて解説していきます。
フードテックとは
「フードテック」は、食(Food)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。
ICTやIoTといった最先端のIT技術を駆使して、食に関するさまざまな問題を解決していく取り組みを指しています。
フードテックによって生み出された最先端技術には、次のようなものがあります。
・人工肉…大豆やグルテンを使って人工肉を作る技術
・細胞培養…動植物の食べられる部分の細胞を取り出し、培養肉などを作る技術
・新食材…昆虫やプランクトンなどを使用して新たな食材を生み出す技術
・陸上養殖…陸地のプラントで魚を養殖する技術
・アップサイクル…食品残渣から新たな食品やモノを生み出す技術
・スマート農業…AIやIoTを駆使して効率化した農業技術
これらはすべて、従来では実現不可能だと思われていた技術です。
しかし近年では食に関するさまざまな現場に、実際に導入され始めています。
フードテックを活用した具体的な取り組み例については、後程詳しく解説します。
今フードテックが注目される理由
食糧不足への懸念
「世界人口白書2021」によると、最新の世界人口は78億7500万人となっており、10年前の2011年より8億人以上増加していることが分かっています。
さらに2030年には、85億人以上に達すると予想されています。
人口増加に伴って懸念されているのが、深刻な食糧不足です。
地球上に住むすべての人々が豊かな食生活を送るためには、十分な食糧生産量を確保する必要があります。
しかし、気候変動による台風、干ばつ、平均気温の上昇、また近年進む農家の高齢化などによって、農作物などの収穫量は今後増えるどころか減るのではないかと懸念されています。
フードテックはこれらの懸念事項を、生産量増加や生産性向上といった方法で解消すると期待されています。
飢餓問題の深刻化
前述したように、世界では今後の人口増加に伴う食糧難が懸念されていますが、アフリカやアジアの途上国などでは、既に多くの人々が飢餓に苦しんでいます。
国連によると、現在飢餓に苦しむ人は世界に8億人以上いることが分かっています。
それでも、ここ数年の飢餓人口は減少傾向にあったものの、2020年に新型コロナウイルスによるパンデミックが発生して以降は、再び増加傾向に転じています。
飢餓問題が発生する大きな原因としては、貧困問題が挙げられます。 極度の貧困状態に陥ると、農家では生産能力が落ち、そんな中でわずかに生産された食糧には高い値段がつくため、その地域に暮らす多くの人は食糧を買うことができなくなります。
また、貧困状態では食糧の貯蔵設備を整えることも難しいため、農家の人々は泣く泣く傷んだ作物を廃棄せざるを得ない状況にあります。
このような飢餓問題を解決するためには、フードテックを活用した「安価で栄養豊富な食糧の開発」、そして「食糧を長期保存できるシステムの構築」が必要だと考えられています。
フードロスの増加
前述したように、途上国では多くの人が飢餓に苦しんでいる一方で、先進国ではフードロス(食品廃棄)問題が深刻化しています。
スーパーや飲食チェーン店における大量生産に対し、消費者側も平気で食品を食べ残し、廃棄する傾向にあることが指摘されています。
平均収入が高く、消費量も多い先進国に大量の食糧が供給されるのはある程度仕方のないこととはいえ、それが食糧を無駄にして良い理由とはなりません。
また、大量の食料を廃棄するためには莫大な資源とコストがかかるため、環境や経済への影響も懸念されています。
アンバランスな世界の食糧状況を正すためにも、そして環境に配慮するためにも、今フードテックの活用が期待されているのです。
菜食主義や健康志向への対応
畜産業における環境汚染リスクに対する批判や、動物愛護を唱える声の高まりを受け、近年では菜食主義を選択する方が増えています。
一口に菜食主義と言っても、「肉は食べないけど魚や卵は食べる」という人もいれば、植物性食品のみを口にする「ヴィーガン(完全菜食主義)」を実践する人もいます。
主義を貫くことは自由であり、尊重されるべきことですが、特にヴィーガンの場合は極端な食事制限を行ってしまうと、自身の健康を損ねてしまうおそれがあります。
しかしフードテックの導入によって、大豆ミートをはじめとした植物由来の代替肉の普及が進めば、菜食主義の方でもしっかりタンパク質を摂取することができます。
また、近年では健康に対する意識が高まっており、「忙しい中でも効率的に健康的な食事をとりたい」と思う人が増えています。
この要望に応えるべく、フードテック業界では手軽に食べられる完全栄養食の開発も進んでいます。
フードテックの具体的な取り組み例
マルコメの「ダイズラボ」
味噌や糀を扱う食品メーカー「マルコメ」は、大豆を使用した代替肉を扱う「ダイズラボ」シリーズを開発・販売しています。
シリーズ商品にはレトルトタイプや乾燥タイプなどがあり、バリエーション豊かなラインナップを展開しています。
本物の肉に比べて脂質、糖質、カロリーが抑えられているため、ベジタリアンやヴィーガンだけでなく、ダイエット中の方にも嬉しい商品となっています。
無印良品の「コオロギチョコ・せんべい」
家具や雑貨を扱う大手メーカー「無印良品」は、徳島大学と連携して「コオロギチョコ」と「コオロギせんべい」を開発しました。
コオロギが選ばれたのは、飼育が容易で成長が早く、また雑食なことから食糧危機やフードロス対策に貢献すると考えられたためです。
また、コオロギは鶏肉、豚肉、牛肉に比べて圧倒的にタンパク質が高いため、栄養豊富な新食材としても注目されています。
なおコオロギチョコとコオロギせんべいにはどちらもコオロギパウダーが使われており、全くコオロギを感じさせない美味しい仕上がりとなっています。
Uber Eatsの「フードデリバリー」
2020年の新型コロナウイルス以降、日本では急速にデリバリーサービスが普及しました。
そんなデリバリーサービスの先駆的存在である「Uber Eats(ウーバーイーツ)」もまた、フードテック技術の一つです。
電話で直接特定の飲食店に配達を依頼する従来の出前システムとは違い、ユーザーがスマホの画面で複数の飲食店から1つの店を選択し、配達員とマッチングするシステムは、コロナによって外食自粛を強いられた人々にとっての「食のニューノーマル」となりました。
BASE FOODの「完全栄養食品」
日系フードテック企業の「BASE FOOD(ベースフード)」は、「かんたん」「おいしい」「からだにいい」のすべてを叶える完全栄養食づくりに取り組んでいます。
現在発売されている「ベースブレッド」と「ベースパスタ」には、26種のビタミンやミネラル、タンパク質、食物繊維など、体に必要な栄養素が豊富に含まれています。
忙しい毎日でも、美味しくて体に良いものをとりたいという人にオススメです。
デイブレイクの「特殊冷凍機」
フードテック系のスタートアップ企業「デイブレイク」が開発した特殊冷凍機(急速冷凍機)は、食材や料理をとれたて、作り立ての状態で冷凍、保存することができます。
この技術によってフードロスの削減や、飲食店経営の効率化が実現しています。
日清と東大による日本初の「食べられる培養肉」
日清食品と東京大学の研究グループは、2017年より共同で「培養ステーキ肉」の研究を行っています。
そして2022年3月、遂に日本で初めて「食べられる培養肉」の作製に成功しました。
今後は、この培養肉の実用化に向けた取り組みが進められる予定です。
まとめ
ウーバーイーツやベースフードなど、いまやフードテックは私たちの生活にごく自然に浸透していることが分かりましたね。
今後はフードテックを通して、食の多様化もより一層広がっていくことでしょう。
参考URL:世界人口白書2021(国連人口基金)
参考URL:ダイズラボ(マルコメ) 参考URL:BASE FOOD公式サイト
参考URL:デイブレイク公式サイト
参考URL:研究室からステーキをつくる。(日清食品)