ここ十数年で、太陽光発電システムの普及は飛躍的に進み、住宅はもちろんオフィスビルや工場等にも設置されることが増えてきました。
そんな中、再生可能エネルギーの普及に一役買うのはもちろん、教育にも良い影響を与えるとして、近年では学校施設へ太陽光発電システムを導入する事例が増えています。
そこで今回は、太陽光発電システムを学校に導入する具体的なメリット、実際の導入例などについて解説します。
学校に太陽光発電システムを導入するメリット
環境教育の推進
太陽光発電は、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーとして、地球環境の改善に大きく貢献しています。
そんな学校に太陽光発電システムを導入することで、子供たちはソーラーパネルを観察する、触ってみるなどの体験を通し、環境問題の深刻さや資源の大切さについて深く学ぶことができます。
そして、このような環境教育の機会を設けることは、持続可能な社会づくりに貢献する人材への成長を後押しすると考えられています。
防災機能の強化
大規模地震などの自然災害が発生すると、その衝撃によって電力会社からの供給が停止することがあります。
しかし、太陽光発電システムと蓄電池を合わせて設置しておけば、蓄電池に蓄えておいた電気を活用することができます。
学校の場合、自然災害の発生時には避難所として開放されることが多いため、太陽光発電システムと蓄電池を併用することで、いざという時でも地域住民の暮らしを最低限守ることができるでしょう。
電気代削減
文部科学省によると、太陽光発電システム20kWを導入することで、学校1校あたりの年間電力需要をおよそ12~27%削減できることが分かっています。
これは、年間およそ25万円前後電気代を削減できることになります。
また、もし全国すべての公立小中学校(約3万6千校)に太陽光発電システムを設置した場合、年間なんと90億近くの電気代が削減できると考えられています。
CO2削減
文部科学省によると、太陽光発電システム20kWを導入することによる学校1校あたりのCO2削減量および削減率は、以下のようになります。
削減量…年間およそ10~13トン
削減率…寒冷地およそ2~9%、温暖地およそ14~17%
このうち削減量に関しては、東京ドーム1個分の面積の森林によるCO2吸収効果に相当します。
また、学校1校あたりの1日の発電量はおよそ50~63kWhとなっており、これは8~10室の教室で1日の授業の間に蛍光灯を点灯するための電気使用量に相当します。
そして、もし全国すべての公立小中学校(約3万6千校)に太陽光発電システムを設置した場合、年間発電量はおよそ7億6千万kWhとなり、これは一般家庭およそ22万軒分の電気使用量に相当すると考えられています。
学校への太陽光発電システム設置パターン
屋上設置型
屋上が水平になっていることの多い校舎では、屋上にソーラーパネルを並べる「屋上設置型」が一般的です。
この場合、屋上の面積を活かして沢山のソーラーパネルを設置できる、ソーラーパネルによって遮熱効果が生まれるなどがメリットとして挙げられます。
一方で、校舎の立地によっては架台で傾斜をつける必要がある、さらには架台を固定するための基礎工事が必要になる場合もあるといったデメリットもあります。
また、地域や季節によっては落雷や積雪の可能性を考慮する必要があります。
壁設置型
「壁設置型」は、建物の側壁にソーラーパネルを設置するタイプです。
屋上設置型に比べ、落雷や積雪による故障リスクが低くなる点がメリットです。
ただし、側壁に貼り付けることでパネル面が垂直になるため、直射日光が入りにくく、場合によっては発電効率が思ったよりも上がらない可能性があります。
勾配屋根設置型
「勾配屋根設置型」は、体育館の屋根や比較的古い校舎の屋根など、傾斜がある屋根面にソーラーパネルを設置するタイプです。
屋上設置型のように架台の必要がなく、方角によっては高い発電効率を発揮する点がメリットです。
しかし逆に言えば、設置前に方角を慎重に確認しないと、発電効率を存分に発揮できない場合があります。
また、勾配屋根に直接貼り付けるため、場合によっては建物全体の色や材質にも考慮する必要があります。
ひさし型
「ひさし型」は、校舎の窓や出入口の上部などに設置されている「ひさし」にソーラーパネルを設置する、あるいはソーラーパネル自体を金具を使ってひさしのように設置するタイプです。
メリットとしては、遮熱・遮光効果がある点が挙げられます。
一方で、メーカーによってサイズが異なり、場合によっては特注品となる可能性があるため、他の設置タイプに比べてコストが割高になりがちです。
ルーパー型
「ルーパー型」は、校舎の窓や開口部にブラインド状にソーラーパネルを設置するタイプです。
その名の通りブラインド機能を有しており、遮熱・遮光効果がある点がメリットとして挙げられます。
一方で、ひさし型同様に特注品となることが多いため、他の設置タイプに比べてコストが割高となる可能性があります。
実際の導入例
埼玉県熊谷市
2001年に「熊谷市地球温暖化対策実行計画」を策定した埼玉県熊谷市では、2007年より市内の全小学校(30校)に「太陽光発電照明灯)」を1基ずつ設置しています。
また2009年には、市内の小中学校のうち3校の体育館に太陽光発電システムを設置しました。
なお、太陽光発電照明灯や太陽光発電システムによる発電量を表示するモニターは、敢えて目につきやすい校舎の入り口付近等に設置することで、児童生徒が「本日の発電量」や「CO2削減量」を気軽にチェックできるようになっています。
また、これによって児童生徒への環境教育だけでなく、小中学校を訪れる保護者や地域住民に向けたCO2削減対策の啓発も促しています。
千葉県市川市
1999年に「市川市地域新エネルギービジョン」を策定したい千葉県市川市では、2000年より小中学校への太陽光発電システム導入を開始し、現在は市内の小中学校全55校のうち10校に、太陽光発電システムまたは太陽光と風力のハイブリット発電システムを設置しています。
これらの新エネルギー設備で発電した電気は、照明はもちろん、理科室の電源や池のポンプの電源等に使用されています。
また、市川市にキャンパスを構える千葉商科大学では、「自然エネルギー100%大学を目指す」という目標のもと、本館、1~6号館、体育館等を含む計11ヶ所にソーラーパネルを設置しています。
2014年からは、千葉県野田市にてメガソーラー発電所の事業運営も開始しており、これらの取り組みによって2018年度には「自然エネルギー100%大学」の実現を達成しています。
開成学園(東京都)
日本有数の進学校として知られている開成学園は、2024年完成に向け、現在大規模な校舎の建て替えを進めています。
そのうち2021年5月末に完成した新校舎は、大通りに面する一部のガラス窓に太陽電池が組み込まれています。
この設備を実現したのは、大成建設とカネカが共同開発した「T‐Green® Multi Solar」という技術です。
太陽電池を挟んだガラスと特殊金属膜をコーティングした「Low-E複層ガラス」を組み合わせることで、意匠性と発電効率の両立を実現しています。
このガラス窓で発電した電気は、平常時には照明などの校内設備に使用し、非常時にはスマートフォンの充電などに使用することができます。
開成学園は、今後完成する他の棟も含め、最終的に66枚の「発電ガラス窓」を設置する予定であるとしています。
まとめ
今回は、太陽光発電システムを学校に導入するメリットや、実際の導入例などについて解説しました。
次世代エネルギーというイメージの強い再生可能エネルギーですが、これから大人になる子供たちにとっては、すでに「身近にあって当たり前な存在」となっているのかもしれませんね。
参考:学校への太陽光発電導入ガイドブック|文部科学省
参考:太陽電池パネルを園舎に設置 太陽電池パネルを園舎に設置 「エコロジー教育」と「省エネ」に大きく貢献|シャープ
参考:学校における太陽光発電導入の取組事例|文部科学省・資源エネルギー庁・環境省
参考:キャンパスの太陽光発電設備|千葉商科大学
参考:日本初、電力での「自然エネルギー100%大学」を達成|千葉商科大学