近年、銅線ケーブルの盗難事件が多発しています。太陽光発電所のケーブル線が盗まれるというニュースを目にしたことがある人も多いのではないでしょうか? そこで今回は現在増加している銅線ケーブルの盗難について、その背景や実例をもとにした対策についてお話します。
増加する銅線ケーブル盗難の背景
太陽光発電所を中心に近年広がっている銅線ケーブルの盗難事故。銅だけに絞った盗難件数のデータは見つけられませんでしたが、警視庁が発表している全国の金属盗被害認知件数を見てみると2020年が5478件、21年は7534件、22年は1万368件と急増しています。
銅線ケーブルの盗難は、被害額も甚大です。こちらに関しても統計的なデータはありませんが、盗難事件が発生するたびに県別の被害総額が報道されているのを見かけます。たとえば宮城県で今年1月から5月末までに発生した太陽光発電施設から銅線が盗まれる被害件数は31件、その被害額は1億5000万円に上っています。山梨県でも同じように5月末までに15件、およそ8000万円分の被害額が報告されています。このように太陽光発電所における銅線ケーブルの盗難は県単位で見ても被害額が大きく、全国での被害総額が莫大であることは想像に難くありません。
銅線ケーブルの盗難が増加している背景には、銅の価格高騰が大きく関係しています。銅価格の推移を見てみると、右肩上がりで高騰しているのがわかります。とくに近年はその動きが顕著です。この2~3年で銅の価格が大きく値上がりしている原因としては、大きく次の3つが挙げられます。
新型コロナウイルスによる影響
銅価格高騰の理由の一つとしてまず考えられるのは、新型コロナウイルスの感染拡大により主要な銅鉱山からの供給が滞ったことです。銅の供給が滞った半面、リモートワークの普及によりPCやタブレットなど電子機器に用いる銅の需要は激増。こうして需給バランスが崩壊したことにより銅の価格が高騰しました。
脱炭素化
現在世界中で加速している「脱炭素化」を目指す動きの中で、最も注目されている資源は銅だと言われています。原油に代わる資源となるという意見もあり、銅の二ーズが高まっていることも銅の価格高騰に拍車をかけています。
ロシアのウクライナ侵攻
2022年2月から始まったロシアのウクライナ侵攻も銅の価格高騰に大きな影響を与えています。世界有数のエネルギー大国として知られるロシアは、銅の生産国としても知られています。ウクライナに侵攻したロシアに対して西欧諸国が経済制裁を行ったことをきっかけに、エネルギー価格と共に銅の価格も高騰しました。
こうして銅の価格が高騰したことをきっかけに、太陽光発電所を中心とした銅線ケーブルの盗難事件が増加しているのです。
太陽光発電所が狙われやすい理由
銅線ケーブルが盗まれている現場で最も多いと言われているのが、太陽光発電所です。太陽光発電所は銅線ケーブルが多く使われているうえ、郊外で人目につきにくい場所が多いため狙いやすいと考えられています。
また、太陽光パネルとは異なり銅線ケーブルは追跡が困難です。スクラップ業者に銅線を持っていけば容易に現金化できるため、盗難の対象として狙い撃ちされているようです。
当社管轄の発電所における盗難事例
実際に当社管轄の発電所でも盗難の被害が多発しています。こちらは、銅線ケーブルが合計6回盗難された発電所です。
ソーラーパネルから電気を送るための銅線ケーブルが切断されています。
分電盤をあけてみると、ブレーカーの根本ギリギリのところでケーブルが切断されているのがわかります。
このように発電所内のいたるところでケーブルが切断され盗難されているのです。
監視カメラを設置しても犯人を捕まえることは困難
この発電所では2回目に盗難被害にあった際に、対策として監視カメラを設置しました。ところが次は監視カメラごと盗難され3度目の被害に…。それならばと監視カメラを増設するも、増設した監視カメラも全て破壊され再び被害に遭いました。
そこで今度はカメラ本体とレンズが別々になったセパレートタイプの監視カメラを設置しました。レンズをこれまで通り外に設置し、カメラ本体はコンクリートの中に入れて地中に埋めておいたのです。これにより外に設置したレンズが破壊されても、地中に埋めておいたカメラ本体を回収することができれば撮影データを確認できます。そして遂に、5度目の盗難の際に犯人映像を捉えることに成功したのです。
この映像データは被害届と共に警察に提出しましたが、犯人が捕まることはありませんでした。この映像だけでは個人を特定できないと言われ、捜査さえしてもらえなかったのが現実です。その後の対策としては、最終的に銅線ケーブル自体にGPSを内蔵しました。そしてついに6度目の盗難被害に遭います。
6度目の盗難ではGPSが内蔵されているケーブルが盗難され、リアルタイムでGPS情報が動いている段階で警察に通報しました。まずは現場検証を行う必要があるとのことで最初に現場検証を行ってからケーブルを追う事になったのですが、辿り着いたのはリサイクル業者でした。盗難されたケーブルは、既にリサイクル業者に売られてしまっていたのです。GPSが発見されているので盗難されたケーブルであることは確実ですが、第三者が買い取った物という理由で返してもらうこともできずとても悔しい思いをしました。犯人はいまだに捕まっていません。
このようにさまざまな対策を講じましたが、盗難被害がなくなることもなければ犯人を捕まえることもできませんでした。
盗難予防にアルミ線ケーブルを導入!
そこで現在被害にあった発電所では、銅線ケーブルの代わりにアルミケーブルを導入しています。
写真の青色のケーブルがアルミケーブルです。銅線とアルミ線では電流容量が違うため、銅線ケーブルと比べるとケーブル自体は太くなりますが、アルミ線には曲げやすいという特徴があります。
ケーブルが扱いやすい分、工事はより効率的に行うことができます。
発電所が盗難被害にあうと主要幹線がなくなるので、復旧するまで発電することはできません。また、復旧までには時間がかかります。警察の現場検証をはじめ、電気主任技術者による安全確保措置の実施や保険会社の査定、工事会社の工事計画立案などさまざまな手続きがあるので復旧工事が行われるまで数カ月かかることもあります。稼働できない間の発電機会ロスを考えると、その被害額がいかに甚大かがわかります。
当社では、盗難被害にあった発電所のケーブル修復工事も行っています。銅線ケーブルのほか、このようにアルミ線ケーブルの導入にも対応しているので、お困りの際はぜひご相談ください。