2022年5月9日、国連専門機関の世界気象機関(WMO)は、「今後5年間のうちの少なくとも1年間、世界の平均気温が一時的に1.5°C上昇する可能性がある」と警鐘を鳴らしました。
この「1.5℃」という数値は、温暖化対策に向けた国際的な枠組み「パリ協定」が目標に設定している気温上昇の閾値(いきち)です。
2015年に採択されたパリ協定では、産業革命前からの気温上昇を2℃未満に保ち、できる限り1.5℃以内に抑えることを目標としています。
これに対し、「たった1年間、それも1.5℃の上昇で済むなら問題ないのでは?」と思ってしまいそうになりますが、実際にはたった1年間気温が1.5℃上昇するだけでも、地球環境は深刻な影響を受けることが分かっているのです。
それでも1.5℃で留まればまだ良い方で、さらに2℃を超えた場合、人間や他の生物が被る影響はますます過酷なものになると懸念されています。
気温上昇を1.5度以下に抑えるためには、2030年までに世界全体のCO2排出量を2010年からほぼ半量まで減少させ、2050年までに実質的にゼロにする必要があります。
しかし、2022年2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始したことで、世界では「脱ロシア依存」に向けて化石燃料インフラを増やす動きが相次いでおり、パリ協定の達成自体が困難になりつつあるのが現状です。
今回は、世界の平均気温上昇が1.5℃の場合と2℃の場合で、環境に及ぼす影響はどう変わるのかについて解説していきます。
まずは現在の年平均気温を知ろう
気象庁が発表している「世界の年平均気温偏差の経年変化(1891~2021年)」によると、2021年の世界の平均気温は過去30年間(1991~2020年)の基準値に比べ、+0.22℃上昇しています。
これは統計を開始した1891年以降、6番目に高い数値です。
さらに産業革命以前(1850~1900年)の水準から比べると、世界の年平均気温は約1.1度上昇していることが分かっています。
気象庁によると、世界の年平均気温は様々な変動を繰り返しながら上昇しており、長期的には100年あたり0.73℃の割合で上昇しているそうです。
特に1990年代半ば以降は、高気温を記録する年が増加していることが分かっています。
これに対し専門家たちは、「ここ数十年、過去に例を見ないペースで気温が上昇している」と語っています。
1℃上がったところで大きな変化はないように思えますが、気温はたった0.5℃上がるだけでも、地球環境に重大な影響を及ぼします。
気温上昇による影響として最も分かりやすい例は、異常気象の増加です。
2021年だけでも、中国、南アジア及びその周辺、ヨーロッパなどで記録的な豪雨が降り、多くの人々が命を落としました。
また同じ年の夏、カナダやアメリカでは50℃近くの高温が記録され、ここでも多くの人々が犠牲になりました。
この記録的な猛暑によって犠牲になったのは人間だけでなく、海では10億匹もの生物が命を落とした可能性があると推測されています。
2021年はこの他にも、グリーンランドでの氷床大規模融解、地中海地域やシベリアでの山火事、ブラジル各地での歴史的な大干ばつ等が確認されました。
日本でも、8月に異例の長雨が発生し、各地で河川の氾濫が相次ぎました。
これらの異常気象の増加は、気温上昇と決して無関係ではないと考えられています。
1.5℃、2℃の気温上昇がそれぞれ環境に及ぼす影響
気候への影響
前述した世界各地の異常気象は、産業革命前に比べて気温が1.5℃、2℃と上がった場合、より増加し、広範囲に甚大な被害を及ぼすことが懸念されています。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人類が気候変動を進めなければ10年に1回発生するような極端な猛暑は、気温が1.5℃上昇した場合は10年に約4回、2℃の場合は約5~6回に増えるおそれがあると指摘しています。
さらに、産業革命以前に比べて平均気温が4℃上昇した場合、極端な猛暑が発生する頻度は10年に約9回まで高まる可能性も示されています。
平均気温が上昇すると、海や地面から蒸発する水分が増加し、大気中により多くの水分が含まれるようになるため、大雨が発生する頻度も高まります。
大気が含むことのできる水蒸気量は、気温が1℃上昇するごとに約7%増加するため、1.5℃、2℃と上昇すれば、世界各地で今まで以上に激しい豪雨が発生することは想像に難くありません。
一方で、水分を大気に奪われた地面では、過酷な干ばつが発生するおそれがあります。
海洋環境・雪氷圏への影響
気温上昇によって最も深刻な影響を受けるのが、海洋環境や雪氷圏です。
これらの地域において、気温の上昇幅が1.5℃か2℃かは非常に大きな違いです。
もし気温上昇を1.5℃で食い止められれば、現在融解が続いているグリーンランドや南極地方西部の氷床の大半を、辛うじて崩壊から防ぐことができます。
これが実現すれば、2050年までの海面上昇を約30㎝以内に抑えることにもつながります。
とはいえ、それでも広範囲に及ぼす影響は大きく、海岸線の後退によって小さな島国や沿岸部の都市は水没してしまうかもしれません。
しかし、もし気温上昇を食い止められず2℃を突破した場合、氷床の大半が崩壊し、海面上昇は10mを超える可能性が生まれるなど、1.5℃以上に過酷な状態に陥る可能性があります。
また、気温が1.5℃上昇した場合、サンゴ礁は少なくとも半数以上失われますが、2℃上昇した場合には、99%以上が失われると推測されています。
そうなれば海の生態系も破壊され、海洋環境はさらに悪化の一途を辿ってしまうことになるでしょう。
森林・植物・農作物への影響
気温上昇は森林、植物、農作物にも影響を及ぼし、その影響は巡り巡って様々な問題を引き起こします。
既に気温上昇による干ばつによって、世界各地の穀倉地帯や農場では作物が不作になる事態が相次いでいますが、気温が1.5℃、2℃と上昇した場合、さらに多くの地域で農作物の収穫量が激減すると考えられています。
こうなると、世界中で食糧価格が急騰し、食糧難に陥る国や地域が今以上に増えてしまうおそれがあります。
また、気温上昇によって地面が乾燥すると、森林火災が発生するリスクが高まります。
気温上昇幅が1.5℃の段階であれば、まだそのリスクを抑えることができますが、2℃上昇した場合には、世界各地で大規模な森林火災が頻発すると考えられています。
こうして多くの森林が失われてしまうと、多くの野生生物が棲み処を失います。
野生生物の中には感染症の病原体を持った生物もいるため、棲み処を失ったことによって人間と接触する機会が増えると、感染症が拡大するリスクも増大します。
気温が2℃以上上昇した場合、何が起こる?
世界が直面している気温上昇の危機は、地球が「臨界点」を迎えるリスクそのものでもあります。
臨界点を迎えた瞬間、地球は連鎖的な環境破壊のスパイラルに陥り、もはや後戻りできない状態になると考えられています。
臨界点が訪れるはっきりとした時期はまだ不明ですが、私たちが今、気温上昇を防ぐか否かの岐路に立っていることだけは確かです。
国連環境計画(UNEP)は2021年10月、各国が掲げる温室効果ガス削減目標が達成されても、今世紀末には産業革命以前から比べ、世界の年平均気温は2.7℃上昇する見込みであることを示しました。
パリ協定で定めた通り、できる限り1.5℃に抑えようとはしているものの、今の状況では難しいのが現状です。
2021年11月には国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が、「COP26で各国が打ち出した温室効果ガス削減目標が達成されれば、気温上昇は1.8℃に抑えられる」との見解を示しましたが、これには疑問を呈す声も上がっています。
そもそも、ロシアのウクライナ侵攻のように予期せぬ国際情勢の揺らぎも発生するため、各国が示した公約が果たされるかどうかも不透明です。
もしUNEPが発表したように、世界の平均気温が2.7℃上昇すれば、熱帯及び亜熱帯地域は、1年に何度も「日常生活が困難になるほどの猛暑」に襲われると推測されています。
さらに生態系や食料安全保障の崩壊など、もはや人の力では対応しきれない事態に陥るおそれがあります。
気温上昇を防ぐためにはどうするべきか、もはや政治家や科学者だけでなく、地球に暮らす全員が考えるべき段階に来ていると言えるでしょう。
まとめ
世界の年平均気温の上昇は、私たちが想像していた以上に深刻なことが分かりました。
少しでも気温を上げないためには、使っていない部屋の電気は消す、家電を省エネモデルに買い替えるなど、ささやかに見える一人一人の行動が重要になってきます。
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参考:海面水温の長期変化傾向(日本近海)-気象庁
参考:COP26で表明の取り組み、達成なら気温上昇1.8度に=IEA-ロイター
参考:気温2・7度上昇、パリ協定の目標達成には「努力を倍加」 国連報告書-産経新聞
参考:気温1.5度上昇、10年早まり21~40年に IPCC報告書-日経新聞