冬の終わりから初夏あたりにかけて毎年発生する黄砂ですが、外に干した洗濯物に付着したり目の中に入ってきたりと、あまり嬉しい春の風物詩とは言えませんよね。
そんな黄砂ですが、なぜ春に頻発するのか、そしてどこで一体どのように発生したかについて気になったことはありませんか?
今回は、「そもそも黄砂って一体何なの?」という基本的な部分から、人体や環境、そして太陽光発電システムなどに黄砂がもたらす様々な影響までを徹底的にチェックしていきましょう。
まずは黄砂について知ろう
黄砂とは、中国やモンゴルに位置するタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原といった東アジア内陸部の乾燥地域の砂塵(さじん)が偏西風によって上空に巻き上げられ、東アジア広範囲(日本を含む)に飛散して地上に降り注ぐ気象現象、およびその現象において飛散する砂自体のことです。
また、黄砂は主にアジアでのみ発生する現象であることから、英語圏では「アジアン・ダスト」とも呼ばれています。
黄砂自体は一年を通してしばしば発生しますが、中でもピークと言われているのが3~5月頃です。
これは、冬季の間は高気圧の影響で弱かった風が、春季は低気圧の勢力が発達することによって強まり、前述した乾燥地域を通過するためだと考えられています。
ちなみに夏以降は植物や降水量が増えるため、黄砂は一気に少なくなります。
黄砂は発生地に近ければ近いほど高濃度かつ粒子も多く、また飛来する頻度も高い傾向にあります。
そのため発生地に近いモンゴル、中国、韓国などでは、黄砂の発生が人々の生活や経済活動に多大な支障をもたらすケースが多く、黄砂への対策や防止策を打ち出すことは社会的な課題となっています。
また、大きな粒子は発生地付近で落ちるものの、小さな粒子は偏西風によって遠くまで運ばれることもあります。
実際、過去には北米大陸、グリーンランド、欧州アルプスまで黄砂が到達したとの報告もされています。
黄砂が人体に与える影響
黄砂には主成分である二酸化ケイ素、付着成分である微生物や金属などが含まれており、これらが原因となって肺や鼻の炎症を誘発し、アレルギー反応を活発化させることが分かっています。
黄砂が引き起こすとされている主な症状は、以下になります。
・咳、くしゃみ、鼻水などの呼吸器症状
・肺炎や気管支炎の発症
・目のかゆみや充血などの眼科症状
・皮膚の痒み、かぶれ、湿疹などの皮膚症状
・発熱、心疾患への影響
これらの症状は黄砂によって発症する場合もありますが、元々持っていた花粉症、喘息、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー諸症状が、黄砂によって更に悪化するケースもあります。
京都大学のとある研究グループが2005~2009年春季における富山県の入院患者データを基に進めた調査では、黄砂後の約1週間は小学生以下の喘息患者が発作により入院するリスクが1.8倍、小学生では3倍以上になったことが分かっています。
これに関しては、後に国立環境研究所が行った調査においても同様の結果が出ています。
前述したように春は黄砂だけでなく花粉なども発生するため、「春の肌荒れやくしゃみは全て黄砂のせい」とは一概に言えませんが、それでも黄砂が人体に大きな様々な影響を与えることは間違いないと言えるでしょう。
黄砂が地球環境に与える影響
人体には様々な健康被害を与えることの多い黄砂ですが、一方で地球環境には良い影響をもたらす一面もあります。
ここでは、黄砂が地球環境に与える影響の良い面と悪い面の両方を見ていきましょう。
良い影響
もし黄砂を形成する物質にミネラルが含まれていた場合は、黄砂が飛散することによって土壌や海洋へミネラルが供給され、それにより植物や植物プランクトンの生育を促進し、結果的に土壌を肥やす働きをすることがあります。
黄砂に関するとある研究では、黄砂に含まれる鉄やアルミニウムなどが、海洋のプランクトンやハワイの森林生育に貢献しているとの結果が出ています。
また、同じく黄砂に含まれる炭酸カルシウムには酸性雨を中性、またはアルカリ性に変換する中和作用があるため、酸性雨による被害軽減にも貢献していると考えられています。
悪い影響
基本的に、長年黄砂は自然が引き起こす現象であると考えられていました。
しかし、近年では人為的な森林破壊、野焼きによる土地の砂漠化または劣化などが原因で発生する黄砂が頻発するようになっています。
そのため、黄砂はいまや自然現象ではなく「国境を越えた環境問題」として認識されることが増えています。
前述したミネラルや炭酸カルシウムなど、黄砂には自然環境に良い影響を与える物質が含まれている一方で、通過する地域によっては硫黄酸化物、窒素酸化物、といった汚染物質を吸着することがあります。
これらの汚染物質の中でも特に粒子の小さいものは「PM2.5」と呼ばれ、黄砂と混ざって国や地域一帯を覆うと、その場所に甚大な大気汚染をもたらす可能性があります。
つい先日も、黄砂が中国の北京や韓国のソウルと仁川(インチョン)を襲い、それぞれの観測日において「世界最悪の空気汚染濃度」に達したことがニュースとして報じられました。
東アジア諸国においては、黄砂はもはや環境問題にとどまらない大きな社会問題となっています。
黄砂が太陽光発電システムに与える影響
もし黄砂がソーラーパネルの表面に付着した場合、単純に取り込める光の量が減少するため、多かれ少なかれ発電量は低下すると考えられます。
「でも、もしソーラーパネルの上に黄砂が溜まっても、その後に雨が降ったり風が吹けば黄砂も吹き飛ばされるでしょ?」と考える人は少なくありません。
しかしあまりにも黄砂の飛散量が多い場合は、少しの雨風では吹き飛ばず、そのままソーラーパネル上に蓄積されてしまう可能性があります。
実際2018年には、韓国・ソウル市内に設置された500近い太陽光発電システムのうち殆どが、黄砂の影響によって発電量が通常の半分以下に落ちるという事態に見舞われました。
日本は東アジア諸国の中ではまだ黄砂被害が少ないため、そのようなケースが報告されることはあまり多くありません。
それでも、特に春季はソーラーパネル上に黄砂がたまらないようマメに目視でチェックしたり、業者へ依頼して清掃を行ってもらうなどの対策を取ることをお勧めします。
まずは日常的な部分から!手軽な黄砂対策
社会面にも環境面にも様々な影響を与える黄砂ですが、やはりまず守るべきなのは自身の健康面ではないでしょうか。
ここでは、生活の中に気軽に取り入れられる黄砂対策について紹介していきます。
外出時はマスク・眼鏡を着用する
コロナ以降の新常識となりつつあるマスクの着用は、黄砂対策としても大いに効果を発揮してくれます。
マスクに併せて眼鏡やサングラスを着用すれば、喉と目に黄砂が入り込むのを同時に防ぐことができます。
洗濯物はなるべく部屋干しする
暑すぎず、寒すぎない春の晴天時はついつい外干ししたくなってしまいますが、前述したように黄砂が最も発生するのは3~5月と言われているため、この時期はなるべく部屋干しすることをお勧めします。
ちなみに部屋干し独特の生乾き臭は、洗濯物同士がくっつかないように間隔を空けて干したり、洗濯物の下に新聞紙を引いて湿気を吸い取るとある程度抑えられるため、「部屋干しはニオイが苦手でちょっと…」という場合は是非試してみてくださいね。
網戸はこまめに掃除する
網戸には黄砂だけでなく花粉も付着しやすいため、掃除せずに放置していると知らぬ間に様々な粒子を室内に取り込んでしまう可能性があります。
網戸の掃除には、「掃除機で黄砂を吸い込む」、「新聞紙で汚れを拭き取る」、「重曹を吹きかける」など様々な方法があるので、自分に合ったやり方でこまめに掃除すると良いでしょう。
まとめ
毎年のことであるがゆえに「また黄砂か~。春だなあ」と流してしまう人も多い黄砂ですが、今回のコラムによって、その影響力がどれだけ大きいものかがお分かりいただけたでしょうか。
黄砂が環境や人体に及ぼす悪影響の軽減に関する国際的な研究や対策は、現時点ではまだまだ発展途上の段階にあります。
ひとまずは黄砂によって自分の体調を崩してしまわないように、一人一人ができる範囲で対策していくことが大切だと言えるでしょう。